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もし、
あの時死んでたら僕はどうなってたんだろう。
もし、
あの時死んでたら僕はここには居なかっただろうな。
そんなことを思いながら歩く学校からの帰り道。
景色は既に西に傾きつつある夕方で、
僕はわざといつも家に向かってる家と違う方の道を選んだ。
知らない道。
知らない景色。
自分の心の迷路みたいで少しの恐怖を感じた。
でも、
それでも、
自分の行きたい場所に進もうって思って進んだら家に着いてしまった。
第六感が働いたのだろうか。
なぜ家に帰ってきたのか。
どうやって家に帰ってきたのか。
なぜ────
家の玄関の鍵を開け、リビングへと向かう。
食卓には母からの『ご飯作ったから食べてね!』というメッセージと共に不格好なおにぎりが2つ、置いてあった。
父は朝早くに会社に行って夜遅くに帰ってくる。
だからほぼ会えない。
母も父と同じく朝早くに会社に行き、
夜遅くに帰ってくる。
だからこの家は孤独だ。
僕と同じでひとりぼっち。
そんな僕にはご飯も寝床も服もある。
なのに僕は愛されてない気がして、
僕のために働いてるのは分かってるけどもう少し一緒に居る時間が欲しくて。
でもそんなのただの我儘だって知ってるから
言わない。
伝えない。
考えない。
今日も僕は詩集を手に取り、ページを捲る。
部屋は暗くて文字がよく見えないけど、
僕は何故か読むことが出来た。
アクル日モ
アクル日モ
ズット眠ッテル。
コノ時間モ
ソノ時間モ
アノ時間モ
ドノ時間モ
土ニ還ルコトヲ願イナガラ
永眠スルコトヲ願イナガラ
眠ッテル。
ドウスレバ救エルノダロウカ
ドウスレバ救ワレルノダロウ
ドウスレバ────────
この詩集を買った理由は
タイトルに惹かれたわけでも、
表紙に惹かれたわけでも、
帯やポップに惹かれたわけでも、
言葉に惹かれたわけでもない。
ただ手に取ったのがこれだったから買ったんだ。
詩の意味が全く分からなくてもページを捲る手は止まらない。
面白いと、
興味深いと、
思ってるのかもしれない。
もしくは
面白くないと、
早く読み終わりたいと、
ただ目を通してるだけかもしれない。
それは僕にも分からなくて。
そんなことを考えながらもページを捲る。
ふと、ある詩に目が留る。
アノ日
アノ季節
アノ時間
アノ景色
全テヲ忘レテシマイタイ
全テヲ思イ出シタクナイ
夏ガ終ワル日
夏カラ秋ニナル時期
日付ガ変ワル0:00
夜ノ帳ガ完全ニ落チタ頃
僕ノ大切ナ最愛ノ人ハ
タッタ一人ノ実ノ姉ハ
─────自ラ命ヲ絶ッタンダ。
読んでいる文字が滲んでいく。
辺りには水玉模様が出来上がる。
そう。
僕には世界にたった一人の大切な大切なお姉ちゃんがいた。
でもこの詩と同じ夏休みの最終日の0時にお姉ちゃんは自ら命を絶ったんだ。
最初の発見者は僕。
あんな光景、二度と見たくない。
いや、違う。
僕が気づいてあげなかったのが悪かったんだ。
姉の身体に赤い花が咲いた日に気づいてあげれば良かったのかもしれない。
姉の景色に花火が消された日に気づいてあげれば良かったのかもしれない。
今日も僕は姉とお揃いの赤い花を咲かせ、
迷路を指でなぞり、
景色に雪を降らせながら眠りに墜ちた。