「…..ここだな」
俺たちは指定のショッピングモールに着くと、辺りを見回した。
「……誰もいない….」
「おっかしいなー、ここで合ってるはずなんだけど…..」
『『地下!!地下ダ!!』』
携帯が鳴った。この携帯には血盟の研究部が発明した少し特殊な人工知能が搭載されているので、任務が行き詰ったときには助言をしてくれる。
「地下かよォ….」
「…早くいこう、死人が出る前に」
「だな!!」
___地下到着。
「ッ水浸しじゃねぇか!!!!」
「….真、溺れない…?」
「アァ?!舐めンな!!!」
と言っても恐らく弦のそれは冗談ではなく、事態の深刻さを認識しての発言だった。
水源は分からないが、指定された強盗団と人質がいるであろうフロアは洪水のようになっていて、俺の胸辺りまでの水深があった。
子供なら、簡単に溺れてしまう深さだ。
「俺の変異なら何とかできる….けど…10分しか使えねぇから犯人までたどりつけても役に立てねぇ…」
「使え」
「へ?」
あまりの即答に動揺してしまう。
「真の変異を使わなきゃ犯人に辿り着くことさえできない。任務は犯人を捕らえることだけじゃない、人質の保護も。犯人に辿り着いたら俺が闘うから真は人質を救ってくれ。….頼む。」
「…そういや首席だったな!!!頼んだぞ!!」
「応」
弦の返事を聞き、俺は指を噛み血を舐めた。
「ったくもう人使いが荒いんだから…ってえぇ!?なんでこんな水が?!ていうか弦にぃじゃん!」
「…ごめんな実、今ちょっと俺たち急いでて….この水をどうにかして欲しいんだ…」
実は少しぽかんとした後、にかっと懐かしい笑顔をうかべた。
「なるほど!!兄さんと共闘してるのか!!了解!」
すると実は、両手で自分の目を覆いこう言った。
「「沈め。在るべき所に帰り給え。」」
…すごい、水が無くなった。
「ありがとう…実は凄いな…」
「へへ、表面に僕が出てきてるだけで、事態を操ってるのは兄さんだよ。ほら!行こう!」
不思議な感覚と、圧倒的な強さを前に立った鳥肌を抑えきれないまま俺は実と走った。
しばらく走っている内に、人質と犯人のいるところまでたどり着いた。
(….情報通り。人質25名….重傷者2名は腹部を刺されてるな。犯人のうち1人は水に関する変異….近くに凶器になり得るものが無い…ということはまだいる。)
「おいおい来ちまったじゃねぇかぁ、坊ちゃん2人は警察かァ?」
「…ねぇ弦にぃ、あの子」
「….ッ」
….違う。重傷者、3名だ。実が水を無くしてくれる前に子供が溺れてしまったんだ。呼吸の仕方からして恐らく肺に水が入ってる。一刻を争う。
「無視はやめとけ無視はァ。水が沈んだのもお前らの仕業かァ?」
(…落ち着け。判断をしろ。実が出てこれる時間はあと3分程。水を沈めてから咳込む描写が多く見られたしおそらく代償はある。なるべく負担が軽くて事態をマシにできることを頼め。)
「おい舐めてんのかァ?せっかく死ぬ前に世間話の時間設けてやったのによォ……まぁいっか。ここにいるやつ全員死ぬし」
今血を摂取させるわけにはいかない。まだ何も整理出来ていない。
「待て」
「あァ?」
「名前は?」
「…ンなこと聞いてどうすんだよォ、俺は多岐だ」
「多岐、仲間は何人いる?」
「俺一人だよォ、見ればわかるだろォ」
「あぁ、見れば分かる。お前一人の所業じゃない。」
「…鬱陶しいなァお前。そいつら2人は俺がやったんだよォ。そもそもここに通じる入口はひとつしかねぇしお前たちが来た時誰もいなかっただろォ。もういいや、めんどくさい。じゃあねェ」
「実!!!!!人質の中にグルが混ざってる!!多岐と重傷者2名の動きを封じてくれ!!」
「もーギリギリだなぁ。了解。」
「「止まれ。万物の流れ、邪魔する事勿れ。」」
すると、多岐と重傷者2名の動きは止まった。
「あと2分のうちに何とかしてね」
「…うん。ありがとう実。」
俺は常備しているカッターで腕に傷をつけ、血を舐めた。
「…おい多岐。吐け、どっちがお前の仲間だ。」
「…..重傷者に変異使うとかイカれてんのか?」
「..さっきお前が言ったように、このフロアには俺たちが通った以外の通路がない。それに誰かが潜んでる空気も感じなかった。だけど腹部を刺されている人間がいる時点で”水”以外の能力を持った奴がいる。それがお前なのか、はたまたもう1人の方なのかはわからないが、仲間がいるなら政府にもバレにくい人質の中に混ぜるのが常套。更に警戒するなら傷をつけて重傷者の中に紛れ込ませる…と判断した。」
「あーあ。バレてんぞーこのガキ馬鹿じゃねぇみたい」
すると、動けないまま重傷者の内華奢な女性の方が口を開いた。
「ご、ごめんなさい….もっと、もっと上手くやるわ….ごめんなさい….」
酷く怯えているように感じた。
どちらにせよ、多岐という男の方は気絶でもさせておいた方が良い。
「….お前は少し黙っててくれ」
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