「レトさん。」
「なに」
「綾鷹取って。」
「自分で取れよ。」
「えー……そんぐらい取ってくれたっていいじゃん。」
「…はい。」
「ありがと。」
────────
特に呑みたくもない綾鷹を口に流し込む。
別に綾鷹が嫌いになったわけでは決して無い。てか、そんなことは一生無い。
なぜ飲んでいるか。
それはレトさんの顔を見るためだ。
なんで見たいかって?…そんなん、野暮じゃね?
ま、考えて見てほしい。「レトさん顔見せて」なんて言った日には「キモっ」と言われて俺の心が傷つくだけ。
それは恋している俺にとっては最悪となるダメージなのだ。
「はぁ………。」
今日も俺は鼻声野郎のせいで、また頭を抱えることになるのだ。
───────
「キヨ君。」
「?」
不意に呼ばれた俺は慌てて振り返る。
「…綾鷹、最近飲みすぎじゃない?」
しまった。痛い所を突かれた。
確かにこの頃綾鷹を倍の頻度で飲んでいた。
それに気付かれたことに対して喜んでいる自分と、理由を必死に考えて青ざめている自分がいる。
「綾鷹、旨いじゃん。」
シンプルな言葉を返した。
「ふーん。そっか。」
「うん。」
「なんか、俺。気にしすぎてたみたい。」
「へぇ。」
真顔だけど恥ずかし紛れに言う君をとても愛おしく思えてしまう。
けど、言わない。
この気持ちは。
───────
「──でさ、やっぱりこの子はね。」
「……もう、いいって。」
呆れた顔でこちらを見る。
意外とこう言う話でもレトさんはこちらを見てくれる。
なら、綾鷹作戦と結婚したいアイドルや女優の話作戦で今後は進めていこう。
そう決めた瞬間だった。
斜め上から思いも寄らぬ爆弾が投下されたのだ。
「キヨ君は好きな人いるの?」
「へ?」
驚きすぎて、間抜けな声を出してしまった。
この声で察したのか「誰?」と小首をかしげて聞いてくる。
少しだけ切れ長な目にはなんとも言えない圧があり、答えざるを得なかった。
「……いるよ。」
「なんか、意外。」
「意外ってなんだよ。意外って。」
「どんな子?どんな子?」
俺の話も聞かずに楽しそうな、まるで実況中のような声を出して聞いてくる。
「……なんか、可愛いけどカッコよくて、一緒にいると楽しい。」
「俺の知ってる子?」
「まぁ、多分。」
「………そっか。」
レトさんが少し悲しそうな顔をしたのは見間違いだろうか。
もし見間違いでなかったら。
なんてな。
けど、今の雰囲気で冗談半分で言ったらこの関係も壊れないし、気持ちも知れる。
聞いて、みよっかな。
──────
「ね、レトさん。」
「ん?」
「おれさ、レト……」
「……ルトのアンパンマンカレー好きなんだよね」
「は?」
「…………あれ、甘くない?」
「たまに食べると旨いよ。」
「…あっそ。」
レトさんは不服そうな顔をして、スマートフォンへと目線を向けた。
駄目だ。冗談半分でさえ言えやしない。
どんだけ自分が傷つくのが怖いんだよ。
馬鹿だ。
俺は、意気地無しだ。
「キヨ君?」
「ん、なんでも無い。」
もういい。この関係が壊れなければ。
俺は、それで。
そう思ってまた、いつも通りの笑顔でへらりと笑った。
コメント
5件
好き!
アンパンマンカレー…。美味しいよな…。(え?そこ?)