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『……いないね』
その言葉が、頭の中に残った。
「……そっか」
『うん』
それ以上、何も言えなかった。
友達がいない。
ただそれだけの話なのに。
妙に引っかかる。
だって。
俺と同じ顔で。
俺と同じ声で。
俺と同じような性格をしているのに。
こいつの人生には、俺の知っている人間がいない。
「……なんで?」
『何が?』
「友達」
『……』
「作ろうとは思わなかったん?」
少しの沈黙。
『……別に』
「別に?」
『必要なかったから』
「……」
あまりにも簡単に返されて。
逆に何も言えなくなる。
『学校行って、』
『帰ってきて、』
『寝て、』
『また学校行って』
『⋯それだけ』
淡々とした声だった。
まるで、それが当たり前だったみたいに。
「……つまんな」
『うるさい』
「いやだって」
『お前の人生が騒がしすぎるんだろ』
「そうかぁ?」
『そうだろ』
少しだけ笑う。
でも。
笑ったあとに、また沈黙が落ちる。
「……なぁ」
『ん?』
「俺らってさ」
『うん』
「なんでこんなに同じなんだろうな」
『……』
「好きなものも、」
「嫌いなものも、」
「考え方も、」
「声も、」
「顔も」
『……』
「⋯けど」
少しだけ息を吐く。
「人生は全然違う」
返事はない。
俺は机の上に置かれた写真を見る。
知らない人。
知らない場所。
でも。
そこに写っている”俺”だけは知っている。
『……多分』
頭の中から声がした。
『俺らは、同じだったんだと思う』
「……だった?」
『最初は』
その言葉に、少しだけ胸がざわつく。
『でも、生きてきた場所が違った』
『会った人も、』
『見たものも、』
『経験したことも』
『全部違う』
「……」
『だから、今が違う』
静かな声だった。
『それだけじゃない?』
「……」
それは。
思っていたよりずっと、普通の答えだった。
特別な理由なんてない。
世界が違うから。
人生が違うから。
だから。
俺たちは違う。
「……そうかも」
『うん』
「じゃあ」
椅子から立ち上がる。
『ん?』
「とりあえず、今日どうする?」
『……知らん』
「学校は?」
『行くしかないんじゃない?』
「俺死ぬやん」
『知らんがな』
「冷た」
『お前の人生だろ』
「お前の人生でもあるんだけど」
『それは…確かに』
少しだけ間が空く。
『……じゃあ一緒に行く?』
「お前が?」
『俺もこの身体にいるんだから』
「そりゃそうか」
窓の外を見る。
朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。
昨日まで。
俺は別の世界で生きていた。
今日から、この世界で生きることになるらしい。
そして。
俺の頭の中には、もう一人の俺がいる。
「……変な人生になったな」
『今さら?』
「今さらだな」
二人で笑った。
ほんの少しだけ。
この状況を受け入れられた気がした。
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あいびすぺいんと
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