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「はァ?」
弓を引くように構える。
「ははっ、何してんだァこいつ」
手を離すと、血で構成された弓が肩に刺さった。
「痛ッッでぇぇええぇぇクソッ!!!何すンだよ!!!!」
「…タフだな」
もう2発、両腕に刺すと男はショックからか気を失った。
「おー!弦にぃすごっ…ていうかちょっとグロいなぁ….」
実の方を向くと、一刻を争っていた子供の救命措置を行ってくれていた。
「….真より伝わる…」
「はは、兄さん怒ってるよ?この子はもう大丈夫だし、僕はもう時間切れだから兄さんにかわるね。またね!」
「ありがとう、実。またね」
そういうと真の変異は解けた。
「てっめぇ!!」
「ごめんごめん、真の変異で助かった。ありがとう。」
「おう…っつーかどうにかしなきゃなんは女の人の方だな」
「….うん」
すると真は激しく咳き込み、頭を抱えた。
「っ真!!大丈夫か?!」
「あ”ぁ大ッ丈夫!!こんくらいで事態抑え込んでんだ、上出来!!!すげぇな弦は!」
「….うん」
「…つーかお姉さん、この、えーっと…多岐?とグルなの?」
真が話しかけると、女性は震えながら言った。
「…あの..この男は….多岐は…死んだの…?」
「…殺してない。ショックで気絶しただけ。」
「っっ殺してくれればよかったのに…!!!!こんな….人を苦しめて….お金を儲けるような輩..」
予想と随分違う反応に戸惑った。てっきり仲間なのかと思っていたが、事情があるのだろうか。
どちらにせよコミュニケーションは真に任せた方がいい。
「あー…お姉さん、俺らは厳密に言うと警察じゃなくてな!無理やりどうこうしようとはしないから、とりあえずお姉さんとその横にいる腹刺されてる人の手当させてもらってもいいかな?」
真がそういうと女性は頷き、素直に応じた。
「…真、今多岐を柱に縛ってきた。2人の手当も俺がするから、真は話を聞いて。」
「おう!!分かった!」
「….その子にも酷いことをしてしまったわ。償いたい。あの男を殺して私も死にたい。」
女性は、先刻実に手当され一命を取り留めた子供を申し訳なさそうに見つめた。
「んー…お姉さん、名前は?」
「….澪です。雨野 澪(あまの れい)。」
「綺麗な名前っすね!…澪さん、あなたの変異はなんですか?」
「….水を、出します。歳を重ねるにつれ、思う量出せるようになってしまいました。」
「なるほど…さっきの水量は澪さんの変異だったんですね….」
「本当に….すみませんでした..。この狭い範囲なら….人を巻き込んで….あの男を殺せると思って….本当に….ごめんなさい…」
相当多岐という男に恨みがあるようだ。窮地に立たされこちらに寝返っているのかとも思ったが、そうでは無さそうだ。
「救けるのが遅くなって、ごめんね、澪さん。」
真がそう言うと、女性は泣いた。
「救けていただく権利は無いのです….あの男と同じように….私も人を傷つけてしまった……」
「…澪さん、多岐との関係、教えてくれる?」
「…私には夫と息子がいました。裕福ではないけれど、こじんまりとした幸せな暮らしを送っていました。でも、夫の勤めている会社が倒産して、私のパートの収入だけではどうにもならなくなっていきました。」
記憶を辿るようにゆっくりと話す女性の目には、大粒の涙が溜まっていた。
「ある日、夫は借金を作ってきました。借りた先が、多岐という男でした。借りたお金は少額で、夫もすぐに働き手を見つけたので1週間もしないうちに返せる状況になりました。それなのに夫が多岐を訪ねると、額が何倍にも跳ね上がっていました。」
「….うん…うん。」
真は、辛そうに、悔しそうに顔をしかめて聞いていた。
「それから何週間か経ったある日、夫の仕事が休みだったので私は息子を夫に任せ、パートに出ていました。帰宅し、玄関の扉を開けた時、目の前には多岐の姿がありました。夫と息子は多岐に刺され、倒れていました。」
「….亡くなったの?」
「…はい。何のためにお金を借りてまで生きたのか、分からなくなりました。全てを無に返す程の絶望と、多岐に対する殺意しか、私にはありませんでした。多岐は私にこう言いました。」
「「協力すれば俺を殺させてやる」と。」
「私にはもう、その言葉以外縋るあてがありませんでした。馬鹿なことをした。利用されているのだと分かっていたはずなのに、家族の仇を取ろうなどと思ってしまいました。そして、今日を迎えました。多岐はそこにいる男の人と私を刺し、私には追っ手が手こずる程の水を出せ、そして俺が危なくなればまた水を出し助けろ、と言いました。」
「….それで、この機会を利用して多岐を殺すしかないと思ったんだね」
「….はい。本当に、ごめんなさい。謝っても無駄だけれど、贖罪になんてならないけれど。」
俺たちが言葉に詰まっていると、先程の子供が口を開いた。
「おねえさん、優しいよ。わたしを刺そうとしたとき、かばってくれたよ。おねえさん、そのせいで刺されちゃったの。」
すると、その子の横にいる母親であろう人物も話を続けた。
「私も娘も、貴方に感謝しています。庇ってくれた事も勿論そうだけれど、私たちに被害が無いように、あの男にだけ水を流していたのを知っています。男がそれに気づいて貴方を殴ったから、調整がブレてしまったのよね。それをこの子が吸ってしまったの。」
女性は…雨野 澪は泣いた。心做しか、地面は雨野の涙で湿っているかのように見えた。
「息子と同じくらいの歳なの….生きていて欲しかった….もっと玩具を…買ってあげたかった….。」
その場にいる、全員が黙った。
「痛ッッでぇなァ…っておい!!!テメェ家族の仇は忘れたのかァ?仕事しろよ仕事ォ」
雨野が立ち上がる前に、真が立ち上がった。
「….はは、もういいよ。もういい。」
「なんだァ?お前」
「もう、いい。存在しない方がいいよ、お前は。」
そう言って真は俺が刺した矢を引き抜き、多岐のこめかみに当てた。