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第144話:祭りの後の静寂。需品科の完璧なる撤収作業と、VIPたちとの別れ
十勝の地平線から、眩い朝陽が昇り始めていた。
昨夜、あれほどまでに熱狂と大爆笑に包まれていた限界集落の旧神社前広場。
そこには今、祭りの面影を残しつつも、どこか切ない静寂が流れていた。
十年ぶりの復活、数千機のドローンによる光のアート、そして一千万人もの視聴者が熱狂した伝説の夜。
その全てが終わった今、俺の前には、やり遂げた後の充実感ではなく、冷静な『後片付け』という任務だけが残されていた。
「ふぅ……。お兄さん、本当にお疲れ様でした! 今年の夏祭りは、一生忘れられない思い出になりましたよ!」
浴衣のままの小春ちゃんが、広場に散らばったゴミを拾い集めながら、清々しい笑顔で俺に駆け寄ってきた。
俺は首に巻いたOD色の手ぬぐいで汗を拭い、目の前にそびえ立つ五メートルの巨大やぐらを見上げた。
「……感傷に浸るのは後だ。祭りの基本は、撤収までが祭りだ。ここを完璧な状態へ戻すまでが、需品科の仕事である」
俺は即座に、持参したコンテナと清掃用具のチェックリストを確認した。
「コン吉、コン次郎! 広場内の小石と枝葉を完全に除去しろ。シロ、上空からの視覚補正支援を頼む」
「キュンッ!(了解!)」
「ミャウ(ええ、任せなさい)」
シロの一鳴きと共に、キツネ兄弟が凄まじい速度で広場を駆け巡り、ゴミを分別して回収していく。
かつては野生の王者だった巨大ヒグマも、今日はまるで熟練の作業員のように、巨大な柱を一本一本丁寧に解体し、元の森の境界線へと戻していく。
俺は、複雑に組み上げられた丸太を、ロープワークの逆順で瞬時に解いていく。
釘を使わない建築は、撤収もまた早い。
ジンバルにセットされたiPhone miniの向こうで、一千万人のリスナーが見守る中、広場は驚異的な速度で元の姿へと戻っていった。
『仕事が速すぎるww』
『祭りの撤収作業までミリタリー仕様かよ!』
『ヒグマの片付け能力、プロの解体業者を超えてるだろww』
『主、あんたが一番の祭り好きだったんじゃないか?』
世界中のVIPたちもまた、そのプロフェッショナルな撤収作業に、最後まで感嘆の声を漏らしていた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master, your logistic discipline is the true art of this festival!“(主よ、君の兵站規律こそが、この祭りの真の芸術だ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”I learned that true management is the ability to return to zero. I respect you, Akiya!“(真の経営とは、ゼロに戻す能力だと学んだ。尊敬するぞ、アキヤ!)』
作業開始からわずか二時間。
限界集落の広場は、祭りが始まる前よりも美しく、完璧な整地状態へと戻っていた。
「……完了だ。陣地の現状復帰、確認」
俺が最後のゴミ袋をトラックに積み込んだその時、広場の入り口に黒塗りのマイバッハが静かに停車した。
中から降りてきたのは、法被を脱ぎ捨て、いつもの最高級スーツに着替えた石油王と銀行家だった。
「マスター。……本当に、素晴らしい夢を見せてもらった」
石油王が、俺の前に立ち、深々と頭を下げた。
先ほどまで屋台で「ケバブ!ケバブ!」と叫んでいたオヤジの面影はそこになく、世界を動かす重厚な風格を漂わせている。
「君のこの限界集落には、カネでは買えない価値がある。……十勝のこの風と、君のストイックな生き様。我々は、この祭りで大切なものを思い出したよ」
銀行家もまた、静かに頷く。
「これほどの平和は、世界中のどこを探してもない。君たちが守り抜いたこの『聖域』を、我々も陰ながら投資という形で守り続けていくことを約束しよう」
彼らは、SPたちの待つ車列に戻る直前、俺の方を振り返り、悪戯っぽく笑った。
「来年の夏も、また屋台のオヤジをやりたいんだ。予約はできるかな?」
「……先着順だ。だが、需品科の指示に従うのなら考慮しよう」
「ハッハッハ! 望むところだ!」
黒塗りの車列が、砂埃を立てて去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、俺はいつも通りのストイックな顔で、持参したタッパーを開けた。
中身は、祭りの残りの具材を再利用した『玄米と大豆ミート、山菜の炊き込みご飯』だ。
「お兄さん! 祭りの最後くらい、大富豪さんたちと握手して感動のフィナーレを演出したらどうですか!?」
小春ちゃんが、祭りの後片付けで汚れた顔を拭いながらツッコミを入れる。
俺は、静寂を取り戻した広場で、大豆の優しい香りがする炊き込みご飯をストイックに咀嚼した。
「当然だ。祭りが終わったからといって、指揮官が栄養補給を怠ってはならない。撤収作業という重労働の後にこそ、筋肉の回復を促す栄養補給が必要なのだ」
俺は冷たいほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私がVIPたちとの感動的な別れを演出せず、淡々と後片付けをこなしてご飯を食べていることを、冷酷だと思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『最高のフィナーレで、まだ言い訳する気か!!!』
『主の限界言い訳タイム・撤収作業編ww』
『さあ、この感動的な別れをどう論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、別れを惜しむ感動的なシーンなどではありません。祭りの後の広場には、多量の食用油や火薬の燃えカス、そしてVIPたちが撒き散らした黄金の粉末などの『汚染物質』が残されています。これらを早急に撤収・清掃しないと、十勝地方の生態系に多大な悪影響を及ぼし、俺の陣地の地価が暴落するリスクがあるのです。私はただ、自身の資産価値を守るために『有害物質の速やかな除去』を行っているだけ。ええ、すべてはただの『土地の環境維持活動』に過ぎません」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、祭りで余った『巨大な紅白の垂れ幕』を広げ、俺の背中に完璧なクリーンアップ・スマッシュを見舞った。
「汚染物質ってなんですか!! VIPさんたちが置いていった金箔を環境破壊認定しないでください!! どう見たって大富豪さんたちとの友情と、お兄さんの誠実さが生んだ最高の感動的なラストシーンでしょうが!! 素直に『いい仲間に出会えた』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの垂れ幕スマッシュ炸裂www』
『有害物質(世界最高級の純金箔)』
『土地の環境維持活動(お祭りの撤収作業)』
『適応力バグおじさん、ついに友情さえも環境保護活動のせいにするww』
『言い訳がひどすぎて、感動の涙がまた爆笑に変わったわww』
俺の理不尽極まりない環境工学的な言い訳と、小春ちゃんのキレキレのツッコミに、感動の余韻に浸っていた一千万人を超える視聴者たちは、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく……最後まで素直じゃない、愛すべき下僕ね)』
シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細め、俺の胡座の上で満足げに喉を鳴らし、広場に吹き抜ける心地よい風を浴びている。
キツネ兄弟も、ヒグマも、祭りの後の心地よい疲れの中で、平和な朝を謳歌していた。
「……まぁ、理由はどうあれ。みんなが無事で、広場がきれいになったなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、十勝の清々しい青空を見上げた。
激務に潰されて逃げ込んできたこの限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、そして一千万人のリスナーたちに囲まれた、世界一バグった聖域になってしまった。
ハリウッドの奇跡も、石油王の友情も、すべてを飲み込んで、俺たちの『限界集落ライフ』は、今日も元気に、淡々と、そして最高に笑える日常へと力強く続いていくのだった。
ゆうき あきや
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ゆうき あきや
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キュルノ
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コメント
1件
お疲れ様です、あおいです。 第144話、読ませていただきました。祭りの熱気が嘘のような静けさの中、需品科の撤収作業がまた美しいですね…。石油王たちとの別れも、決して大げさにならず、でも確かに通じ合った空気が伝わってきてじんわりきました。最後の言い訳タイム、環境保護活動とか言い出した瞬間に吹き出しました(笑)。“有害物質(金箔)”のくだり、小春ちゃんのツッコミも清々しくて、読後感が本当に爽やかでした。お疲れ様です、次の日常も楽しみにしていますね🌷