がちゃりと扉の開く音がする。
アマラ「お、おかえり。どうだ?」
ジーク「全くダメだ。起きそうにない。」
ルスベスタン「すみません。部屋をお借りしちゃって。」
ジーク「別にいいけど…それでアマラ。」
アマラ「分かってる。ちゃんと説明する。とりあえず、どういう訳か分からないが…私が来るまで待っててくれたんだよ。悪魔を殺すのを。」
クリウス「うん。」
アマラ「とりあえずお前の考える最悪の状態は免れた。」
ルスベスタン「最悪?」
ジーク「…前に悪魔の死体が災害を引き起こしてるのを見かけたんだ。だから考え無しに殺すとまずいかもと思って。避難も出来ないからな。」
ルスベスタン「悪魔を殺さないよう指示したのは、貴方だったんですね。」
ジーク「ああ。でも俺は気絶させろとは言ってないぞ。皆が起きるまで待ってて欲しかっただけで…」
アマラ「勝手に気絶したんだよ。精神に関係する魔法を食らってたみたいでな。全部こいつから聞いただけだけど。」
そう言い、アマラはルスベスタンを指で指す。
ジーク「…前は怒鳴って悪かった。」
(なんだこの違和感…。)
ルスベスタン「いえ全然構いませんよ。誰かを起こしに行ってたんですか?」
ジーク「知り合いが二人寝てて…1人は完全に行き倒れみたいだったから、流石に移動させたけど…全然反応しなかった。」
クリウス「聞かないと分かりそうにないね。」
そう言い、クリウスは寝ているジハードに視線を向ける。
ジーク「…いや俺としてはお前のことも説明して欲しいんだけど…」
クリウス「え?あっそっか!ごめん!アマラは知ってたし…ルスベスタンも知ってたみたいだからつい…」
ジーク「ええと、クリウス殿下…なんだよな?」
ジークはクリウスを指でさしながら、アマラに聞く。
アマラ「ああ。因みに王族を指で指すと、へし折られるぞ。」
ジーク「待ってなにを?」
アマラ「……。」
ジーク「…大変申し訳ございませんでした。」
クリウス「あれはからかわれてるだけだよ。そもそも身分隠してたこっちに非があるんだから、とって食べたりしないよ。…実は俺がアマラに協力してたのは、そもそも落とした王証を拾われたからなんだよね。」
ルスベスタン「王証っていうのは、その名の通り王族の証ですね。ブローチみたいな。」
ジーク「なんでそんなの必要なん…ですか」
クリウス「楽な接し方でいいよ。知らないで押し通せばいいから。まあ色々あるけど…無実の人が殺されないために。後は…他国との交流時に、あぁこの人この国の人なんだって覚えてもらうためかな。後は人攫いにあって見た目が変わるくらい時が経ったときとか色々あるんだ。…そうこれがある限り誤魔化しようがない。捨てればバレるし、売れば良くて盗賊扱い、悪くて王族殺害の罪に問われる。…何年経ってもね。」
アマラ「その帰るに帰れなくなった、家出息子の為に、アタシはある対価を提供した。家出するキッカケになったローズ殿下との再会をな。…コフリーに関してはマジで知らん…。」
ジーク「再会って…ローズ殿下は…」
クリウス「死んでても良かったんだ。一目見たくて。」
ジーク「…悪かった。」
クリウス「構わないよ。」
アマラ「そういやお前なんであんな所居たんだ?」
ジーク「ああそれは、バレて捕まってた。」
アマラ「は!?」
ジーク「何かあったら困るし、俺はそろそろ城に戻る。」
アマラ「まてまてまて!」
ジーク「命の危険はまぁないみたいだし…」
ジハード「戻らなくていい。」
ルスベスタン「目が覚めましたか。戻らなくて良いというのは?」
ジハード「説明するべき立場なのに、すぐ説明出来ずすまない。どういう訳か君ら4人には効いてないが…周りが全員寝ているのは夢を見ているからだ。」
一同「夢?」
ジハード「俺の魔法は、あったことを無かったことにできる魔法だ。指定した時間の中に起こった事実を消せる訳じゃない。だから、あったはずの現実を夢に変換してるんだ。」
ジハードは懇切丁寧に説明するが、全員ピンと来ず、首を傾げる。
ジハード「やっぱり分かりにくいよな…どう説明すれば…」
アマラ「…うーん、この場所だけ擬似的に巻き戻してるって事か…?今まで起こったアタシ達が暴動を起こしたのも、悪魔が襲撃したのも全て夢になった。…その夢ってどれくらいハッキリしてるんだ?」
ジハード「暴動を起こしてたのか…?えぇと、起きてすぐはすごくハッキリしてる。ただ時間とともにどんどんハッキリしなくなっていく。夢だからな。」
ジーク「…擬似的ってのがも正解かもな。そう見えるだけというか。じゃないと、俺が城で飲んでた紅茶は一体なんなんだってなってくるし。」
クリウス「待ってくつろいでたの!?心配して損した…」
ジーク「お互い様だろ。」
ジハード「大体その認識で合ってる。」
ルスベスタン「暴動が無かったことになるなら、確かに戻る必要はないですね。」
ジハード「後これは…すごい身勝手な頼みなんだが…寝ている人達を無理やり起こさないで欲しい。自然に目は覚めるから。…ここのヒトを傷付けたい訳じゃないんだ。どの口がと思うかもしれないが…」
クリウスはルスベスタンと目を見合わせ、ジハードに問う。
クリウス「…因みに無理やり起こしたらどうなるの?」
ジハード「それは…十中八九精神が崩壊するだろうな。夢は精神に大きく影響を受けている。無理やり夢に現実をはめ込んでるんだ。少しでもはみ出せば…まぁさっき言った通りだ。長く寝たり二度寝する分にはいいんだが…」
クリウスは大きく息を吸い、ジハードに感謝を述べる。
クリウス「教えてくれてありがとう。俺、少しルスベスタンと話してくるね。」
そう言い、そそくさとルスベスタンとクリウスは部屋を出る。
ジーク「…無理やり起こしたらどうなるか知ってるあたり…」
ジハード「…多少はある。でもヒトは怖くて起こそうと思ったことは無い。助かったケースも無い。無理やり起こして無事な奴が居たら、それは奇跡だな。」
ジハードがそう言い終える前に遠くから、「よかった」と大声が聞こえてくる。
アマラ「…どうやら奇跡が起きたらしい。」
ジハードは深くため息をついた。
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