砂漠の真ん中に空いた穴を下っていくとその奥にはとても大きな黄金に輝く城がある。
「『栄光は黄金郷と共に在った』か」
「大層な触れ込みだけど、案外普通に来られるものなのね」
私の独り言を拾ったヒバナが目の前にある黄金の城を見上げながら呆れたように呟く。
私も城を見上げ、思わず息を呑んだ。
「すごいねっ、本当に金ぴかの城だ!」
「これだけの金があれば、どれだけ本が買えるんだろう……」
「ん~……眩しくて~居心地が悪そうな~お城~……わたくしは~住みたくないです~」
――いや、呑気すぎる。
確かに黄金の城は非常にインパクトのあるものだが、精霊としてはそれ以上に気になることがあるはずなのだが。
「……すごく、魔素が濃い」
「マスター、体調は悪くありませんか?」
そう。アンヤが言ったようにこのダンジョン“黄金郷”は今まで訪れたダンジョンの中でも断トツで空気中の魔素濃度が高い。
それなのにダンジョンの外にはほとんど魔素が漏れ出していない。
私たちも近付くまで本当にダンジョンなのか疑ったくらいで、異常なダンジョンであることは明らかだった。
「大丈夫だよ、コウカ。心配してくれてありがとう」
普通の人間や動物だと酔ってまともに動くことすらままならないだろうが、精霊や少し普通の人間とは変わってきている私はこの中でも問題なく活動することができる。むしろ、体調が少し良いくらいだ。
だが、この人間にとって有毒な魔素濃度を誇る黄金郷に入ろうとした人は数多くいるようで、城の外には数えきれないほどの白骨化した遺体が至る所に放置されていた。
「こ、この魔素濃度。間違いなく異変の影響だね……」
「じゃあ聞いていた『帝国の栄光が失われたことで黄金郷はその門戸を閉ざした』っていう話もまったくのデタラメじゃない」
シズクの言葉にヒバナが私たちから言伝に聞いたリーダーの話を鼻で笑い飛ばした。
異変は世界中で起こっていることだから、こうして黄金郷に人が立ち入れなくなったのはただの偶然に過ぎない。
でもそれだとこのダンジョンの異変は世界中でも類を見ないくらい早い段階で起こっていたことになる。
だというのに未だこのダンジョンからスタンピードが起こっていないという事実は、ダンジョンそのものの特異性を顕著に表しているように思えた。
「それにしても~ここの魔素が~淀んでいなくてよかった~」
「たしかに! 今はボクたち調子いいけど、これが淀んでいたら気持ち悪かっただろうなぁ……うぇぇ……」
邪神の影響を受けたことで淀み、穢れた魔素というのは本当に不快だ。
ノドカとダンゴの意見には私も全面的に賛同せざるを得ない。
「ダンゴちゃん、安心するのは早いよ。魔素濃度が高いってことはそれだけ魔物も強くなってるってことだから」
「もう、シズク姉様は心配しすぎだよ! 相手がどんなに強くっても今のボクたちに勝てるはずないんだから!」
どこまでも楽天的に構えるダンゴだが、シズクはそこまで楽天的にはなれないようだ。
私としてもこれまでの経験から、ただでここを出られるとは思っていない。
だから楽観視する子がいる中でこうして警戒している子がいるのはありがたい。
「何が出てこようがわたしがマスターを守ります!」
「え……あ、うん。ありがとう、コウカ」
あまりにも唐突だったものだから気の抜けた返事を返してしまう。
コウカはどこまで行っても真面目だなと少し呆れるほどだ。そこが可愛くはあるんだけど。
「……行かないの?」
「あ、行こう。みんな、さっさと終わらせて帝都に向かうよ! シズク達もほら!」
ダンジョンの前で話しすぎていた。これじゃあいつまで経っても城の中に入れない。
アンヤも行かないのかな、とずっと様子を窺っていたようなので謝る代わりに頭を撫でておいた。
この子は特に小さく、撫でやすい位置に頭が来るのでつい撫でてしまう。
こうして私たちは帝都に入るために黄金の城へと足を踏み入れたのだった。
◇
城の内装は外から見た印象を損なうことなく、そのほとんどが黄金によって構成されていた。
あまりの衝撃に放心しそうになったり、一部の子たちが興奮したりと多々あったが何の問題もなく奥へ奥へと進めている。
――そう本当に何もなく。
「ちょっと、魔物の1匹すら見掛けないじゃない」
「へ、変だよね。これだけの魔素濃度なのに……」
城の中には私たち以外の生き物はいないし、廊下に響くのは私たちが歩く音だけだ。
それが不気味で、却って私たちの警戒心は高まっていた。
「やっぱり~何も~引っ掛かりません~」
ノドカの風も動くものを何も捉えられていないらしく、この付近には私たち以外の生物が存在していないことを裏付けていた。
この時、ある1つの仮説が私の脳裏に浮かぶ。
「見えない魔物って線はないかな?」
何気ない呟きだったが、過剰なほどに反応したのはヒバナだ。
「ち、ちょっとやめてよっ!? 思い出しちゃったじゃない……私、だめなのに……」
「あ……ごめんね、ヒバナ」
二の腕を摩りながら顔を青くするヒバナ。
彼女は一度、ホーンテッドダンジョンに行ってから幽霊などが本当に苦手になったらしく、よく創作ホラーでシズクに揶揄われてしまっている。
「何も出ないなら出ないでいいじゃん! 姉様たちももっと楽しんだほうがいいよ!」
「いや、緊張感なさすぎだから」
私は壁や床を叩いたりして一人全くの無警戒で黄金の城を歩いているダンゴの肩を掴み、抱き寄せた。
この状況で緊張しないのはむしろ尊敬する。
少し注意を促そうと私はダンゴの頬を摘んで持ち上げた。すごく柔らかい。
「ふぁうふぃふぁあ?」
「楽しむのはいいけど、あんまり勝手なことしちゃだめだからね?」
不思議そうに私の顔を見上げてくるダンゴに軽く注意をする。
ダンゴが壁や床を叩く度に思い出すのだ。かつてトラップまみれのダンジョンでトラップを作動させ続けた時の記憶が。
何もないダンジョンだからこそ、何かが起こった時が本当に怖い。
ヒバナのトラウマが幽霊なら私のトラウマはトラップだ。
それにしても、ダンゴといいアンヤといいどうしてこの子たちの頬はこんなに触っていて気持ちがいいのだろうか。
ずっと抱き寄せて触っていたくなる。
「くすぐったいよぉ」
持ち上げるのはやめて揉んだり撫でたりしているとダンゴが身を捩る。
しかし嫌がってはいないようなのでそのまま続けさせてもらう。
「まったく。緊張感ないのはどっちだか……」
「その分、あたしたちがしっかりと周りを見ていよう?」
「それを言うならまず、シズは手に持った本を片付けてよ。説得力ゼロだからね」
「え……」
ヒバナとシズクのやり取りを軽く聞き流しつつ足は止めない。ついでに手も止めない。
ちゃんと警戒してくれているコウカとアンヤ、ノドカ、ヒバナには何だか申し訳ない気もするけど、全員が一斉に集中していて、いざという時に疲れてしまっては元も子もないのだ。
「見るからにここが怪しいですね」
「……あからさま」
同時に立ち止まったコウカとアンヤの前には、こんなにも大きく作る必要はないだろうというくらい大きな扉が鎮座していた。
無論これも黄金製だ。
「どうしますか、マスター」
「開けられる?」
「はい、任せてください」
扉の前にコウカが立ち、その後ろにダンゴ、私や後衛組の前にはアンヤと並んでいる。
何があってもいいように全員が気を引き締めているため、ピリピリとした空気が私たちの間に漂う。
宣言通りにコウカは扉に手を掛けると力を込めて奥へと押し込んだ。
黄金の扉は地響きを鳴らしながらゆっくりと開いていく。その後ろでみんなが武器を構えるが何かが起こることはなかった。
「広い……」
今まで歩いてきた廊下も相当な広さだったが、この部屋は特に広々としている。
しかもこの部屋の造りにはどこか見覚えがあった。
「何かがいます!」
突然、部屋の中にコウカの声が響き渡る。彼女は前を向き、矛先をある一点へとまっすぐに突き付けていた。
その先を見た全員が咄嗟に構えを取る。
「玉座……王様……?」
コウカが剣を向けている先にあったのは黄金の玉座。
そしてその玉座に深く腰掛け、佇む存在。
私たちの3倍はありそうな巨体は黄金の鎧を纏っており、その堂々とした座り方は正しく王を連想させた。
しかしそれだけではない。その頭は骸骨が2本の歪曲した角を生やした悪魔のような風貌をしていたのだ。
生きている人間ではないことは明らかだった。
「死んでるの……?」
「ま、魔素が濃すぎて正確には分からないけど、アレからは魔力を感じないよね……」
シズクの言葉に全員が無言で肯定を示す。
空気中の魔素に影響されて乱される魔力感知だが、あの王に魔力がないのは明らかだった。
立ち止まっていても仕方がないので、警戒は解かずに隊列を維持したまま少しずつ近付いていく。
そして入口と玉座の丁度中間地点に差し掛かった――その時だった。
「――ッ!? 来る!」
ただ玉座に座っていたはずの王の、空洞となった目に蒼い炎が灯る。
その瞬間、空間に蔓延していた魔力が一点に集まり、身の毛がよだつほどの魔力反応が現れた。
「させないッ!」
コウカが稲妻を身に纏い、加速する。
次の瞬間には王の眼前へと迫ったコウカが剣を振るうが、それは王が虚空から生み出した二振りの長剣で防がれてしまっていた。
「コウカ!」
「周りから~たくさんの~反応が~!」
「えっ!?」
ノドカからの報告に周囲を見渡すと部屋のあちらこちらに金色の靄のようなものが現れる。
そしてその中から武装した骸骨やアンデッドとなった動物が飛び出してきて、まっすぐ私たち目掛けて侵攻してきたのだ。
同時に矢や魔法が私たちの元に降り注ぐがそれらは全てノドカが風の結界で防いでくれる。
「わ、分かった。アレの正体!」
接近してくるアンデッドへの迎撃を始めた時、シズクが大きな声を上げた。
「本当なの、シズク!?」
「ノーライフキングの亜種。あ、アンデッドたちの王様だよ」
緊張に顔を強張らせたシズクが口にしたのはある魔物の名前だった。
ノーライフキング。その名前が示す通り、死者たちの王なのだろう。
こうして急にアンデッドが現れたのもアレが呼び寄せたというのなら理解ができる。
「シズク姉様、アイツに弱点とかはないの!?」
「周りのアンデッドは王を倒せば消えるよっ! それでアイツ自体も接近戦は苦手……なはずだったんだけど……」
玉座付近でコウカの剣戟を二振りの鮮やかな剣捌きでいなすノーライフキングを見遣る。
どこからどう見ても接近戦が苦手なようには見えない。そこも踏まえて、シズクはアレをノーライフキングの亜種だと見做したのだろう。
「デュラハンが来るわ!」
ヒバナの声に慌てて思考を振り払う。今は考えるだけではなく、目の前の状況をどうにかしなければならない。
アンデッド化した馬に乗ったデュラハンは右手に剣を携え、急速に接近してきている。
その相手をするためにダンゴが前に躍り出た。
「コイツ、前に戦ったのより速い!」
攻撃を左手の盾で防ぎ、右手の戦斧を横なぎに振るうことでダンゴはデュラハンを一撃で倒す。
相手の動きは良いようだが、対応できないほどではないらしい。
「また生まれてる! 大将をどうにかしない限りキリがないわよ!」
倒しても倒しても周囲の金色の靄から敵が湧き続けている。
新たに数体のデュラハンもその中から生まれ、私たちの元へと向かってきていた。
「ヒバナ、シズク、ハーモニクスを!」
「ええ!」
「うん!」
可能な限り近くに寄ってきた2人に手を伸ばして、調和の魔力で私と2人を包み込む。
「【ハーモニック・アンサンブル】――トリオ・ハーモニクス!」
ノーライフキングはコウカが余裕がないながらも何とか抑えてくれているみたいなので、まずは周りの敵の殲滅を優先する。
ハーモニクス状態になってすぐ、左手に持ったフィデスと右手に持ったフォルティアから両翼の敵に向かって個別に魔法を放っていく。
一定のリズムを刻むように放たれた水と炎によって側方から近寄ってくる敵を一掃した。
『ノーライフキングは質より量で攻めてきているみたい』
『数ばかり揃えたって私たちには通用しないってこと、しっかりと教えてあげましょう』
――そうだね、ヒバナ。
こんな戦い方じゃ、ノーライフキングはハーモニクス状態の私たち3人に傷すらつけることができないのだから。
私は2本の杖を連結させ、“フォルティデス”形態へと変化させる。
そして長杖となったそれの先端を天井へ向け、地面と垂直になるように構えた。
「【ブレイズ・レイン】!」
杖から天井に向けて放たれた灼熱の炎弾が10メートルほど上昇する。
次の瞬間、その炎弾から無数の炎が360度、全方位に向けて降り注いだ。
「【ブレイズ・サークル】」
降り注いだ炎は周囲のアンデッドを燃やし尽くし、私たちから30メートルほど離れた地点には敵の侵攻を阻むための炎陣が形成されている。
いくらアンデッドが熱さを感じないとしても、この炎に焼かれてしまえばすぐに燃え尽きてしまうだろう。
これで少し余裕ができた。
「ごめん! 抜かれちゃった!」
それでも強引に突破して来ようとするのがアンデッドというものだ。
真っ先に炎陣へと近付いてきた4体のデュラハンは魔力で防御した上に馬の脚力を駆使して、無理矢理炎を突破してきたのだ。
すぐさま対応したダンゴも1体を戦斧で叩き斬り、もう1体を岩で押し潰したものの残りの2体までは対応できなかったようだ。
「アンヤ! 足止めお願い!」
「……【シャドウ・チェーン】」
対応するためにアンヤに指示を出しつつ、杖の連結を解除する。
アンヤは急な指示出しにもかかわらずすぐさま対応してくれたようで、敵の足元から現れた影の鎖を実体化させ、馬の脚に絡み付かせていた。
「上手いよ」
この間に私たちも攻撃の準備を終わらせている。
『【ブレイズ・ランス】』
『【アビス・ランス】』
解き放たれた2種類の魔力の槍が一撃で貫かんとデュラハンへと迫る。
馬が動けず、このままでは回避できないと判断したのであろう。2体のデュラハンは馬の背を蹴り、跳躍して回避しようとした。
しかしそこにアンヤが放った黒塗りのナイフが飛来し、それに気を取られたデュラハンたちは私が2本の槍の動きを操作して、その矛先の向きを変えたことに気付くのが遅れた。
空中という身動きが制限される中でその一瞬の対応の遅れは命取りになる。
彼らは等しく槍に貫かれ、その活動を停止させたのだった。
「お姉さま~魔物さんが~火を消そうと~してます~!」
ずっと遠距離からの攻撃から私たちを守ってくれていたノドカの報告によって、アンデッドたちが火を消して侵攻を再開しようとしていることに気付けた。
水魔法が使える者はそれで消火しようとし、それ以外の者は生まれ続けることをいいことに体で火を消そうと突撃を繰り返している。
私は消化させないように炎陣を制御して火力を増幅させようとするが、それは己の内側から届けられた声によって遮られた。
『こうなったらさっさと大将を討つわよ。コウカねぇがいつまで持つかもわからないんだし』
『この対応の早さ、ただのアンデッドの知力じゃありえないよ。多分、ノーライフキングが戦いながら指示を出してる』
コウカが抑えてくれているように見えたノーライフキングだがその実、戦いながらこちらの様子を窺ってアンデッドたちへと指示を出せるくらいの余裕はあるようだった。
つまり、戦いが長引けば長引くほど対応力が上がってしまうということだ。
それにコウカが抑えきれていないということは、いつ彼女が押し切られてもおかしくはないのだ。
私は再度連結させたフォルティデスをノーライフキングへと向けた。
「ッ!? 気付かれた!」
狙いを付けた一瞬でノーライフキングの様子が変化し、狙いを付けられないようにと、こちらの射線上へコウカを誘導するように立ち回りだしたのだ。
「敵の勢いが~増しました~!」
「あっ、この敵……!」
周囲の敵の気配が増加するとともにノドカとダンゴも声を上げる。
だが、まだ大丈夫のはずだ。【ブレイズ・サークル】で作った防衛陣は簡単に突破されるものでもない。それよりも今はノーライフキングだ。
だがコウカに射線上から退いてもらうために声を上げようとした私を、ダンゴの大きな声が止めた。
「炎が突破される! あっ、でも主様は見ちゃ駄目!」
「えっ――あ」
見ては駄目だと言われたときには既に目を向けてしまっていた。
そして同時に理解する。どうしてダンゴが見ては駄目だと言ったのかを。
半透明の身体にフードを被った不気味な容貌。それはまさしくゴースト系の魔物だった。
空を飛べるあいつらなら容易く炎陣を突破することができるはずだ。
でも、問題はそこじゃない。
奴らを視界に入れた瞬間、呼吸が浅くなり、腕が震えて魔力も乱れる。上昇した心拍数は私が抱いた恐怖のせいではない。
そう、これは――。
『きゃああっ!』
――ヒバナが抱いている恐怖心のせいだ。
これはある意味、ハーモニクスの弱点と言える。
複数人で1つの身体を共有する以上、1人が他全員と違うことをしようとしただけでも動きに乱れが生じ、最悪の場合は体が動かせなくなる。
これは私たちが“不和”と呼ぶようにしている現象だ。
いつもはみんなが私に合わせてくれるので問題ないが、みんながやろうと思えば体の主導権すら握れるはずだ。
だから今は軽いパニックに陥っているヒバナによって体のあらゆる場所に乱れが生じてしまっている。
トリオ・ハーモニクスなのでシズクが私側に付いてくれているおかげもあって最低限の影響で済んでいるが、これがデュオ・ハーモニクスだとどうなっていたか分かったものではない。
『ひ、ひーちゃん落ち着いてよっ! ユウヒちゃん、目を逸らして!』
取り敢えず幽霊を視界に捉えたままなのはまずいので、言われた通りに幽霊が視界に入らないようにする。
だが、相手もこの少しの乱れでこちらの弱点を掴んだらしい。
忌々しいことにどこを向いても視界に入るように幽霊を配置し始めたのだ。
加えて、これを好機と見たのかノーライフキングも動き始めた。
動きのキレを増したノーライフキングによってコウカが一気に劣勢に立たされ、2本の剣による攻撃を受けきれなかったコウカが悲鳴を上げながら勢いよく吹き飛ばされる。
そして大きな音を轟かせながら壁に激突し、その衝撃により崩れた瓦礫に埋まって姿が見えなくなってしまった。
「コウカ姉様! くっ……こいつら、ボクとは相性が悪いよ!」
『ゴースト系の魔物の相手は地属性のダンゴちゃんじゃ難しいかもっ! それにあのファントムは魔法が使えるの!』
自由に飛び回れるこのファントムという魔物はノドカが張ってくれている風の結界も容易く突破してくる。
内側に潜り込まれてしまえば、そこから魔法による攻撃に晒されることになってしまうだろう。
――そしてついにその時が訪れてしまう。
風の結界を突破した数体のファントムが私の真正面に現れ、黒い矢を放ってきたのだ。
「あー、もう!」
動かしづらい体を何とか動かし、迎撃するも倒しきれない。
このままでは直撃すると息を呑んだ時、黒い影が飛び込んできて飛来する矢を撃ち落としてくれた。
「……ますたー、解除を……ッ!」
アンヤは影魔法を実体化させ、ファントムの攻撃を凌いでくれている。
彼女の言う通り、このままトリオ・ハーモニクスを維持している必要はない。
『ひーちゃんとファントムのことは任せて。ユウヒちゃんはノーライフキングを』
シズクの言葉が頼もしい。
この場はシズクに任せて、私は敵の大将を討つことにする。
「フィナーレ……!」
私がトリオ・ハーモニクスを解除すると、シズクと彼女に抱きかかえられた状態のヒバナが出てきた。
――まったく仕方のない子だ。
「うぅ……シズぅ……」
「よしよし、大丈夫だよ。後はあたしに任せて」
私は玉座の前で右手をこちらに掲げているノーライフキングを睨み付けた。
体の不調はヒバナと離れたことで段々と回復してきている。
散々好き勝手やってくれた上にコウカのこともある。最早生かしてはおけない。ノーライフキングもアンデッドだから既に死んでいるだろうけど。
「ダンゴ、ハーモニクスやるよ!」
「うん! 待ってたよ、主様!」
駆け寄る私へ手を伸ばしたダンゴと私の手が重なる。
「【ハーモニック・アンサンブル】――デュオ・ハーモニクス!」
赤いマントを翻す私の手にはイノサンテスペランスを変化させた大盾と戦斧があった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!