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この話めちゃくちゃ長いです。
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‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──ある日を境に、いるまは毎日
“あの部屋”に顔を出すようになった
扉を開ければ、いつものように無言のなつ
ベッドに座って視線を合わさずに
それでも、いるまは構わず話しかける
ー
いるま、……今日は、絵本の話、
していいか?
暇72、…は?…(バカにしてんのかよ)
いるま、ガラクタの兵隊って話、
知ってるか?
ひとつのボロボロの人形が捨てられた仲間を助けに行くって話
あれさ──……俺、小さい頃
読み聞かせてたことあんだよ
ー
なつは動かない。
でも、ほんの一瞬、指先がピクリと動いた
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
次の日もまたその次の日も
ー
いるま、部屋のカーテンが破れて雪が
入ってきて俺ボロ布で必死に塞いだんだよ
そしたら……隣にいたやつが笑ってな
暇72、…、(ずっと何話してんだよこいつ)
いるま、……俺の手を掴んで“あったかい”って何度も言ってたな
ー
でも、その夜
彼はひとりふと指先を自分の掌に
滑らせていた
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
さらに数日後
いるま、前に数字で呼ばれてたって
話したろ? ……俺、“220番”だった
でもな──好きだったんだよ、その番号。
誕生日と一緒だったから覚えやすいだろ?
よく自慢してたっけな…、ふっ
暇72、(ッ!──……知ってる。 誰かが、
そんなふうに、笑ってた気が)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
次の日
いるまがいつものように扉を開けると
なつは、背を向けたまま小さく呟いた
ー
暇72、──……また、来たのかよ
次は何?
ー
それは、初めての“反応”だった
いるまは、驚くでもなく、静かに笑った
ー
いるま、… 今日は、“手をつないだ時の話”しにきた
暇72、……は?
いるま、お前の手、俺のより小さかったけど──あったかかった
でも、あれがある時だけ冷たくて
……それが、怖かったんだ
暇72、あれ?って?
ー
いるまは、答えなかった
でも、
なぜか、
“いるまの声”が、
心の奥のほうに、刺さった気がした
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──LANの部屋
夜更け机の上に並べられた古い日記と
報告書の束
パラリと開かれたページには
いつものように番号で綴られた日常
しかし──その一文が、LANの手を止めた
ーー
「今日は、りぃちょの“選別”の日」
「選別っていうのは、すごいこと 偉い人に選ばれるってことっているまが
言ってたな」
「寂しいけど笑顔で送り出さなきゃ」
「やっぱり、泣いちゃったけど」
「りぃちょが“また会えるかもな”って笑ってた 本当にそうならいいの
にって、思った」
ーー
LANはしばらく黙っていた
“選別”──どこか、嫌な響きがある
ー
LAN、(「すごいこと」って──子どもに
そう言わせるような何かだとしたら
逆に……)
ー
ページを閉じると同時に
LANは通信機に手を伸ばした
すち→『』
LAN→「」
ー
「……すっちー。今、大丈夫?」
『ん、眠くなる前ならまだいける』
「“りぃちょ”って名前、聞いたことある?
たぶん、“123番”……選別ってやつでどこかに 送られたらしい
関連ある人物、探してくれない?」
『わかった。少し待ってて』
ー
──数分後。
ー
『…ヒットした “女子研究大学”にいる
らしい詳細はわからないけど
少なくとも本名じゃなさそう
コードネームか、通称か……』
「女子研究大学……」
ー
口の中で何度かその名を繰り返しながら
窓の外を見つめる
あの頃、あの孤児院で“123番”と
呼ばれていた子どもが
本当に“笑顔で送り出されていた”のか
“選別”という言葉の裏に何が
隠れていたのか
ー
LAN、(……これで、確定だな。
りぃちょは、生きてる。)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──夕方。アジト、廊下
いるまは、LANから呼び出され
無言で渡された一冊の手帳に
目を通していた
最初のページを見た瞬間
その顔が少しだけ強張る
だが、読む手は止まらない
ただ、途中まで読んだところで──
ある一文に目をとめ
ぎゅっと、指先に力がこもった
ーー
『123番が選別された』
『名前は“りぃちょ”。あいつはすごい』
『でも──また会えるかな?』
ーー
パタン、と音を立てて日記が閉じられた
ー
いるま、ッ……この日記、誰か見たか?
LAN、すっちーと俺だけ
それ以外には見せてない
ー
いるまはしばらく沈黙し
─そして、低く呟く
ー
いるま、……そうかよ
LAN、質問していい?
いるま、なに
LAN、“りぃちょ”って、覚えてる?
いるま、……ッ!!二度と、
その名前は出すな
ー
空気が変わった
廊下の明かりが消えたように、
ひどく重く、冷たい緊張が走った
LANが目を見開く
ー
LAN、えッ……?
いるま、……あいつは、“裏切り者”だ
日記も──返せ
LAN、は? ちょっと待て、いるま!
ー
LANが腕を伸ばそうとした瞬間
いるまはLANの胸ぐらを軽く押し返して
ー
いるま、──お前らに、何がわかる
ー
それだけ言って、
日記を握りしめたまま、
踵を返して歩き出す
その背中は、
何かを振り払うように、
何かに触れたくないように、
とても遠く感じた
LANは、しばらくその場に
立ち尽くしていた
ー
LAN、……なんだよ、あいつ……
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
夜
“空き部屋”と呼ばれている
なつのいる部屋の前
ノックはせず、いるまは静かに扉を開けた
ー
暇72、また来たのかよ
ー
なつは呆れたような声を出しながらも
その声にはもう“拒絶”の色はなかった
ー
いるま、今日は聞きたいことがあって来た
一つだけ──質問させてくれ
……“りぃちょ”って、知ってるか?
ー
──その名前を口にした瞬間
なつのまぶたがほんの一瞬ピクリと動いた
そして──
ー
暇72、……知ってるも何も
一緒に働いたことあるし……あ、内緒な?
お前だけ特別に教えてやる
ー
少し笑って
軽口のように言ったその言葉の奥に
いるまは明らかな“安心”を感じていた
ー
いるま、(……少しずつ、開いてくれてる)
ありがとな。……もう一つだけ
暇72、ん?
いるま、これ──昔の手記
お前に、読んでほしい
ー
なつは怪訝そうにそれを受け取り
少しだけ迷ったがやがてページをめくった
ーー
『今日は雪が降った。いるまが布で窓を 塞いでくれた。 手が冷たいのに、
あったかいって笑ってた。 本当に、
あの手が、あったかかった。』
ーー
ページをめくるたびに
なつの眉がわずかに歪んでいく
ーー
『123番が、選別された。りぃちょだ。 すごい人に選ばれたって、みんなが言ってる。 寂しいけど、また会えるよね。……ううん、 そう信じたい。』
ーー
読み進めるうちに──
ぽたり
紙の上に、一粒の雫が落ちた
なつは気づいていなかった
目頭が、熱いことに
頬が濡れていたことに
ー
暇72、……な、んでッ、ポロポロ
いるま、ッ……
暇72、俺こんな日記、知らないはずなのに……なんで、こんな、涙が──
ー
目を覆おうとした手が、
かすかに震えていた
それは、思い出せない記憶
でも──“心が覚えてる”記憶
隣で静かに立ついるまは、なつに近づくことなくただ言葉を落とした
ー
いるま、……読んでくれて、ありがとな
ー
なつは、それに応えなかった
ただ、
静かにページを抱きしめたまま、
もう一滴、涙を落とした