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五つ目の鍵を手にした七人は、美術室を抜け出し、無言のまま廊下を進んだ。
真綾の震える肩を支えながら、菜乃花は心の中で必死に言い聞かせる。
――疑ってはいけない。
――でも、また“仮面”が現れたら……。
そんな不安を抱えたまま辿り着いたのは、一階の理科室だった。
ドアを開けた瞬間、鼻をつく刺激臭が広がる。
「っ……何これ、薬品の匂い……」
香里が顔をしかめる。
机の上には、大小さまざまなフラスコやビーカー。
棚には薬品の瓶が整然と並んでいる。
そして、教壇の上にはガラスケースに収められた金色の小瓶。
そのラベルには「6」と書かれていた。
――ザザッ。
突然、放送が鳴る。
『……毒に満ちた部屋。小瓶を手に入れる方法は一つ。“正しい解毒薬”を選べ。間違えれば……その肺は焼かれる』
同時に、教室の窓が自動で閉まり、カチリと施錠された。
天井からは微かな霧が流れ込み、視界がぼやけ始める。
「毒ガス……!?」
瑞希が咄嗟に口元を押さえた。
理沙は慌てて棚に並ぶ薬品を確認し、叫ぶ。
「たぶん、三種類の中から選べってこと! でもラベルが偽装されてる……!」
「どうするの!? 早くしないと……!」
里奈の声が震える。
咳き込み始めたのは、真っ先に毒を吸った真綾だった。
「……っは、は……苦しい……!」
床に膝をつき、喉を押さえて喘ぐ。
「真綾っ!」
菜乃花と穂乃果が駆け寄る。
時間がない。
理沙は必死に化学の知識を思い出す。
――瓶には「硫酸銅」「過酸化水素」「グルコース」と書かれている。
どれが正しいのか? ヒントは……。
ふと、壁の黒板にチョークで走り書きされた言葉が浮かんだ。
『甘いものは、命を救う。』
「……グルコースだ!」
理沙が叫ぶ。
瑞希がためらわず瓶を掴み、小瓶の中の金色の液体に数滴を垂らした。
すると、濃い霧がゆっくりと晴れていく。
「……はぁっ……はぁっ……」
真綾は荒い息を繰り返しながらも、なんとか意識を取り戻した。
安堵したのも束の間、机のガラスケースがカチリと開き、中の小瓶が取れるようになる。
香里がそれを手に取り、震える声で言った。
「……第六の鍵。これで……あと一つ」
だが七人の顔に、笑みはなかった。
真綾は未だ青ざめている。
そして誰もが心の奥で悟っていた。
――“七人全員”では、最後の扉は開かない。