TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ゆうれい都とナギ

一覧ページ

「ゆうれい都とナギ」のメインビジュアル

ゆうれい都とナギ

14 - 第11話「釣りっ子の川べり」

♥

38

2025年07月11日

シェアするシェアする
報告する

第11話「釣りっ子の川べり」
川の音は、いつもよりゆっくりと聞こえた。

コトコト、と、鍋が沸くみたいな音。

ナギはその音に包まれながら、浅瀬の石に腰を下ろしていた。


足首まで水に浸かって、細い釣り竿を握る。

針にはなにもついていない。けれど、糸の先には“何か”がある気がして、目を離せなかった。


「釣れるかな」

ユキコが隣でつぶやく。


今日はうす緑のワンピース。

すそのレースは風に揺れて、膝より少し上に透けている。

けれど、その脚は──水に触れても、波紋が生まれなかった。


ナギはそのことに気づいていたけれど、何も言わなかった。


「釣れたらどうする?」

ユキコが問う。


「……わかんない。でも、ちょっとだけ、うれしいかも」


「もし、釣れたのが“前に落とした気持ち”だったら?」


「それ、いる?」


「ううん。いらないけど、返したほうがいいかなって思って」


ナギは少し笑った。

でも、目の奥では波が揺れていた。

笑ったのに、胸の奥が重かった。




竿の先が、ぴくりと動いた。

ナギはすぐには引き上げなかった。


水面に映る自分の顔が、まるで誰か別の人みたいに見えたからだ。


「あ」


糸をゆっくり巻くと、小さな瓶がついていた。

瓶の中には、文字のようなものが浮かんでいる──でも、それは読む前に、にじんで消えてしまった。


「忘れた言葉?」ユキコが聞く。


「……かも。でも、知らない人のものかもしれない」


「じゃあ、届けてあげよう。この川、どこまでもつながってるから」


ユキコは、瓶をそっと受け取る。

でも──その手から瓶が落ちる瞬間、指がふれた気がした。

ひんやりとして、風より冷たくて、でも人肌ではなかった。


「ユキコ……」


「なに?」


「わたし、ほんとうにここにいるのかな?」


「ナギちゃんは、わたしの釣り友だちだよ。それでいいんだよ」


そう言ったユキコの声は、水面の奥から聞こえたようだった。

ナギがふと目をそらすと、水面には──ユキコの姿が、映っていなかった。




風が吹いて、空の雲が流れた。

ナギのシャツの袖が濡れて、乾いて、また濡れていく。

川の音は、やさしくて、でもどこか終わっていく音だった。

ゆうれい都とナギ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

38

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚