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#面白いかも?
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耀聖(ようせい)
179
ささみチーズ。
97
<翌日 19時過ぎ>
翌日の夜。
ピンポーン!
「えへへ、来ちゃった」
本来ならまだスーパーの仕事が残っている時間のはずなのだが、なぜか我が家の玄関にはエプロン姿の少女が立っていた。
「ソラ、私が揚げるからね!」
満面の笑みで宣言するのは、小川リオン。
……きっと母親に、
「空さんのところへご飯を食べに行く!」
とでも言って、早めに仕事を切り上げてきたのだろう。
「そのくらい働いてもらわないと割に合わないからな」
「なによ、その言い方! 揚げ物って結構テクニック必要なんだからね!」
頬を膨らませながらも、リオンは慣れた手つきで冷蔵庫を開ける。
そして昨日仕込んでおいた手羽先を取り出した。
(……もう完全に我が家の台所を自分の場所だと思っている)
「天ぷら鍋、変えたからね」
「ああ、あのごついやつか」
以前使っていた鍋では、どうしても揚げ具合が安定しなかった。
そこで底が厚く、温度変化の少ない鉄鍋に買い替えたのだ。すると驚くほど仕上がりが変わった。
皮はパリッと、中はジューシーに。
「やっぱり道具で味は変わるな」
「でしょ?」
リオンは得意げに胸を張る。
「頑張れ。いい奥さんになれるぞ」
「……空」
「ん?」
「それ、本気で言ってる?」
少しだけ真剣な顔になる。
「私は空の奥さんになりたいって、ずっと言ってるじゃん」
「来世で夫婦になれたらいいね」
「ふん!」
リオンは不満そうに鼻を鳴らした。昔から変わらない。
でも最近は、その好意を隠す気がまったくなくなってきている。
中学生の頃までは、こんなに露骨ではなかった。
しかし高校生になった今、遠慮というものを覚える気配はない。
「ソラ、手伝って」
「はいはい」
牛乳に漬け込んでいた手羽先を取り出し、水分を取る。
一緒に漬けていたネギを取り除き、十分に油を切る。
そして――
「投入」
180度に熱した綿実油へ、手羽先をゆっくり入れる。
ジュワァァ……。
食欲を刺激する音が部屋いっぱいに広がった――。
「ソラ、テーブル片付けた?」
「ああ。新聞紙も用意済み」
「さすが」
手羽先の唐揚げを食べる時は、これが我が家のスタイルだ。
新聞紙を広げ、食べ終わった骨はそこへ置く。最後にまとめて捨てる。
合理的だ。
「あとキャベツお願い」
「了解」
手羽先には千切りキャベツ。これがよく合う――。
「やっぱり手掴みで食べるのが一番だよね」
「リオンの場合、食べる量の方が問題だけどな」
「若いから大丈夫!」
「その理論は危険だぞ」
そんなくだらない会話をしているうちに、第一陣が完成した。
「ソラ! 塩!」
「はいはい」
揚げたての手羽先に塩を振る。
リオンは嬉しそうに一つ手に取った。
「熱っ……でも……」
ハフハフしながら口へ運ぶ――。
「……美味しい」
その表情を見ると、作った側としては悪い気はしない。
衣はない。だからこそ皮の食感が重要になる。
牛乳に漬けたことで肉には自然な甘みが入り、ニンニクの香りと塩味が絶妙に絡む。
シンプルだからこそ、素材と下準備が味を決める。
「これ、名前ないの?」
「ない」
俺は即答した――。
「毎回手羽先の唐揚げって呼んでる」
「じゃあ名前付けようよ」
「例えば?」
リオンは少し考える。
「……無限手羽先」
「安直だな」
「でも食べられるでしょ?」
「まあ……」
気付けば二本目。
いや、三本目――。
リオンは満足そうに頬張っている。
「だから言っただろ。食べ過ぎるなって」
「だって美味しいんだもん」
細身なのに、どこに入っているのか本当に不思議だ。
「キャベツも食べてるから大丈夫!」
「そういう問題か?」
笑いながら、いつもの夜が過ぎていく。
こういう時間も悪くない。
……ただ。
「そういえば」
リオンがふと思い出したように言った。
「美羅さん、今回は長い山行なんだよね?」
「ああ」
僕は頷く。
「ガイドの仕事だって言ってた」
「何日くらい?」
「明後日には戻る予定だったかな」
「そっか」
リオンは少しだけ心配そうな顔をした。
「あの人、すごいけど……山って怖い時あるもんね」
「大丈夫だろ」
僕はそう答えた。
「あの人だからな」
美羅さんは強い。
山の知識もある。
経験もある。
だから心配する必要なんてない。
……そう思っていた。
食事を終え、片付けを済ませた頃には十時近くになっていた。
ソファーでくつろいでいると、リオンがテレビの電源を入れる。
「ドラマ録画してるから見よう」
「勝手に録画設定するなよ」
「いいじゃん」
いつものやり取り。そのはずだった。
だが――
入力を切り替える前に、ニュース番組が始まった。
そして、画面に映った場所の名前を聞いた瞬間。僕の動きが止まった。
<今日午後、エイブル五竜からバックカントリーを楽しむため山へ入った男女二名と、ガイドの女性一名が行方不明になりました>
「……」
エイブル五竜。
聞き覚えがある。
いや。
知っている。
「ねぇ……空」
リオンの声が少し震えた。
「五竜って……」
僕は答えられなかった。
画面には雪山の映像。
そして続くニュース。
<遭難したのは神奈川県在住の二十代女性ガイドと、客の三十代男女二名の計三名で――>
心臓が嫌な音を立てた。
二十代女性ガイド。
山岳ガイド。
その条件に当てはまる人物を、僕は一人しか知らない。
「……美羅」
名前が、勝手に口から漏れた。
さっきまで笑っていた。
手羽先を食べていた。
いつものように豪快に笑っていた。
数日前だって、一緒に鴨を追っていた。
なのに。
テレビの中では、その美羅さんが――
「……」
頭の中が真っ白になる。
何か言わなければいけない。でも、言葉が出てこない――。
ただ画面を見つめることしかできなかった。
コメント
1件
うわあ……最後のニュース、一気に空気が変わってしまいましたね。さっきまで手羽先の唐揚げで和やかに笑い合っていたのに、画面に映った「五竜」「二十代女性ガイド」という言葉で全部が凍りつく感じが、読んでいても息が詰まりました。リオンが「空の奥さんになりたい」って真剣に言うシーンも可愛かっただけに、この落差が胸に刺さります。美羅さん、無事でいてほしい……続きが気になりすぎます。