サイド リオ
「……少しは焦れよ」
タエの首に手をかけたまま、俺はそう言った。
「……リオさんは、そんなことしない。ここで私を殺しても、メリットがないもん」
その瞳に、一片の不安も恐怖も怯えもなかった。ただ、真っ直ぐにこちらを覗き込んでいる。
「……流石っすね」
俺はゆっくり手を離した。同時に団長の変装もとく。
「あーあ。ホント完敗っすよ。なんなんすかね、アンタら」
自分の胸の中にある熱が、暴走しないように言葉を発して無理矢理落ち着かせる。
「……私の、この頭の良さは、才能なんかじゃ、ないよ。」
ポツリと、少女はそういう。どこか昔を思い出すようにして。
「……私は、いい子でないと、生きていけなかったから。怒られて、虐められるから。……少しでも自分を守るしか、なかったの」
言葉に詰まった。体に冷水を浴びせられた気分だった。
……苦労してない訳じゃ、なかった。頼る人が、今の言葉にはいなかった。
「……酷いこと言って、悪かったっすね」
「ううん、リオさんも、苦労してるんでしょう?私は、今はみんながいるから」
ああ、本当に敵わないっすね。
「……リオさんには、そういう人が、いなかったの?」
「俺にだっているっすよ。大切な家族が」
「じゃあ……」
「大切、だからこそ、話せないし苦しくなることもあるんすよ」
俺の家族は大人数で、しかもほとんど血が繋がっていない。だけど、全員大切で、かけがえのない存在だ。
この喋り方も、家族から移ったものだし。弟妹全員なんの悩みも抱えず伸び伸びと育って欲しい。
……そのために、お金が必要なんすよ。両親の給料だけじゃ足りないから、俺も誰にもバレないように、……変装してでも、振り子になっても、お金を稼ぎたかったんす。
「……だから、名前を呼ばないの?」
少女はそう聞いた。
「……気づいてたんすね」
俺はゆっくり少女を見た。