最近キヨ君が名前をよく呼んでくる。
気のせい…なのかな?
────────────
今日だって「レトさん」なんて、オフではあまり言わない癖に。
それで、こっちを見た後ちょっと間をあけてから「綾鷹取って。」
何なんだよ。綾鷹ロボットじゃないんだが。
けど、まぁ渡したときに美味しそうに飲むからいいんだけど。
それにしても飲みすぎな気がする。
だっていつもはその日に一回ぐらいなのに。
純粋に気になる…。いいよね?少し聞くぐらい。
「キヨ君。」
「?」
凄く不思議そうな顔でこちらを見てくる。
「…最近、綾鷹飲みすぎじゃない?」
そう聞くとキヨ君はスンッと真顔になり、そのまま止まってしまった。
「キヨさーん?」
そう声をかけても届いてない様で、反応がなかった。
ピクリとキヨ君が動いた。
「綾鷹、旨いじゃん。」
は?
そんな、単純な、ことなのか?
ま、こんな奴だ。そりゃそうだろう。
これじゃまるで俺がコイツのこと……。
………………
そんなわけないか。
「ふーん。そっか。」
「うん。」
「なんか、俺気にしすぎてたみたい。」
阿呆らしい。馬鹿なコイツに綾鷹を沢山飲む理由なんてあるはずがないのに。
そう思うとなんだか恥ずかしくなってきて
軽く笑ってしまった。
「へぇ。」
何事もなかったかの様に君は返事をする。
それで俺はどうも思わない。
うん。この気持ちはなんでも無い。
──────────
ずっとピーチクパーチク五月蠅いな。
もう、この話を100回は聞いているかも知れない。
そんなにアイドルちゃんたちと結婚をしたいならお前なら簡単に会えるだろうに…。
そんなこと言ってもコイツはいつも聞かない。
だから、もう諦めた。
おとなしく聞くしかない。
だが、今日は長い……。はぁ…。
「……もう、いいって。」
肩をがっくり落としてキヨ君の方を見てそう言う。
それを聞いてキヨ君は薄くだけどはにかんだ様な笑顔を見せた。
……いらない。こんな気持ち。
ゴミ箱の蓋を開けようとしても開かない。
開けたいはずなのに開けたくない。
そうだ。自分から開けれないなら、力を借りよう。
「キヨ君は好きな人いるの?」
「へ?」
わっかりやす。
馬鹿な面して、声まで裏返って
ここまで来たら気になるな……。
「誰?」
「いる」そう聞こえた。ほぼ俺と同時に言ったがハッキリ。耳に残った。
「なんか、意外。」
無意識に出た言葉に続いて「どんな子?どんな子?」と急かしてしまう。
だって恋バナなんて話すやつなんていないもん。
既婚組は惚気しか言ってこないし。コイツはアイドルばっか。
俺だって青春したかったんだよ!
「……なんか、可愛いけどカッコよくて、一緒にいて楽しい。」
多分気付いてはないだろうが真っ赤な顔をしてそのことを告げてくる。
「俺の知ってる子?」
そう聞いたら曖昧にもごもごしながら「多分」と。
誰なんだろ。やっぱりアイドルかな。
うーん。分からん。
そう思いながらこの気持ちを捨てるためゴミ箱を開ける。
あ、開いた。
この甘い空気からも脱出したくてゴミ箱へと気持ちをゆっくり落としていく。
だが、ぐいんっと引っ張られるように蓋が閉まってしまった。
え?
なんで?
──────────
「ね、レトさん。」
「ん?」
気持ちを捨てたい焦りと戸惑いで適当な疑問文になってしまった。
「おれさ、レト……」
「……ルトのアンパンマンカレー好きなんだよね。」
「………………あれ、甘くない?」
なるほど。この言葉でゴミ箱よ。反応したんだな。
分かってるよ。この気持ちを見ないのは意気地無しのすることだって。
けどさ、こんな気持ちは見てはいけないから。
いらない。邪魔なだけ。
こんなの知らないもん。
ぐしゃりと俺は無理矢理気持ちを潰して
また、いつも通り、目を細めて笑った。
コメント
7件
ゴミ箱のとこの表現、ちょー大好き🥺🥺 こーのさんの小説が上がっていると、気分まで上がってしまうのは 私だけだろうか…?