テラーノベル
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件(くだん)の異常なほど発達した鰭力(ひれりょく)によって、あっと言う間にティガの後ろに接近したナッキには、複数の声が聞こえて来ている。
「それでピドさんに聞いたんですよぉ、大きくて立派そうなウグイがこの池に行けば居るんじゃないかってぇ、信じてきてみて大正解でしたぁ♪」
「ははは、ピドの野郎めっ! 勝手に俺の事を言い触らしてやがるんだな? 悪い野郎だぜぇ」
「ううん、ピドさんは悪くないんですよぉ! 私たちが聞いちゃったからぁ、ね?」
「そうそう、どこかに格好良いウグイがいないか、ってね、聞いちゃったのよぉ!」
「でも、噂通りとっても立派な方でしたわティガ様って、若(も)しかして降海(こうかい)されてたり?」
「お? 海に行ったかって事かい? 当~然だよ! ウグイは海に行って何ぼだろう? 違うかい?」
「「「「すっごーいぃ!」」」」
「あれれ? 行かない男とか居るのかい? んなこたぁ無いだろう? おいらなんかアレだよ、もう稚魚の内に自然に行ってたよね、海! 普通だよ、普通」
「「「「素敵ぃっ!」」」」
「そう? そうかな? そうだよな! わはははは!」
「「「「うふふふ」」」」
聞きながら首を傾げていたナッキの横に、ティガと話している四匹の魚を連れて来たらしい、モロコのカーサが寄って来て声を掛ける。
「あ、王様! お客さんがいらっしゃいまして、今ご案内を…… なんでも女性のウグイの方々で四匹でティガさんを訪ねてこられたそうでして」
「へー、そうなんだね…… でもタイミングが悪かったよ、いや? 良かったのかな? 兎に角会う事が出来たんだから一緒に旅立ったり出来る、のかな?」
「へ? ティガさん旅に出るんですか?」
「そうなんだよカーサ、一つ所に長居出来ない|性質《タチ》なんだってさ、それで旅立つって――――」
「おお、ナッキの王様丁度良かったよぉ! こちらの素敵なレディ達がおいらを訪ねて来てくれたんだけどさぁ、俺の住処(すみか)に案内させて貰って問題ないよな? あとさ、上の池の南西側ってまだ産卵場所って空いていたよな、確か? あそこ俺たちで使っても良いかな? 許可よろ!」
ナッキは目を剥き出して驚きを隠そうともせずに返す。
「えっ? そ、それは良いけど、旅は? 雲は? 花弁は? 性質(タチ)は? い、良いの?」
ティガは喜びの絶頂、そんな感じの上ずった声で答える。
「何言ってんだよナッキの王様ぁ! 俺たちゃ友達だろ? ずっとこの『美しヶ池』で一緒に暮らすに決まってるじゃないの? 綺麗な嫁たちと可愛い子供たちに囲まれてさぁ! あ、この娘達、俺の嫁さん達、かな? 良いよね? こっちは俺の友達でこの『美しヶ池』の王様、その名も『メダカの王様』ナッキ様だぜ! 挨拶してくれよぉ!」
「「「「『メダカの王様』ナッキ様、ティガさんの妻です! どうぞよろしくお願いします」」」」
「ああ、はい、ようこそ……」
鮮やかな婚姻色に染まったメスのウグイたちを見ながら、男に二言って結構有るんだ、そう思ったナッキであった。
『美しヶ池』は夏を迎える前の一大行事、婚姻期を迎えていた。
ナッキだけはいや厳密に言えばその他一匹を含んだ二匹はその対象ではなかったが、ギンブナ、カエル、モロコ、メダカ、そしてウグイ……
それぞれより安全に生まれ変わった池でそれぞれの恋を成就させていたのである。
来るべき夏は嵐や大雨、突然の雷雨が頻繁に起こるらしい、そうカエルの大臣やモロコの議長に聞かされたナッキは、静かに、然(しか)し、はっきりとした覚悟を胸中で決めたのである。
――――どんな困難が襲ってきても、必ず僕が皆を守ってみせる! 王様なんだから!
そう口元を引き締めたナッキの周りでは、いつも通り、生まれたばかりの小さな稚魚やおたまじゃくしが、嬉しそうに鱗や鰭を引っ張ったりして遊び続けていたのであった。
これが『メダカの王様』、ナッキの物語、その最初の部分なのか…… 興味深い事この上ない。
次は三年後、そこで再び観察を再開する事としよう。
その時も是非、お付き合い頂ければ重畳である。
では、再びお会いしましょう。
私は観察者、セイヤ・コウフク、存在の行いを観察し、時に思いを経験し共有するものである。
観察の四 メダカの王様 了
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