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13話目もよろしくお願いします!
今回はちょっと長いのでゆっくり読んで下さい🙇♀️
スタートヽ(*^ω^*)ノ
朝。
ゆっくり目を開けると、すぐ目の前に死神の顔があった。
赤い瞳が、じっとレトルトを見つめている。
レトルトは寝ぼけた頭のまま数秒固まって、
ぼんやりと赤く光る瞳を見つめ返した。
(綺麗な赤やなぁ。)
どうやら今日は珍しく、自分より先に起きていたらしい。
「……おはよう、キヨくん」
まだ眠そうな声でそう言うと、
死神はふわっと笑った。
『ん。おはよ、レトさん』
柔らかい声。
レトルトは眠そうに目を擦りながら、小さくあくびをする。
「俺より早く起きてんの、初めてやな」
少し意地悪そうに笑う。
『レトさんの寝顔、見てたくてさ….』
一瞬、時間が止まった。
レトルトはぱちりと目を見開く。
そして数秒後。
じわじわと熱が耳まで上がっていった。
「……っ///」
顔を逸らす。
分かりやすく赤くなった耳を見て、死神が吹き出した。
『うわ、また照れてる』
「……うるさい///」
レトルトは布団を引っ張って顔を隠す。
けれど、その口元は少しだけ笑っていた。
死神はしばらく黙って、レトルトの顔を見つめていた。
赤い瞳が、どこか揺れている。
そして少しして、ぽつりと口を開いた。
『なぁ、レトさん』
声が、少しだけ真剣だった。
『……レトさんの命、あと一週間で終わるんだけどさ……』
その先の言葉が続かない。
珍しく迷っているみたいな声だった。
レトルトは少しだけ目を伏せる。
そして、小さく答えた。
「……うん」
静かな返事。
死神は少し困ったように笑った。
『なんかやりたいこととかないの?』
『今まで出来なかったこととかさ。 やり残したこととか….』
『俺でよければ、付き合うよ?』
その言葉に、レトルトは少し考えるように天井を見た。
(やりたいこと….か….)
昔なら、すぐに「ない」と答えていたと思う。
でも今は違う。
レトルトはゆっくり笑った。
「……んー」
そして、死神を見る。
「キヨくんと、最期まで一緒に過ごしたい」
死神が目を見開いた。
レトルトはそのまま、少し照れくさそうに続ける。
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「キヨくんがいてくれるだけで、俺にとっては特別な時間なんやで」
「俺な、ずっと一人で生きていくって思ってた。死ぬ時も1人なんだろうなって思ってた。」
「でもキヨくんがおったから……」
死神と過ごした煩くて愛おしい日々が頭に浮かぶ。
「楽しいこと、たくさんできた」
「いつも通りの日常が、全部特別な時間になった」
「今まで出来なかったことも、キヨくんが叶えてくれた」
そして最後に、レトルトはにかっと笑った。
「俺、今なら心置きなく死ねるよ」
その笑顔は、眩しかった。
死神が今まで見てきたどんな笑顔より、ずっと。
初めてお化け屋敷で笑った顔よりも一一
ゲームで勝った時の顔よりも一一
今の笑顔が、一番綺麗だった。
死神が今まで見送ってきた人達は期限が迫れば迫るほど暗くなり絶望していたのに。
レトルトは何故こんなにも輝いていくのだろう。
だからこそ。
死神の胸の奥が、ぎゅっと痛くなった。
(そんな顔で、そんなこと言うなよ。)
そう思ったのに。
死神は何も言えなかった。
『……そっか』
死神の口から出た言葉は、それだけだった。
絞り出すような、小さな声。
胸の奥が苦しい。
レトルトはあんなに笑っているのに。
嬉しそうに、幸せそうに。
なのにどうして、自分はこんな気持ちになるんだろう。
死神は少しだけ俯いて、それから無理やり笑った。
『……じゃあさ!』
いつもの明るい声でぱっと顔を上げる。
『最期まで、俺らのいつも通り過ごそぜ!』
くだらないことで笑って、ふざけ合って、愛し合って。
最期の日まで、ずっと一一。
死神は笑った。
レトルトも、嬉しそうに目を細める。
「うん!」
そして、不意に身を乗り出した。
『……!?』
死神が目を瞬かせる。
次の瞬間。
軽く、おでこにキスが落ちた。
ふわっとした熱。
ほんの一瞬だけ。
『……レトさん?』
死神が目を丸くする。
レトルトはふふっと笑ってベッドから起き上がった。
「さて!」
大きく伸びをして、
「今日も仕事がんばろー!」
そう言って洗面所へ向かっていく。
死神はその後ろ姿を黙って見つめていた。
『……今のは、反則だろ///』
その声だけが、静かな部屋に溶けて消えた。
レトルトの仕事中、死神は邪魔をしない。
その約束を守るように、今日も静かに歌っている。
何度も何度も聞いたあの歌。
レトルトも自然と口ずさみ始め、 二人の声が静かな部屋に重なる。
少し前まで一人だった空間に、今は二人分の音があった。
仕事を終えて、 いつものようにスーパーへ寄る。
レトルトは夕飯の材料をかごへ入れていく。
いつもなら騒がしい死神が今日は妙に静かだった。
振り向くと、また鮮魚コーナーの水槽の前で立ち止まっていた。
レトルトは少し離れた場所から、その光景を見つめた。
水槽の中を、小さな魚たちが泳いでいる。
青い光が揺れて死神の透けた身体に反射していた。
死神は何も言わず、 ただじっと泳ぐ魚達を見つめている。
消えかけた命。
その小さな姿を、”誰か”に重ねるみたいに。
(――レトさん。)
そんな言葉が、心の中で浮かんだ。
今まで何度も命を見送ってきた。
数え切れないほど。
泣き叫ぶ人もいた。
怒る人もいた。
静かに消えていく人もいた。
全部見てきた。
全部、見送ってきた。
なのに。
こんな気持ちになったのは、初めてだった。
苦しい。
胸の奥が痛い。
嫌だ。
まだ隣にいてほしい。
もっとゲームして。
もっと歌って。
もっと笑って。
そして、死神は初めて願ってしまった。
――死なないでほしい。
死神なのに。
そんなことを思ってしまった。
「こーら!!」
レトルトの声が飛ぶ。
「なんか変なこと考えてるやろ!」
その言葉に、死神ははっと顔を上げた。
『っ……! か、考えてねーよ!』
慌てたように言って、無理やり笑う。
けれど、その笑顔は少しだけぎこちなかった。
レトルトはそんな死神を見て、小さく笑う。
(分かりやすい奴やなぁ)
いつもより静かなとこも。
急に黙り込むとこも。
何を考えているのか、なんとなく分かってしまう。
スーパーを出る頃には、空はもう暗くなっていた。
街灯がぽつぽつと道を照らしている。
二人は並んで歩いた。
しばらく無言だった。
そして帰り道の途中、レトルトがぽつりと口を開く。
「ねぇ、キヨくん」
死神が顔を向ける。
レトルトは前を向いたまま、小さく笑った。
「さっき俺のこと、死なないでほしいって思ってたやろ?」
その瞬間。
死神の足がぴたりと止まった。
図星だった。
何も言えない。
否定もできない。
死神はゆっくり俯いた。
そんな死神を見て、レトルトは困ったみたいに笑う。
「俺な、 今朝も言ったけど」
死神の心を優しく包み込む様な優しい声。
「キヨくんと一緒なら、死ぬことなんかなんも怖くないよ」
迷いなんて、一つもないまっすぐな目で、
「ずっと一緒にいてくれるんやろ?」
その笑顔は、昨日と同じだった。
嬉しそうで。
幸せそうで。
眩しくて。
死神は胸の奥が熱くなるのを感じた。
泣きそうだった。
でも泣かない代わりにぐしゃっと笑って、
『……当たり前じゃん』
声が少しだけ震えていた。
『レトさんと一緒にいるよ!約束な!』
2人は小指を絡ませて誓い合った。
「俺も死んだら、飛べるようになるかな?」
レトルトは夜空を見上げながら、にこにこと笑った。
『レトさん、飛ぶの下手そうだなぁ』
死神はわざと少し馬鹿にしたように言う。
『絶対変な飛び方するって』
「はぁ!?」
レトルトがすぐに言い返した。
「そんなことないわ!!」
『いやするね!!なんかこう……』
死神は腕をばたばた動かしながら真似をする。
『うわぁぁ!!落ちる落ちる!!とか言ってそう』
「言わん!!」
『言う!!』
「言わんわ!!!」
レトルトはムキになっていた。
「待てコラ!!クソ死神ー!!」
そう言って死神を追いかける。
死神はケラケラ笑いながら逃げた。
『ははは!レトさんこわーい』
「うっさい!捕まえてやる!」
騒がしい2人の声が夜道に響く。
少し前まで、一人で歩いていた帰り道。
静かで、ただ家に帰るだけだった道。
今は笑い声でいっぱいだった。
空には、いつの間にか星が輝き始めていた。
まるで二人を見守るみたいに一一。
ご飯を済ませて、シャワーを浴びる。
ドライヤーの音が止めば、自然とレトルトの足はいつもの場所へ向かっていた。
テレビの前。
いつもの定位置。
ゲームの起動音が鳴る。
それが、もう合図のようになっていた。
『レトさん!今日こそクリアするぞ!』
「わかってるって!任せてよ!」
『あーー!!そこ右!右だって!』
「分かってるって!」
騒がしくて、うるさくて。
でも、気づけばその声がない夜なんて考えられなくなっていた。
笑って、言い合って、また笑って。
ゲームが終われば、二人は同じベッドへ潜り込む。
暗い部屋の中。
すぐ隣にある気配。
他愛もない話をして、刺激を求め合って。
時には静かに寄り添って、互いの温もりを確かめる。
そんな時間が、いつの間にか当たり前になっていた。
二人にとっての特別な時間。
ずっと続いてほしいと思うほど大切な時間は――
どうしてだろう。
幸せな時ほど、あっという間に過ぎていくのだった。
そして――命の期限、前日。
明日の夜、 レトルトは死ぬ。
部屋の中にはシャワーの音が響いている。
レトルトは浴室の中。
死神はいつものようにテレビの前に座っていた。
ゲームの準備は万端。
コントローラーも置いてある。
いつもなら、「レトさんまだー!?」なんて騒いでいるのだが….. 今日は、静かだった。
死神はぼんやりとテレビの画面を見つめながら、レトルトに出逢った最初の頃を思い出して ふと笑った。
無愛想で。
何を考えてるか全然分からなくて。
話しかけても「うるさい」しか言わなくて。
全然笑わなかったレトルト。
そんなレトルトをからかうのが、面白かった。
困った顔も。
嫌そうな顔も。
呆れた顔も。
全部、面白くて。
でも気付けば 毎日笑ってる。
ゲームでムキになる顔。
照れて真っ赤になる顔。
楽しそうに笑う顔。
「キヨくん」って呼ぶ声。
全部が頭の中に浮かぶ。
死神は小さく笑った。
胸が苦しい。
痛い。
こんなの知らない。
こんな気持ち、初めてだった。
死神は膝を抱える。
テレビの黒い画面には、自分の姿なんて映らない。
死神だから。
うるさくて、騒がしくて。
全部が宝物みたいだった。
――終わってほしくない。
そう思ってしまうくらいに二人で過ごした特別な時間は部屋中に残っていた。
部屋を見渡していた、その時だった。
不意に 頭の奥がぐらりと揺れた気がした。
死神の表情が固まる。
そして次の瞬間――
(キヨ)
突然、頭の中へ声が直接響いた。
耳から聞こえる声じゃない。
もっと奥。
思考の中へ無理やり流れ込んでくるような、不思議な声。
知っている。
この声を。
忘れるはずがなかった。
死神になった、あの日。
何も分からず立ち尽くしていた自分へ、最初に響いた声。
姿は見えない。
どこにもいない。
なのに確かに“いる”。
(キヨ)
もう一度、 静かで重い声が頭の中に響いた。
(とうとう……100人目の命の期限が、明日だな)
その瞬間、死神 の肩がぴくりと震えた。
明日、レトさんは死ぬ。
分かっていた。
ずっと前から 数えていた。
分かっていたはずなのに。
言葉にされた瞬間、胸の奥が強く痛んだ。
頭の中に浮かぶのは、レトルトの笑っている顔。
思い出が一気に押し寄せ、 死神はぎゅっと拳を握った。
そして、頭の中の声は静かに続けた。
(100人目の命を見送れば、 お前は死神の役目を終える)
ただ事実だけを告げるように。
(その時は、私がお前を導こう)
死神は何も言わなかった。
レトルトが浴室にいることも忘れてしまいそうになるくらい、頭の中はその声で埋め尽くされていた。
でも。
一つだけ、どうしても聞かなければいけないことがあった。
死神は顔を上げる。
『……あのさ、 レトさんって死んだらどうなんの?』
返事はない。
死神は焦るように続けた。
『成仏する?天国に行くのか?』
『どこ行くんだよ』
『なぁ!答えろよ!』
気づけば早口になっていた。
長く感じた数秒間の沈黙の後、 頭の中の声は
静かに答えた。
(そうだな…. あの者は、天国だな)
その言葉に、死神の肩が僅かに動く。
(あの者の今までの人生を見させてもらったが なんの面白みもなく、つまらん人生を送ってきたようだな)
その言葉に死神の眉がぴくりと動いた。
(なんだよそれ。 何も知らないくせに)
言い返したい気持ちをグッと堪えた。
少しの沈黙のあと、声が続く。
(しかし、 あの者は多くの終わった命の原因を探り 名前を付け、送り出してきた)
(良い行いだった)
(命の終わりに意味を与える仕事だったのだな)
死神はゆっくり目を閉じる。
頭の中に浮かぶのは、白衣姿のレトルト。
誰にも見えないところで、ずっと命と向き合っていた姿。
そして思う。
(やっぱりレトさんは、すごい。)
『……そっか、レトさん天国に行けるんだ』
死神は嬉しそうに小さく呟いた。
レトルトが幸せな場所へ行ける。
ちゃんと報われる。
それだけで胸が少し軽くなった。
でも次の瞬間、死神 は慌てたように顔を上げた。
『あ、あのさ! 俺は!?』
焦ったように続ける。
『俺どうなんの!?』
死神は立ち上がって声を上げた。
『お願いがあるんだけどさ……。 俺、レトさんと一緒のところ行きたいんだ!』
頭の中の声へ、必死に言葉を投げる。
『俺のこと導いてくれるんだよな!?』
『なぁ、お願い!! 俺もレトさんと一緒の所に行かせてほしい!』
気づけば必死に懇願していた。
レトルトと約束した。
“ずっと一緒にいる”って。
だから一一。
頭の奥で、小さな笑い声が響いた。
(……はは。 ははははははは!!! お前が天国だと?)
笑いを堪えるような声。
(それは無理だな)
その言葉に死神は固まってしまった。
(お前は――地獄へ行く)
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
頭が真っ白になる。
『……は? 地獄……?』
意味が分からない。
『……なん…で?』
声が震えていた。
『だって…。 100人見送れば終わるって、 導くって言ったじゃん!』
『レトさんと、一緒に行けるって思ってたのに。 なんで。 なんでなんだよ!!』
気付けば死神は声を荒げていた。
(キヨ)
声は静かだった。
(お前は生前――人を殺したんだよ)
全身に衝撃が走る。
あまりの衝撃に死神は何も考えられず、その場に立ち尽くしていた。
(死神になる前に、お前の生前の記憶は消した。 だから覚えていないだろうがな)
淡々とした声。
(人を殺した人間は罰として、死神になる。
そして、命の最期を見届け続ける)
(そんな面倒な役目、好き好んでやる者などいないからな)
死神の手は震え、 頭がうまく働かない。
何を言われているのか、理解したくない。
(そして役目が終われば、地獄で罪を償い続ける。 命を殺めるなど許されない行為だ)
(お前は、天国へは行けない)
静寂。
死神の瞳がゆっくり揺れる。
そして、かすれた声が零れた。
『……俺が……?』
言葉がうまく出ない。
『俺が……人を、殺した?』
死神はその場に立ち尽くしたまま、動けなかった。
『……レ、レトさんとは… 一緒に、いれないの?』
必死に絞り出した声だった。
少しして、頭の中の声が返す。
(そんなに一緒にいたいのか?)
その問いに、死神は間髪入れずに答えた。
『うん!!』
ほとんど叫ぶような声。
『ずっと一緒にいたいんだ!』
胸の奥から溢れた言葉。
『俺、レトさんが……好きなんだ』
静かな部屋の中、 しばらく声は何も言わなかった。
長い沈黙。
そして――
(一緒にいる方法はある)
死神の顔が勢いよく上がる。
(レトルトを地獄へ連れていくことだ)
その瞬間、時間が止まった。
(お前に出来るか?)
(あの者の魂は真っ白だ。 何の悪にも染まっていない 綺麗な魂だ)
レトルトの顔が浮かぶ。
(地獄は酷い場所だぞ。 汚れた魂が集まり終わらない苦しみが続く 絶望しかない場所だ)
(そんな場所に、お前はレトルトを連れて行けるか?)
問いかけは、それだけだった。
死神は何も言えず、ただ 足元を見ていた。
ずっと一緒にいれると思っていた。
でも、一緒にいるためには レトルトを不幸にしなくてはいけない。
死神は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(……よく考えろ)
それだけ言い残して 声はふっと消えた。
続く