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・【17 野草狩り】


次の日の待ち合わせ時間、五分前に着いた僕と真澄よりも先に、兄妹はその場にいた。

僕は事前に買っていた小さなペットボトルのお茶をそれぞれ二人に渡してから、

「ちゃんと来たね。じゃあとりあえずパン屋さんから行こうか」

「パン屋さん! パン屋さん!」

と元気に叫んだのは真澄だった。いやオマエはどうでもいいんだけども。

多分真澄という女性がいるからか、ちょっと表情が柔和になった妹のほうと反比例するようにまだ警戒しているような兄のほう。

だから僕は言うことにした。

「僕は加賀佐助、佐助でいいよ」

すぐに真澄も、

「アタシは佐々木真澄! 真澄ちゃんでいいよ!」

そうサムズアップした真澄に妹のほうもサムズアップで応戦した。

すると真澄はすぐに妹のほうの手を握って、

「一緒に行こう!」

と言うと、妹のほうは、

「うん! 行く!」

と言って真澄の手を握り返した。

僕は兄のほうへ、

「別に偽名でいいよ、適当に名前教えて」

と言うと、兄よりも先に妹のほうが、

「サキ!」

と叫んだ。

兄はどうしようかと後ろ頭を掻いていると、妹が、

「お兄ちゃんはソー!」

と声を上げて、お兄ちゃんは慌てるような素振りをした。

僕はアゴのあたりを触りながら、

「でも名前は記号だから。別に知ったところで意味は無いよ。呼びやすいだけ」

と答えておくと、真澄が、

「何かドライだぞ! もっと明るくレッツゴー・パーティだろ!」

「いいんだよ、警戒されているんだから」

「そういうこと口に出さない!」

「警戒してもらってもいいんだよ、別に。勿論いつか警戒をとってもらってもいいわけだし」

真澄と他愛も無い会話をしながら、パン屋さんに着き、まず僕はソーくんのほうへこう言った。

「昨日教えてくれたような事情、僕から話してもいいかな?」

こういうことはちゃんと確認をしたほうがいい。

結局そっちのほうが信頼を勝ち得やすいから。

ソーくんがコクンと頷いたので、僕はパン屋さんに説明した。

するとパン屋さんはすぐさま、

「それなら食パンの耳だけじゃなくて、余ったパンとかもあげるからいくらでもウチを頼りな!」

と言ってくれた。

するとサキちゃんが嬉しそうにバンザイしたら、真澄も一緒になってバンザイしたので、

「真澄は言われていないから」

「いや! たまにおこぼれはもらおうと思う!」

「よくいけると判断したな」

とツッコんだところで、ちょっとソーくんにウケたので良かった。

さてこれからは自給自足の部分。

「じゃあ土手のほうへ野草を採りにいこうか」

僕たち四人はまとまって土手へ行った。

「まずはウド、そろそろ旬は過ぎてしまうけども、新芽の部分は炒め物などにすれば食べられるよ。こういう土手の植物は所有者が無いモノだから、個人の範囲内ならとっても大丈夫だよ」

そう言いながら僕はハサミで切って、バッグから出したビニール袋の中に入れ始めた。

僕は振り返りながらソーくんへ、

「中学生くらいでしょ、料理やろうと思えばできるでしょ」

「できるかも」

そう小声で答えたソーくん。

「採り終えたら料理も教えるから大丈夫。勿論、君の家じゃないよ。都合をつけたこっちでやるから大丈夫」

黙って頷いたソーくん。

サキちゃんのほうが僕に寄ってきて、

「私も収穫がんばる!」

と言ったので、真澄にしっかり見てもらいながら作業を始めた。

「キノコの類は絶対に採っちゃダメだけども、野草は慣れれば分かるから」

「うん!」

サキちゃんは元気に返事をした。

あとはそうだな、

「これも旬が過ぎてきたけども、タンポポなんて分かりやすいと思うよ」

そう言いながら僕はソーくんのほうを向きながら喋り始めることにした。

「葉は柔らかそうであれば生のままサラダでもいけるし、花は苦いけども茹でれば食べられるし、茎も茹でれば大丈夫。茹でただけだと苦すぎることもあるので、一時間くらい水にさらしてね」

と僕が言ったところでソーくんが切羽詰まったような表情でこう言った。

「何で俺たちのためにそんなことしてくれるんだっ?」

「そりゃ困っている人には手を差し伸べたほうがいいでしょ。全員とかは無理だけどせめて目に映った範囲の人たちでなんとかできる人がいたらなんとかするのは普通じゃないの?」

「ふっ! 普通じゃないよ!」

「じゃあ変でいいよ、僕と真澄がそういう人間なだけ。人から変と思われても別に気にしないよ。僕には僕の理論があるからね」

ソーくんは黙って俯いた。

きっと何か考えているんだろう、こんなことされていいのだろうかとか、余計なことを考えているのかもしれない。

じゃあ僕が言うことと言えば、もう一歩後押しするだけだ。

「まあ僕が困ったことがあったらその時に返してよ、何かで。今は頼ってくれると僕も嬉しいよ。なんせ頼られると喜ぶ習性があるから」

「アタシもだぁ!」

そうジャンピング・ガッツポーズをしながら声を荒らげた真澄。

そのコミカルな動作に、ソーくんにもサキちゃんにもウケて良かった。

まあこういう時、真澄の明るさは役に立つなぁ、こんな時にしか役に立たないけども。

野草も採り終えて、僕と真澄とソーくんとサキちゃんでまた別の場所へ向かった。

それはあの真澄がホイッスルの時に言っていた大きなイチジクの木の持ち主のところ。

僕はまたソーくんに確認をとってから事情を説明し、イチジクが実ったら、このソーくんとサキちゃんがとってもいいという約束を得た。

持ち主としても、もう食べる人が東京に上京してしまってどうしようと思っていたところという話で良かった。

真澄的にも悲しい話じゃなくて、我が子のために植えたイチジクという話で胸をなで下ろしていた。

持ち主は「イチジクをもらってくれる人が現れるなんて五年ぶりくらいだよ。誰かの役に立てるなんて嬉しいね」と話してくれた。

最後に、僕らは長谷さんの家へ向かい、着いた。

ここは申し訳無いけども、ソーくんには確認をとらず、長谷さんに伝えていた。

長谷さんは嬉しそうにこう言った。

「ワシは野菜を育てることが好きでな、毎回野菜は御近所さんに配っているんだ。そうしたらまさかワシの野菜を食べてくれるという少年少女が現れるなんて! ジジイ冥利に尽きるわ!」

ジジイ冥利という言葉あるんだ、いやもうシンプルにジジイ冥利じゃぁないんだよ、そうなんだろうけども。

長谷さんは胸をドンと叩いてから、

「ワシの家に野菜は好きにとっていっていいぞ! 置き手紙の一つでも残せば毎日勝手にとっていけばいい!」

置き手紙は欲しいんだ、それがジジイ冥利の内訳なんだなぁ、と僕は納得した。

ソーくんは戸惑い、サキちゃんは喜んでいる。

だから、

「ソーくん、気にする必要は一切無い。だってみんなそう言ってるじゃないか。額面通り受け取ればいいんだよ。疑っていると疲れちゃうよ?」

「すみません、ありがとうございます」

そうポツリと呟いたソーくんに長谷さんは笑顔で返した。

さぁ今日は長谷さんの台所を借りて、料理の練習だ。

僕はソーくんとサキちゃんを呼んで、まず野草の下ごしらえから教えていった。

野草は筋が硬い場合があるので、小さめにカットする。

そしてしっかり茹でて、水にさらして渋みを抜く。

家の冷蔵庫に何があるか聞くと、マヨネーズは常備しているらしいから、正直野草は全部マヨネーズでいい。

凝る必要なんてない。マヨネーズをバカにする人もいるけども、マヨネーズは簡単に美味しくなるので最高なのだ。

ウドも茹でてマヨネーズという手もあるけども、ウドは炒めても美味しいし、炒める調理法も教えたかったので、ここは炒めることにした。

熱を入れてしんなりとなったウドにめんつゆで味を付けるだけ。

柔らかい、でもシャキシャキの歯ごたえに、爽やかな風味。ウドの特徴だ。

野草に長谷さんの野菜、もらってきた食パンで豪華な食事になった。

食パンはソーくんとサキちゃんだけが食べるとして、他の野草や野菜は僕と真澄とソーくんとサキちゃんと長谷さんで食べ始めた。

野草はなんと言っても緑が映える。そこにマヨネーズの白で食卓は一気に鮮やかになる。

炒めたウドはめんつゆの色で少し茶色くなるが、またそれが美味しそうに見えてくる。

甘じょっぱい香りが立ち上り、ウドのハッカに少しだけ似た爽快感のある香りも混ざり、食欲が増す。

野菜のミニトマトはシンプルに生で頂く。結局ミニトマトは生が一番美味しいから。

噛めば甘酸っぱい果汁が飛び出し、喉を潤す。

真澄はタンポポのおひたしから食べ始めた。

「苦みが野草っぽいな! でもマヨネーズを合わせることによって、マイルドになって食べやすい!」

ソーくんはウドの炒め物、というかウドのきんぴらを食べ、

「歯ごたえがいいです。何か、ちゃんとした食べ物って感じがする」

サキちゃんはタンポポのおひたしは少し苦手っぽかったけども、ウドのほうを美味しそうにモリモリと食べていた。

最後に僕はソーくんの飲み終えたお茶のペットボトルを長谷さんの台所で洗ってから、

「長谷さん、少しもらいますよ」

「いいぞ!」

と了承を得て、そのペットボトルにめんつゆを分け入れた。

長谷さんはニコニコしながら、

「調味料もいくらもらいに来ていいからな!」

ソーくんは頭を下げながら、

「ありがとうございます!」

と大きな声で言った。

長谷さんは優しく微笑んでから、

「ほら、ワシの連絡先というか電話番号だ。まあ家に来ればいつでもいるけどな」

と紙を渡したところでサキちゃんが、

「私の連絡先もー!」

と手を挙げたところでソーくんが、

「こちらからもよろしくお願いします」

と言ってソーくんが紙に書き始めたので、

「僕も知っていいかな?」

「勿論です。佐助さん。佐助さんの分も」

とササッと書き始めた。

僕はソーくんへ、

「君たちを送り届けようと思うけども、その前に会ってほしい人がいるんだ。一緒に来てくれるかな? ちょっと時間がまだあるけども、夕方になったら一緒に来てほしい場所があるんだ」

それに対してソーくんは、

「はい、佐助さんがそう言うなら」

というわけで夕方になるまで、真澄はサキちゃんと遊んで、僕はソーくんから結構質問攻めにあった。

主に野草と料理のことだけども、それ以外に勉強のこととかも聞いてくれたので、答えられる範囲で答えた。

夕方、僕たちはあの墓地にいた。

すると案の定、あのおばあさんがやって来たので、僕は話し掛けた。

僕と傍にいる子供たちを見て、きっとおばあさんは察したのだろう。少し構えて僕のほうを見た。

「仏様がいると言っていましたが、仏様って自分のことですよね? 子供のことを助ける仏様、と。でも、それなら泥棒させるよりも直接可愛がってあげたほうがこの子たちのために、そう、このソーくんとサキちゃんのためになります。貴方のソレは優しさのようで、優しさじゃないです」

僕がそう言うと、ソーくんが頭を下げながら、

「お供え物盗んで申し訳御座いませんでした!」

と言い、それに合わせてサキちゃんも、

「ゴメンなさい!」

と言った。

おばあさんはばつが悪そうに後ろ頭を掻いてから、

「おばあさん、何か間違っていたのかもしれないねぇ。自分の照れを優先したせいで子供を泥棒にさせてしまったねぇ、本当に、むしろ私が悪かったよぉ」

何度も頭を下げ合うソーくんにサキちゃんにおばあさんに。

僕は一息ついてから、

「おばあさん、これからソーくんとサキちゃんのこと、気に掛けてください」

ソーくんもサキちゃんも最後に深々と大きく頭を下げた、ところで、おばあさんはこう言った。

「でもほらぁ、言った通りでしょぉ、仏様はいるんだよぉ」

僕は何を言っているのかよく分からず、小首を傾げた。

でもおばあさんと真澄は何だかニコニコしている。何を共鳴しているんだ。

おばあさんはゆっくりと口を開いた。

「ほらぁ、貴方が仏様だよぉ。こんなおばあさんと子供たちを救ってくれてありがとねぇ」

「勿論だ! 佐助は最高なんだ!」

そう言って拳を突き上げた真澄。

あぁ、僕のことか、じゃあいいけども、と何か塩対応な気持ちになってしまった。

人の上手いことを言ったみたいなの、ちょっと苦手なんだよな。

まあ丸く収まったみたいで良かった。

ソーくんとサキちゃんを家に届けて、家路に着く時に、真澄は僕に向かってこう言った。

「何かちょっと佐助! いい感じの探偵になってきたな!」

「鬼火事件の大部分、料理だったけども」

「でも何かめっちゃいい感じだった! どんどんやっていこう!」

「……何で真澄ってそんなに俺に探偵と料理をさせたいんだ?」

不意を突いて聞いてみると、真澄はちょっと困惑した表情をしてから、

「まっ! まあそれはいいだろう!」

と言って走り出した。

また走って誤魔化した。一体何なんだ。困惑犬の唯一の逃げる方法じゃぁないんだよ。


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