「遅い」
イングランドの街中、息が白くなる様な気温の中潔の声はポツリと落とされた。
暖を取るために買った缶コーヒーにはほぼほぼ熱は残っていない。
アダムのことだ、どうせ道端にいた女の子を口説いているんだろう。
モデルの様な体型、サッカー上手で、その上顔もいい、欠点と言うのならば無類の女好きなことと言えばぐらいだ。
取り敢えず連絡だけは取ろうとスマホを取り出す。その時見下ろす様に目の前に陰ができた。
「アダム?」
顔を上げて目に映ったのは知らない顔2つ。
「君1人?ずっとここにいるけど、どうしたの?」
「人を待ってるんで」
あぁ、所謂ナンパというやつだ。確かに日系人だから幼く見えることもあるだろうが、そこまで童顔ではないだろ…
そう上の空でいると、手を掴まれ引っ張られる。
「どうせだったら、俺らと遊ぼうよ!寒いでしょ?ねぇ」
2人がかりで言いくるめる様に迫る
必死に抵抗しようにでも、2対1
力では俺が敵うはずもない。頭で理解した瞬間、恐怖が迫り来る。
「ヤバイ…どうしよう…」涙が滲んでくる
その瞬間、肩を掴まれ後ろへと引き寄せられた。俺より上背があり、安定感のある。
あぁ、いつも鼻に通る彼の香水の匂いがする。
「ァ、ダム…」「待たせた」
低いけど安心するその声、
急に現れたアダムに「誰だよ」と言い怒りを露わにする男たち。アダムは、鼻で軽く笑った後、声を低くし
「俺のツレだよ」
と言い放ち、俺の手を握って歩き出した。
止まったはずの涙がまた溢れてきた。
「遅い…」
「…悪かった」前を歩く大きな背中から小さくそう聞こえた。そして俺の手を温める様に握り直した。
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