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家に入った瞬間、玄関の広さに圧倒される。

そして私が住んでいるマンションなんかとは比べものにならない、高級感満載の仕様に目を奪われた。

淡いグレーの大理石の床に2人は余裕で座れそうな革張りのスツール、片方の壁には大きなシュークローゼットが備わっている。

目の前の壁には、作者どころか何が描かれているのかすらよくわからない、けれど明らかに高そうな絵が間接照明の明かりを受けてかけられていた。


(田舎の家ならまだしも、マンションでこの広さって!)


私の実家は元々は農家だったこともあり、広い土間がある。

周りの家もほとんどそうだ。

けれどそれは、刈り取った稲や農作物を置くために必要な作業スペースのようなもの。

ただ靴を脱いで履くだけのためのものではない。

なんて贅沢な場所なんだろうと、私は驚きで口をぽかんと開けたまま靴を脱ぎ、スリッパに足を通した。


「……」


その一連の所作を黙って見つめていた稲垣さんと、目が合う。


「あ……すみません。こんなに豪華な玄関を見るのは初めてで……無作法にじろじろ見てしまいました」

「え? いや別に謝ることじゃないよ。全然無作法とも思わないし。ただ好奇心旺盛ってだけじゃん。それに無作法ってのはね、もっと別のことを言うんだよ」

「別のこと……ですか?」

「うん、そう」


稲垣さんは意味深にニコリと微笑み、私について来るよう促した。

廊下を曲がると、その先の正面に大きなドアが現れる。

稲垣さんはドアノブに手をかけ、肩越しに私を見つめると悪戯っぽくウィンクした。


「では綾乃ちゃんとご主人サマとのマッチングスタートといきましょうか♪」

「っ!? マ、マッチングって!?」


確かに相性があるから会って決めればいいと言ってくれていたけれど、マッチングスタートだなんて、まるで男女の出会いのような言い方だ。


(なんでいちいちこういう言い方するのかな、この人は……)


思わずこめかみを押さえながら、私は稲垣さんの後に続き部屋に入った。


「し、失礼しま……す…………っ!?」


(うっわぁ……なにこの部屋……リビング、だよね? いったい何畳あるんだろう? ……っていうかもはや何坪だろうのレベル!?)


ドラマや映画でしか見たことのない、あまりに広すぎる空間に、ベッドにもなりそうなしっかりとした質感のソファとガラスのテーブルが置かれている。

その向こうの壁にかけられたテレビはまるで映画のスクリーンのようだ。

ぽかんと口を開けたまま固まっていると、ふと爽やかなコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。

その香りの先に視線を向ける。

すると──


「……」

「……」

「……」


面白そうに私を観察している稲垣さんの他に、2人の男の人が無表情で私のことを見つめていた。


(稲垣さんのことイケメンって思ったけれど、この2人もまた……)


ひとりは私より少し上、30歳前後といったところだろうか。

長身ですらりとした体躯、涼しげな目元にどこか冷たさと人を寄せ付けない雰囲気を感じさせるものの、その端麗な顔立ちは思わず「綺麗」と呟いてしまいそうなほど整っている。

絵に描いたようなクール系男子だ。

もうひとりは多分40歳前後。

この人も長身で、パリッとスーツを着こなしているザ・紳士といった佇まい。

髪を綺麗に撫で上げ、清潔感が全身から漂ってきている。

静かな瞳は厳しさと優しさを兼ね備えていて、理想の上司ナンバー1、イケオジ、そんな称号が似合いそうな人だ。


(ザ・紳士がここの家の人なのかな。クール系の人は有能な秘書って感じ)


そう思っていると──


「お前が会わせたいと言っていたのは彼女のことか?」


有能な秘書と思しきクール属性の男の人が、感情の読めない声音で稲垣さんに問い質した。


(……ん? お前?)


この人は稲垣さんと同僚、もしくは先輩なのだろうか。

だとしても、上司、もしくは雇い主であるであろうザ・紳士の前で『お前』呼ばわりはいかがなものだろう。


(見た目はいいし、いかにもできる男って感じなのにもったいない……)


不遜な態度を隠そうともしない、こんな失礼な男の人を2次元以外で見るなんて多分初めてだ。

そう思うと同時に、私はなぜか“初めて”という言葉に引っかかりを覚えた。


(……あれ? 初対面……だよね?)


初対面のはずなのに、どこかで会ったような感覚。

芸能人か誰かに似ているのだろうかとまじまじと見つめていると、クールな瞳と視線がぶつかった。

不躾に見つめてしまった非礼に、思わず頭を下げる。


「も、申し訳ありません!」


けれど男の人は私の存在なんてまったく興味なく、たまたま虫が飛んでいたから視線がそっちに向いただけだとでもいうふうに、ふいと私から稲垣さんに視線を戻した。


「お前は昨夜、今現在起きている問題を完全に解決できそうな人間を連れてくると言っていたと記憶しているが」

「うん、そうだよ」


慣れているのか、稲垣さんは男の人の冷たい声音に気にする素振りも見せず言葉を続ける。


「昨夜、運命的な出会いを果たしてさ。ね? 綾乃ちゃん」


(運命的な出会い……かどうかは首を傾げるところだけれど……)


ここで否定したら、私をここに連れてきてくれた稲垣さんの顔を潰すことになりかねない。

そう思い、私はひとまず稲垣さんの言葉はスルーしてペコリと頭を下げた。


「は、はじめまして、菅島綾乃と申します!」

「……」


顔を上げるのを躊躇するほどの重苦しい沈黙ののち、クール属性の男の人は私の自己紹介に返事はせず、稲垣さんに向かって口を開いた。


「……とてもそうは見えないが。まだお前の新しい女と言われたほうが納得できる」

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