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廊下に立つ駿と梓。頭上には「1年2組」と書かれたプレートが吊り下げられている。
「あの子かな?」駿は教室の中で楽しげに談笑している聖奈と沙月を指さす。
梓はそれに黙ってうなずく。
「わかった!ならちょっと待ってて!話してくるから!」
教室に入ろうとする駿の腕を梓が掴む。
「待ってください先生!やっぱり」
梓は躊躇っている様子でうつむく。
梓の行動は、言ってしまえば密告、チクリと言われてしまう行為だ。後からその事を持ち出されて、裏切り者扱いされてしまうかもしれない。
躊躇うなと言う方がどうかしている。
「大丈夫だから!安心してくれ!」
駿は梓にそう言うと引き戸を開き、教室へ入る。
「ちょっといいかな?」駿は聖奈と沙月に問いかける。
「なんですかー?」2人は駿に見向きもせず、スマホを触りながら返事をする。
「君たちだよな?金森さんをイジメてるのは」
駿の問いかけに「はぁ?意味分かんないんだけど」聖奈は呆れた様子で口を開く。
「イジメとか意味分かんないし!誰かと勘違いしてんじゃないっスか?」沙月も同様に返す。
「俺は見たんだ!金森さんが1人で泣いている所を!なんでそんな酷い事が出来るんだ?」
駿は熱く訴えかけるが、2人には全くと言って良いほどに響いていない。
「いや泣いてただけでしょ?何でただ泣いてたってだけで、私たちが金森をイジメてるって話になる訳?ぎゃはは!マジウケるんだけど!」
聖奈は駿を嘲笑うかのように手を叩く。
「まぢでそれ!何か辛い事があったのかもしれないって解釈にはなんない訳?都合よく考えすぎだろマジで!」「まぢでそれ!」
沙月と聖奈は2人して駿をバカにするように高笑いする。
「いや、けど・・」駿は生徒の思わぬ返しに若干たじろく。
「なら聞きますけど?先生は実際に見たんですかあ?ウチらが金森をイジメてるところ」
聖奈は駿に詰め寄る。
「いや・・見ては・・ない・・・」
「ですよね?なら今の先生の話は、決定的な証拠が無いただの妄想ですよね?
そんなんで犯人扱いされる、私たちの傷ついた私たちの心は、一体どうなるんですか?それこそイジメじゃないですか!!
皆の見本であるべき先生が生徒をイジメるとか本末転倒ですよ!」
聖奈は口が達者なようで、次から次へと言葉を並べて駿を責め立てる。
そんな聖奈を見ながら沙月はしめしめと言った様子で笑っている。
そんな教室の様子を、不安な眼差しで見つめる梓。「もう・・いいよ・・先生」
梓の目からは涙がこぼれ落ちる。
「父親が居ないって・・そんなに悪い事なのか?」駿は絞り出すように口を開く。
「だから、私たちを責めたいなら証拠を」
聖奈の言葉はそこで途切れる。次の瞬間
「きゃはは!まぢで!」駿の顔を見た瞬間に聖奈は高笑いする。
「こいつ泣いてんだけど!キッッッモ!」
駿の目からは涙が溢れ出ていた。
「何で?何で先生が泣いてくれるの?」廊下に立つ梓は心の中でそう呟く。
「生徒にガン詰されたからって泣くとか!まぢありえないんだけど!きゃはは!ウケる」
「そうじゃない!」駿は嘲笑い聖奈に強い口調で返す。
「はぁ!?」「こんな血も涙もないヤツらがクラスメイトで、金森さんが可哀想だと思っただけだ」
駿の言葉に聖奈は怒りを露わにする。
「さらにキモい事言ってきたんだけど!こいつ!」
「だからさ!証拠みせろってば!情に訴えかけるとか古いし!」
「そう!そう!妄想はひとりの時にしとけっつーの!」
聖奈と沙月は立ち上がり、駿に詰め寄る。
「2人は家族を無くした事はあるのか?」
駿の問いかけに「いや、無いけど!てか今はそんな事関係」
「関係あるだろ!家族を失った事がない君らに金森さんの悲しみがわかるのか?
家族を失うってな・・この世の終わりかと思うほどに辛いし悲しいんだ!」
駿は涙ながらに訴えかける。
「クラスメイトだったらな、励ますてやるとか、話聞いてやるとか、他にやれる事はいっぱいあるだろ?何でそれがイジメになるんだよ!」
2人は駿の言葉を黙って聞いていたが
「言いたい事はそれだけですか?」聖奈は呆れた様に口を開く。
「涙ながらの演説ありがとうございます!けど、肝心な証拠は?
ウチらが金森をイジメてたっていう、証拠をもってこいっつーの!何回同じ事言わせるつもりですか?」
駿の言葉は2人には全く響いていない様で、悪びれる様子もない。
しかし次の瞬間「頼む!金森さんをイジメないでくれ!」駿は頭を垂れて土下座をする。
「次は土下座かよ!キモいって」駿を嘲笑う聖奈だったが、沙月はそれに考えさせられたようで
「もう聖奈!その辺でやめなってば!」
聖奈を止めにはいる。
「はぁ?沙月まで何言ってんの?こいつは、ただの妄想でウチらを悪者にしようとしてんの!それを黙っとけっての?絶対に嫌だ!」
「だから、これ以上騒ぎが大きくなるのはやめろって言ってんの!」
「はぁ?駿が勝手に騒いでるだけでしょ?」2人は仲間割れを始める。
その間も駿はずっと頭を下げ続けている。
そんな終わりの見えないやりとりに痺れを切らしたのか、梓が教室に入ってくる。
「もう辞めてください!先生!」