テラーノベル
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電話の向こうで聞こえた声は、従兄の誠人のものだった。
驚きながらも、救世主が現われたことに私はほっとした。
誠人が伯母から電話を取り上げでもしたのか、揉めるような二人の声が聞こえた。しばらくたってから、電話の声が従兄のものに変わる。
『美祈ちゃん、久しぶり』
その後ろの方では、伯母が何やら文句を言っている。
それを無視して誠人は明るく続ける。
『見合いの件、母さんにはよく言っておくからね。というか、俺とか新吾に相談してくれてたら、話自体やめさせることだってできたのに。こっちからでしゃばるのもなんだしなって、美祈ちゃんが助けを求めて来るのを待ってたんだよ』
「なんか、伯母さんの勢いに飲まれちゃって。気づいた時には、見合いに行く羽目になっていたというか……」
『本当にごめんね。美祈ちゃんが頼んでもいない見合い話、今後一切持っていくなって、きつく言っておく。もう心配いらないからね。そんでもって、うちの母さんのこと、許してやってね』
「許すも何も、おばさんなりに私のこと心配してくれたんだろうしね。とにかくありがとう。本当に助かったよ。今度何かお礼するね」
『例なんか別にいらないよ。それよりも俺、訊きたいことがあるんだよね』
「何?」
きょとんとして私は彼に訊き返した。
『ほら、なんて言ったっけ。えぇと、塚本さん、だったかな。その後彼とはどうなってるの?もうそろそろ付き合い出す感じ?』
「え……っ!?」
『こないだも言ったけど、彼、いいと思うよ。美祈ちゃんのこと、大好きって感じだったじゃん。従兄の俺にまでヤキモチ焼いてたよね、彼』
「そ、そんなのは気のせいじゃない?」
誠人の目にはそう映っていたのかと思うとひどく照れ臭い。今の従兄の言葉が、万が一にも塚本の耳に届いてはいないだろうかとひやひやした。
『で?いつ好きって言うの?』
「ま、誠人君には関係ないじゃない」
『そりゃまぁ、関係ないかもしれないけどさ。今まで美祈ちゃんの浮いた話って、聞いたことがなかったから、ちょっと気になったんだよ。ごめんね、野次馬で。それで、どうなの?もしかして、まだ言ってないとか?美祈ちゃんも、彼のことが好きなんだと思っていたけど、違った?まぁ、一応忠告しておいてあげるけど、あんまりのんびりしてると、脇から邪魔が入っちゃうかもよ』
誠人の言葉にどきりとして訊き返す。
「じゃ、邪魔ってなんのこと?」
『この前の二次会に、すみれちゃんの習い事の友達、いただろ?俺たちのテーブルに一緒にいた子たちだよ。どっちの子だったか忘れたけど、塚本さんのことを気に入ったみたいだったんだよな。亜由美ちゃんに、ぜひ合コンをセッティングしてほしい、とかなんとか言ってたのが聞こえた』
「へ、へぇ、そうなんだ……」
まったく関心のないふりを装って相槌を打ちはしたが、従兄の話に胸の中がもやもやとし始め、そわそわと落ち着かなくなった。
私の声の様子に微妙な変化を聞き取ったらしく、誠人はやれやれとでも言いたげにふっと笑う。
『ま、早めに素直になった方がいいんじゃないの?ってことで、俺は応援してるからね。じゃあ、また』
「あ、あの、本当にありがとう」
『どういたしまして』
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誠人との電話を終えて、これでようやく見合いの件は一件落着だとほっとすると同時に、疲労感がどっと襲ってきた。私はシートに背中を預け、長いため息をふうっと吐いた。
それを聞きつけた塚本が、労いの言葉をかけてくれる。
「お疲れ様」
私はおもむろに体を起こして彼に向き直る。
「電話、長くなってしまって、ごめんなさい」
「全然大丈夫だよ。それで、見合いの件はこれでもう終わったと思っていいんだよね?」
「えぇ。なんとか。従兄が助っ人に入ってくれてね。伯母にはよく言っておくからもう心配いらないよ、って」
「従兄っていうのは、その伯母さんの息子さん?」
「えぇ。塚本さんも、この前の結婚式の二次会で会ってるわよ。双子の片割れね。あの時私の隣にいた方」
「あぁ、あの人か。遠野さんがべたべたしていた人だよね」
「べたべたなんてしてなかったわよ」
からかう口調の塚本に私は苦笑しながら反論し、バッグを手にした。思っていた以上に、塚本を引き留めてしまった形になってしまい、そのことを申し訳なく思う。
「ごめんね。今降りるね」
一瞬、塚本の顔に残念そうな表情が浮かんだ。しかしすぐにそれを引っ込めて、笑顔を見せる。
「本当はもっと一緒にいたいけど、我慢するとしよう。今日は俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。週末楽しみにしてる。また連絡するよ」
「えぇ」
短い返事だけでは可愛げがないかしらと思い、私は言葉を付け加える。
「私も楽しみにしてる」
塚本は苦笑する。
「嘘でもそう言ってもらえると嬉しいよ」
「嘘じゃないわ。本心だから」
真顔の私に塚本はくすっと笑う。
「そっか、本心なら良かったよ。じゃあ、週末にね」
塚本は目元を緩めて柔らかい笑みを浮かべた。
甘くも見えるその笑顔にどきりとした。それに続くように、この笑顔を向ける相手は私だけであってほしいと、願いのような想いが唐突に胸の奥底から湧き起こった。今すぐ彼に気持ちを伝えたいような気持ちになった。
けれどまだ、そのための心の準備ができていない。だから喉まで出かかった言葉を飲み込む。
次に会った時には恐らく、この想いを彼に伝えることになるだろうという予感を抱きながら、私は車のドアを開けて地面に足を下ろした。
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