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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第145話:世界を揺るがした夏祭りの結末。爆売れする夏野菜と、限界集落の完全勝利
伝説の夏祭り『オペレーション・フェスティバル』の完全撤収から、二日が経過した。
十勝の地平線からは、今日も遮るもののない、どこまでも青く清々しい夏の空が広がっている。
古民家の縁側では、純白の神獣シロ様が「冷感マイナスイオン」を微弱モードで放ちながら、お気に入りの座布団の上で優雅に朝寝を貪っていた。
その横では、キタキツネのコン吉とコン次郎が、お祭りの楽しかった余韻に浸るように、縁側の下で小さな前足をパタパタと動かして眠っている。
巨大ヒグマにいたっては、裏山の定位置で「グルォォ……(祭りの後はよく眠れるぜ)」と、大地を揺らすような地響きを立てて爆睡していた。
俺はいつもの折りたたみチェアに深く腰掛け、完璧な温度管理をされたほうじ茶をゆっくりと啜っていた。
嵐のような狂騒が去り、ようやく元社畜にふさわしい、静かでミニマルな日常(ロジスティクス)が戻ってきた。
そう、思った瞬間のことだった。
バァァァァァンッ!!!!
「お、お兄さぁぁぁぁぁんっ!!! 大変です! 大変なことになりましたぁぁぁっ!!!」
古民家の玄関引き戸が、建付けの限界を試すような勢いで叩き開けられた。
飛び込んできたのは、息を激しく切らし、両手にタブレットと大量の印刷用紙を抱えた小春ちゃんだった。
そのいつもの夏服で髪を振り乱した姿は、完全に『前線基地のパニック伝令兵』のそれである。
「落ち着け小春ちゃん。敵の奇襲か? 通信回線の物理的な切断か?」
「違います! ニュースです! 世界中の主要ニュースサイトが、一斉にうちの夏祭りをトップで報道してるんです!!」
小春ちゃんが、興奮で真っ赤になった顔でタブレットの画面を俺の目の前に突きつけてきた。
画面に表示されていたのは、アメリカの『CNN』、イギリスの『BBC』、そして世界的な経済紙である『ロイター』のトップページだった。
そこには、巨大な太字でこう書き連ねられていた。
『【日本の奇跡】過疎の限界集落に、世界最高峰のフェスティバルが復活! 同接一千万人を記録した、神獣と大富豪たちの夜!』
『【現代のファンタジー】二足歩行で盆踊りを踊るヒグマと、世界一美しいドローンアート。全人類が涙した聖域の全貌!』
『【経済のバグ】ドバイの石油王とスイスの銀行家が、日本の田舎で屋台のオヤジに変装。動いた経済効果は測定不能!』
「……ほう。随分と大げさに書き立てられたものだな。大手メディアともあろう組織が、地方の小さな親睦会をここまで誇大広告するとは、国際ジャーナリズムの劣化を懸念せざるを得ないな」
俺が至極冷静にほうじ茶を啜ると、小春ちゃんは「誇大広告じゃないですよ!」と叫んで、今度は大量の印刷用紙をローデスクの上にドサッと叩きつけた。
「問題はその先です! 祭りの配信中、画面の隅にリンクを貼っておいた『限界集落・特設直売ECサイト』があるじゃないですか! あそこに、世界中から文字通り『天文学的な数の注文』が殺到してるんです!!」
「注文だと?」
「はい! 村の特産品である、今が旬の『十勝産夏芽アスパラガス』と『ゴールドラッシュ(トウモロコシ)』、それにおばあちゃんたちの手作り漬物セットが……一瞬で、全部爆売れしました!」
小春ちゃんが提示したデータシートを、俺の需品科としての冷徹な事務処理センサーがスキャンする。
『注文確定:アスパラガス(特級)……50万箱』
『注文確定:プレミアムトウモロコシ……80万セット』
『注文確定:村のおばあちゃんの手作り極上漬物セット……30万樽』
『現在、世界中からのアクセス過負荷により、決済システムが一時停止中』
「ア、アキヤ君……! 助けておくれ、アキヤ君……っ!!」
さらに、広場の向こうから、今度は村長が今にも心停止を起こしそうな顔で、ヨロヨロと古民家の庭に駆け込んできた。
「……村長? どうしました、バイタルが危険域ですよ」
「アキヤ君……! たった今、役場の職員から連絡があってね……! 村の公金口座に、世界中の見たこともない海外の銀行から、信じられない桁のカネが……、もの凄い勢いで振り込まれ続けているんじゃ……っ!」
村長は、あまりの衝撃にガタガタと膝を震わせ、その場にヘタリ込んだ。
「ドバイの石油王さんと、スイスの銀行家さんがね……『この聖域の最高級野菜を、我々のロイヤルファミリーと全顧客の記念品として全量買い占める! 予算に上限はない!』って言って、数億円規模の先払金(デポジット)を勝手に一括入金してきたそうなんじゃ……!」
「なっ……!?」
小春ちゃんが、開いた口が塞がらないという顔で絶句する。
過疎化が進み、資金難から十年前にお祭りを廃止せざるを得ず、いずれは消滅を待つだけだった、この十勝の限界集落。
それが、たった一晩の夏祭りと、シロ様のチートバフがかかった最高級野菜の噂が世界中を駆け巡った結果、一瞬にして『数年分の自治体予算』を遥かに超える莫大な富を引き寄せてしまったのだ。
これにより、集落が抱えていた深刻な財政難は、完全に、そして跡形もなく『消滅(完全粉砕)』した。
「これで……村の道路も、おばあちゃんたちの医療支援も、全部完璧に賄える……っ。村が、本当に完全に救われたんじゃよ、アキヤ君……っ!」
村長が、ボロボロと大粒の涙を流しながら、何度も何度も地面に頭を擦りつける。
その劇的な地方創生(サバイバル)の結末を、最強のYAMAHAルーターを通じて再開された生配信の画面で、一千万人を超えるリスナーたちが我が事のように号泣しながら見守っていた。
『限界集落、完全勝利キタァァァァァ!!!』
『一晩で国家レベルの財政健全化を果たす地方自治体、強すぎるだろww』
『おばあちゃんたちの夏野菜が世界ブランドになっちゃった!』
『石油王と銀行家の買い占め、資本の暴力を最高に良いことに使ってて草ww』
『主、あんた本当にこの村の救世主だよ……(号泣)』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! Master! The taste of your village’s vegetables is a global treasure! The Dubai royal family is completely addicted!“(ハハハ! 主よ! 君の村の野菜の味は世界の宝だ! ドバイ王室が完全に病みつきになっているぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Akiya! I just bought ten thousand boxes of asparagus for my next movie crew! Best energy food ever!“(アキヤ! 次の映画のスタッフのためにアスパラを1万箱買ったわ! 最高のエネルギーフードよ!)』
世界中から祝福のスパチャが夜空の花火のように乱舞し、画面が極彩色に染まり上がる。
村長が泣き崩れ、小春ちゃんが感動で目を潤ませ、世界中がこの『限界集落・奇跡の財政脱却ヒューマンドラマ』の結末に涙している、そのカオスな感動空間のど真ん中で。
俺は静かに、折りたたみチェアに座ったまま、いつものタッパーを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと夏野菜の甘酢炒め』である。
「よし。特産品の流通プロセス(ロジスティクス)は確定した。これより指揮官の通常エネルギー補給を開始する」
俺は、数億円のカネが村の口座に振り込まれ、特産品が爆売れしているパニックの真っ只中で、一切の表情を崩すことなく、ストイックに大豆ミートを玄米の上にバウンドさせて咀嚼し始めた。
「お、お兄さぁぁぁぁぁん!!! なんで今、村の歴史がひっくり返って財政難から完全脱却した最高のクライマックスに、真顔で大豆ミートの甘酢炒め食べてるんですか!?」
小春ちゃんがタブレットをブンブンと振り回しながら、キレキレのジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。どれほど村の資産が増加しようとも、物理的な胃袋の栄養バランスが自動的に整うわけではない。兵站(ロジスティクス)の基本は、いかなる経済的変動(インフレ)に直面しようとも、常に一定のパフォーマンスを維持することだ。大豆の植物性タンパク質が、これより始まる大量の出荷作業(オペレーション)に向けた、最高のエネルギー源となる」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私が世界的なニュースを利用して村の特産品を爆売れさせ、限界集落を財政難から救った奇跡のヒーローのように思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『第3章最大のクライマックスでも、絶対に言い訳を欠かさない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・財政脱却編ww』
『さあ、この国家規模の経済効果をどうやって論破する気だww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、村の特産品がブランド化したわけでも、大富豪たちの善意で財政が救われたわけでもありません。最近、古民家の倉庫の奥で、前住人が残していった『夏野菜の過剰在庫』が発見され、その廃棄コスト(フードロス)が懸念されていました。私はただ、その不要な植物性有機廃棄物を外部の民間セクターに有償で一括処分するための『在庫クリアランス・プログラム』を実行しただけです。財政が脱却したように見えるのも、世界的なインフレに伴う『為替相場の急激な変動(円安効果)』が偶然もたらした、ただの会計上の数字のマジックに過ぎません。ええ、すべてはただの『合理的な在庫処分』と『為替相場のタイミングの悪戯』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、注文データを印刷し続けて限界まで伸びきった『長さ数メートルに及ぶFAXのロール紙の束』を両手で構え、俺の背中に向かって完璧なクリーンアップ・スマッシュを見舞った。
「為替相場の悪戯でアスパラが50万箱売れるわけないでしょうが!! 倉庫の残り物じゃなくて、村のおばあちゃんたちが今朝も汗水流して収穫した、シロちゃんのバフ入りの最高級夏野菜ですよ!! どう見たってお兄さんの完璧な夏祭り配信が、世界中の人の胃袋と心を掴んで村を救ったんでしょうが!! 素直に『俺がこの村を大富豪にしてやったぜ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのFAXロール紙スマッシュ炸裂www(帯が長い)』
『在庫クリアランス・プログラム(世界中から注文殺到)』
『為替相場のタイミングの悪戯(国家予算レベルの経済効果)』
『適応力バグおじさん、ついに村の財政救済まで在庫処分と円安のせいにするww』
『言い訳のスケールが財務省レベルで草ww』
俺の理不尽極まりないマクロ経済学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのロール紙ツッコミに、一千万人を超える視聴者たちは、感動の涙を完全に吹き飛ばし、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ふふっ、本当に素直じゃない下僕ね。でも、美味しいお野菜が世界に広まるのは良いことだわ)』
シロ様が、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細め、縁側で太陽の光を浴びながら優雅に鳴き、満足げに喉を鳴らした。
キツネ兄弟も、ヒグマも、村のおばあちゃんたちから特大のトウモロコシ(味付けなし)をご褒美にもらって、嬉しそうに庭で転げ回っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。村の口座が潤い、みんなが安心して暮らせるのなら、それが一番だ」
俺は背中の竹箒ならぬロール紙の衝撃をさすりながら苦笑し、提灯の片付けられた、どこまでも広大で美しい十勝の夏の青空を見上げた。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、そして世界中の大富豪と一千万人のリスナーたちに囲まれた、世界一強固で、世界一温かい『絶対の聖域』になってしまった。
世界一バグっていて、世界一優しい元社畜の最強スローライフは、消滅の危機を完全に跳ね除け、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい『バグった日常』へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
1件
ちょっと待ってちょっと待って!!!「在庫クリアランス・プログラム」ってなに!?www国家予算レベルの経済効果を円安と在庫処分のせいにするのマジで草しか生えない😂😂😂 でも感動したのが、村長がボロボロ泣きながら感謝してるシーンと、世界中から祝福のスパチャ飛んできてる所…沁みるよぉ…😭💕 小春ちゃんのFAXロール紙スマッシュ、完全にトレードマーク化してて笑うwwシロ様の「素直じゃない下僕ね」にもニヤニヤが止まらんかった…尊い…っ!!!