テラーノベル
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病状の進行は残酷なほど速かった。
僕の足は急速に力を失い、ついには車椅子を押すことすらできなくなってしまった。ラジオドラマの録音も半ばのまま、僕は病院のベッドへと固定される日々を送るようになる。
「瞬、今日のセリフの練習なんだけど——」
病室のドアを開け、車椅子で入ってきた葵は、いつも通り明るい声を出そうとしていた。けれど、酸素マスクをつけ、痩せこけた僕の姿を見た瞬間、言葉を詰まらせた。
「……葵、ごめん。今日は、ちょっと声が出しづらくて」
僕の掠れた声に、葵はぐっと唇を噛みしめる気配を見せた。
「ううん、いいの。……ねえ瞬、無理しないで。ドラマのことなら、後でも——」
「後なんて、ないかもしれないんだ!」
感情を抑えきれず、僕は葵の言葉を遮って叫んでしまった。
言葉を口にした瞬間、病室に痛烈な静寂が走る。
自分自身の死の恐怖と、葵の「足」になれなくなった不甲斐なさ。何より、ボロボロになっていく僕の傍らで、日に日にやつれていく葵の姿を見るのが辛かった。
「……僕のせいで、葵までボロボロじゃないか。毎日のように病院に通って、睡眠時間も削って……! 僕なんかに構わないで、自分の体を大切にしてよ!」
「なによ……それ……」
葵の声が絞り出されるように震えていた。
「『僕なんか』って言わないで! 私はただ、瞬と一緒にいたいだけなのに……! 瞬の『足』になれなくても、今度は私が瞬の傍にいたいのに……! どうしてそんな酷いこと言うの……!?」
「葵の負担になりたくないんだ! 僕の『足』はもう動かない! 葵をどこへも連れて行ってあげられないんだよ!」
「そんなこと、最初から求めてない!!」
葵の叫びが病室に響き渡った。
「私が欲しかったのは『足』じゃない……! 瞬なの! 瞬の笑顔と、声が欲しかっただけなのに……っ!」
激しい雨の匂いが、開いた窓から流れ込んでくる。
ポロポロと涙をこぼしながら、葵は車椅子の車輪を激しく回し、病室を飛び出していった。
遠ざかる車輪の音を聞きながら、僕はただ、動かない自分の体を呪うことしかできなかった。
本当は「傍にいてほしい」と叫びたかった。
本当は「怖くてたまらない」と泣きつきたかった。
お互いを深く想い合うからこそ生じてしまった残酷なすれ違いの中、冷たい雨の音だけが、僕たちの痛みを打ち消すように響き続けていた。
コメント
1件
うわ、めっちゃ刺さった…「足じゃない、瞬なの」のとこ、泣くかと思ったわ。お互いを想うほどすれ違っちゃうの、リアルで辛すぎる。雨の匂いの演出も効いてるし、続きが気になりすぎる🔥