テラーノベル
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汽車に乗り込むと、一等客室のある車両は思いのほか静かだった。
この車両に設えられている個室は三つだけ。
連結部――すなわち出入り口に最も近い部屋がリリアンナの客室で、その隣にランディリック、そして最奥にセレンの部屋が配置されていた。
連結部分には護衛が立ち、他の乗客が勝手に立ち入ることは出来ないようになっている。
それだけで、この区画が特別なものであることは十分に伝わってきた。
リリアンナの客室には、行きと同様ナディエルが同室として控えている。
クラリーチェは別車両の二等客室だが、本人は「その方が落ち着きますから」と笑っていた。
行きにも感じたが、一等客室のある車両を丸ごと押さえるだなんて、かなりお金がかかっているのではないだろうか?
リリアンナは、高級感あふれる客室にはしゃぐナディエルを横目に、ランディリックを見つめた。
「……どうした? リリー」
問われて、「ねぇランディ、私、こんなに贅沢してもいいのかな?」と思わず漏らしてしまったリリアンナである。
「もちろんいいに決まっている。それに――心配しなくても、今回の道行には王城から給付金が出ているんだよ」
「え?」
一介の伯爵令嬢である自分が、王都へ出向くだけのことに、国庫からの捻出があっただなんて……有り得ないことだ。
ランディリックの言葉に、リリアンナは思わず目を瞬かせる。
「実は今回、リリーの付き添いがてら王城へ来るよう、アレクト皇太子殿下が僕に命を下したんだ。ニンルシーラの辺境伯を任されてからこっち、忙しさを免罪符に随分と長いこと王都への出仕を断り続けていたからね」
「……それで……」
「ああ。いい機会だと思われたんだろう」
そう言って、ランディリックはそれ以上を語らなかった。
ほんの一瞬、言葉を選ぶような間が落ちる。
「……その他の詳しいことは、またいずれ話せる時が来たら話そう」
穏やかな声音だったが、そこにはこれ以上踏み込ませない線が、確かに引かれていた。
それでもリリアンナは、不思議と不安にはならなかった。
王太子殿下が関わる話なら、簡単に口外できない事情があるのだろう。
そう思えば、納得は出来る。
「……ランディ、大変だったのね」
ぽつりと零した言葉に、ランディリックは一瞬だけ驚いたような顔をしてから、小さく頷いた。
「ああ。けど――それももう終わりだ」
ニンルシーラへ戻れば、今まで通りの暮らしが待っている。
そう言外に示されて、リリアンナは微笑んだ。
「ランディのおかげで私もこんな快適な旅が出来たのね。本当にありがとう」
二人のやりとりを、セレンが静かに見守っていた。
リリアンナは気付いていない。
ランディリックの庇護下にある彼女が、彼と同等の扱いを受けるのは不自然ではないとしても――。
果たして、オマケのように同行しているセレンまでもが、同じ待遇を受ける理由があるのだろうか、ということに。
そこに気付かれたら、自分が身分を偽って彼女の傍にいたことがバレてしまう。
セレンは、まるでそのことに気付かれたくないみたいにランディリックに一礼して部屋へ引っ込んだ。
それを横目に見ながら、ランディリックはいずれリリアンナにも、セレンが実はマーロケリー国の皇太子セレノ・アルヴェイン・ノルディール殿下であることを告げねばならない……と思い、小さく吐息を落とした。
コメント
2件
そうだよね。でもランディ的には言いたくないんじゃないかな。それを告げる時はリリアンナをセレノ皇太子に奪われる時な気がするし。
そうだよねぇ。いずれは話さなきゃならないだろけど。