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帰りの車の中、交わす会話は互いになんとなく上の空だった。
彼は彼で言いたいことを何度も飲み込んでは、思いついたように世間話を口にしていた感があった。
私も私で、彼への気持ちをいつ伝えようか、やはり今日か、それとも日を改めた方がいいだろうかと悶々とし、口が重たくなっていた。
そんな中で話のリードを取るのはやはり塚本で、私は彼に声を掛けられてから答えるという、そんなやり取りが続いていた。
「着いたよ」
塚本の声にはっとして私は顔を上げた。慌ててシートベルトを外しながら、彼への告白はまた今度にしようと結論を出す。
「ありがとう」
車から出ようとした時、塚本が私に訊ねる。
「次の週末も会える?例えば日曜日」
頭の中に浮かんだカレンダーに予定は書き込まれていない。それに、今の私には彼の誘いを断る理由は何もない。だから、私はこくりと頷いた。
「じゃあさ……」
彼は言葉を切り、勇気を振り絞るかのような固い表情をする。
「うちに来ない?」
「え?」
どきりとして私は返答に迷った。
塚本は慌てたように付け加える。
「い、一応言っておくけど、別に下心とかはないから。外食もいいけど、部屋でのんびり一緒に過ごすのもいいかな、と。ほら、さっきさ、店でそういう感じのことを言ってくれたから、それでどうかな、と思ったんだけど、あはは、やっぱりまだ早かったか。ごめん、今のはなし。えぇと、そうだ。映画、行こうか。うん、そうしよう」
彼はうろたえた様子で言い直した。
正直に言うと、下心はないという彼の言葉はあまり信用できなかった。けれど、彼ならきっと私の意思に反するようなことはしないだろうと、なぜか確信のようなものがあった。
「いいよ。塚本さんの部屋、行っても。何か美味しいものを作って、ご馳走してくれるんでしょ?」
言い出したのは自分のくせに、彼は驚いた顔をした。
「え、ほんとに?来てくれるの?」
「うん。行っていいのなら」
みるみるうちに塚本の表情が明るくなった。
「明日からの一週間、頑張れそうだ。時間はどうしようか」
「そうねぇ……」
念のためカレンダーに予定を書き込んでおこうと、スマホを取り出した。カレンダーアプリを開いた途端、電話が入ってびっくりする。画面が変わったちょうどその時に、タップしようとしていた指が通話ボタンに触れてしまう。しまったと思った時にはすでに遅く、電話の向こうからよく知る人物の声が聞こえてきた。
『美祈ちゃん?おばさんだけど!』
慌てて強制終了させようとした手を、塚本に止められた。
どうしてと眉をひそめる私に、彼は吐息のような小声で言う。
「出ていいよ。今、『おばさん』って言うのが聞こえた。例の件でしょ」
「でも……」
「いいから」
伯母の電話に出るのをためらっている間にも、電話の向こうではしつこく私を呼んでいる。
『美祈ちゃん!ちょっと、聞こえてるの?!』
塚本はにっと笑う。
「なんなら代わりに俺が出ようか?」
「まさか!」
つい声が大きくなってしまい慌てて小声に戻す。
「自分で出ます。じゃあ、少しだけ、ごめんね……」
覚悟を決めた私はスマホに耳を当てた。
「もしもし……」
『んもうっ、美祈ちゃんったら、つながったのになかなか声が聞こえないから、どうしたのかと思ったわ。なかなか電話が来ないから、待ちきれなくておばさんからかけちゃった』
「えぇと、ちょっと、実は頭痛がひどくて帰って来て、さっきまで横になってたの。それですぐに連絡できなくて……」
佐山の時と同じ理由を口にする。怪しまれませんようにとどきどきしたが、伯母は私の言い訳を信じてくれたようだ。心配そうな声が返ってくる。
『あら、そうだったの。今はどうなの?大丈夫なの?』
「うん。薬飲んだから、もう大丈夫。ところで、ですね……」
私はちらりと塚本の顔を見た。なぜか彼の方が私以上に緊張した顔をしている。ごくりと唾を飲み込んで、私はきゅっとスマホを握った。
「お見合いの件はお断りしてください。お願いします」
『あらっ!』
伯母は驚いたように声を上げた。納得していないような口ぶりで話し出す。
『一郎さんと話が合わなかったっていうこと?こんなこと言ったらあれだけど、まぁ確かにね、見た目は美祈ちゃんのタイプじゃなかったのかもしれないわ。だけど、優しくいい人だったでしょ?仕事もちゃんとした所にお勤めだし、お金の心配だってないはずよ。ご本人もそうだけど、お家の方だってしっかりとしていていてね。言ってなかったかもしれないけど、お父様は某銀行の役員をされているのよ。それにね、さっき佐山さんから、この話をぜひ進めてほしいって連絡があったの。一郎さんたら、美祈ちゃんのこと、写真以上に素敵な人だった、結婚するならこの人だって思った、って言ってたそうよ。そんなにも気に入ってもらえているだなんて、素晴らしいことだと思わない?だいたいね。たった一回、たったの数時間会って話してみたくらいで、お互いのこと、そんなによく分からないんじゃないかしら。だからもう何回か会ってみて、それから決めてもいいんじゃない?』
途中で電話を切ってしまいたくなったが我慢して、私はきっぱりとした声で伯母に告げる。
「いえ、私とあの方とは絶対に合わないと思うの。だからごめんなさい、お断りします」
電話の向こうで、伯母がわざとらしいため息をついたのが分かった。
『あんなにいい方なのに、どこがだめだって言うのかしら』
あの生理的嫌悪感のことを話すべきかどうか迷う。そこに突然割り込んできた声があった。
『母さんにとってはそうだとしても、美祈ちゃんにとってはそうじゃないってことだろ。もういい加減にしなよ』
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