テラーノベル
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距離を置く、と決めたはずだった。
僕は、若井と話さない。
隣に立たない。
目も合わせない。
それなのに、
世界のほうが、僕を逃がしてくれなかった。
最初は、小さなことだった。
プリントが回ってこない。
グループ分けで、最後に残される。
話しかけると、一拍の沈黙が落ちる。
悪意は、はっきりしていない。
だからこそ、否定もできない。
「気のせい」
「たまたま」
そう言われたら、終わりだった。
一番つらかったのは、
“聞こえないこと”を利用され始めた時だった。
背後で、誰かが名前を呼ぶ。
でも、僕は反応できない。
聞こえていないわけではない。
すると、くすっと笑い声が漏れる。
「ほら、やっぱり」
「聞こえないフリ」
「無視されてる気分なんだけど」
僕は、怖くて振り向けなかった。
振り向いた瞬間、
「今さら?」という顔をされるのが、
分かっていたから。
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俺は、すぐに気づいた。
昼休み、元貴の席の周りだけ、
妙に空間が空いている。
話しかけても、返事は最小限。
視線は、机の上。
俺は、拳を握った。
(まただ)
涼ちゃんが、以前言っていた言葉が頭をよぎる。
――理由を知らないやつほど、残酷だ。
決定的だったのは、体育のあとだった。
更衣室の前。
ざわざわした声。
元貴は、後ろから声をかけられたことに
気づかなかった。
「ねえ」
反応がない。
「……無視?」
肩を、強く押される。
よろけた拍子に、ロッカーにぶつかる。
「聞こえないんだっけ?」
誰かが笑う。
「都合いいよね、それ」
「先生に言えば?」
「病気だからって」
元貴の耳には、全部聞こえていた。
俺の声じゃないから。
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そこに、若井が割って入った。
「やめろって言ってんだろ」
声は、低く、抑えられていた。
その温度が、逆に怖かった。
「なに、また庇うの?」
「恋人かよ」
その一言で、若井の理性が揺れた。
「……関係ない」
「関係あるだろ」
「聞こえないって言えば何でも
許されると思ってんの?」
周りの声が怖い。
僕は、若井の服の裾を掴んだ。
震える指。
「……やめて」
震えた声で、若井に届ける。
「……もういい」
その声は、涼ちゃんだった。
いつの間にか、そこにいた。
涼ちゃんは、周囲を一瞥する。
「続けるなら、全部記録する」
静かな声。
「病気のことも、発言も」
「先生と、保護者と、全部」
空気が、変わった。
誰も、笑わなくなった。
その日以降、
直接的な言葉は消えた。
でも――
視線は、続いた。
ひそひそ声も、続いた。
「面倒なやつ」
「関わらないほうがいい」
それは、僕の居場所を、確実に削っていった。
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