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 ヒットやオーリ、懐かしいギンブナ達と再会し池に迎え入れてから、早数週間が経っていた。

 

 ギンブナ達は思い思いに子作りの相手を決め、上の池で産卵場所の下見に大忙しである。

 このギンブナの群れ、測ったかのようにオスメスの数が半々であり、メスは黒銀の鱗のエッジ部分を黄褐色に変じさせ、応える様にオスは鰓の後ろと尾の付け根を明るい緑に染めて婚姻色で着飾っていた。


 これは、本来のギンブナの生殖では考えられない事だったのだが、無論、ナッキはそんな事は知らないし、実の所、生殖が具体的にどういう物なのかも良く判ってはいないようだ。

 只、仲間達の鱗の変化を見て、自分の漆黒の鎧、もとい、鱗が一切変化を見せない事に頭を傾げているばかりであった。


――――おかしいな、僕だけ鱗の色が変わらないなんて…… あれかな? 僕は最後に生まれたから親になるのはまだ早い、って事なんだろうか? 少し恥ずかしいな…… 一匹だけまだ子供って事なんだな、早く大きくならなくっちゃな…… (※池の中で最大生物です)


「ナッキの王様よ、今ちょっと良いかい?」


「ん? ティガ、どうかしたの?」


 ナッキに話し掛けて来たのは派手な赤色を全身に浮かべたウグイのティガである。

 ティガはニヒルな微笑みを浮かべながら話し出す。


「随分長く世話になっちまったがそろそろ旅立とうと思ってな、出発前に挨拶を、そう思ってよ」


「えっ! で、出て行くの! 僕、てっきりティガはこのままここに住んでくれるんだと思っていたんだけど……」


 巨大なナッキがサイズ的に同じ目線で会話する事が出来るのは、ヒットとウシガエルのブル、それ以外ではウグイのティガだけだったので、ここを出て行くと言う話を聞いて軽くないショックを受けていた。


 その寂しそうな表情に気づいているのかいないのか、定かではないがティガは明後日の方を見ながら言う。


「止めろよ王様よお、おいらは旅人だぜ? 空に流れる雲や、水面を滑る花弁みたいなもんさ! 一つ所に長く留まっちゃぁ居られない性質(タチ)なんだよ、だから引き止めちゃ駄目だぜ? アンタみたいな強い魚が女々しい真似しちゃぁイケないよ…… なに、別れが有れば出会いがある! それが世の常だ、もう二度と再び会う事はないだろうけどよ、おいらは遠い旅の空の下で、いつでもあんたの幸せを祈っているぜ? どうだいナッキの王様、アンタも俺の事、同じ様に思ってくれないかい?」


 ナッキは素直に思った、格好良い、と。

 そして表情をキリっとした物に変え、こちらに視線を戻したティガに向かって告げるのである。


「判った引き止めたりしないよ! 僕もこの池からティガの幸せを祈る! 約束するよ!」


「そうかい♪ じゃあ行くぜ、ありがとな、バイバイだ」


「え、ええ? 今すぐ行くの? きゅ、急じゃないっ?」


 ティガは大きな目を更に大きく見開いておどけた感じに胸鰭を開いて言う。


「おいおい? そんな顔すんなって、今、言ったばかりだろ? 男に二言は無い、だろう? こう言うのはアッサリで良いんだよ、言うだろ? 思い立ったら吉日ってさ、んだから行くぜ? 良いだろ?」


 そうだ、今しがたそう思ったばかりだった…… そう思ったナッキは、気を取り直して、多少引き攣りながらも満面の笑顔を浮かべながら言う。


「そうだね! 今まで楽しかったよ、お元気でティガ、さ、さようならぁっ!」


 ティガは既にナッキに背を向け『美しヶ池』の出口に向かって泳ぎだしながら叫ぶ。


「おいらも楽しかったぜナッキ、あばよっ!」


 振り返る事無く、ハヤの名に恥じぬ速度で素早く泳ぎ去るティガの姿を、どこか爽やかな気持ちで見送るナッキ。


 格好良い、先ほど思った同じ事を、胸の中で反芻(はんすう)させながら見送っていたナッキの目に、どうした事だろうか、かつて死の壁と呼ばれていた下の池から用水路に出るトンネルの手前で、速度を落としたティガが完全に前進を止めたのが見えた。


「ん?」


 不審に思ったナッキは思わずそちらに向けて泳ぎ出すのであった。

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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