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焼きたての良い匂いがするパンに湯気の立つスープ。香ばしくかおる干し肉と色とりどりの果物。リアムが作った料理は、少し形が崩れていたり焦げたりしていたけど、どれも美味しかった。
定期的に襲ってくる全身の痛みと沈んだ気持ちで、たくさんは食べられなかったけど。「おいしい」と口に運ぶ僕を見て、リアムは微笑みラズールはホッとした顔をしていた。
食後に少し休んでから散策に出かけた。
リアムは僕と二人で行きたかったみたいだけど、少し離れた後ろから、ラズールとゼノもついて来た。ついて来る二人を見て、リアムが嫌そうな顔をする。
「ゼノにはラズールと留守番をするよう命じてたのに…なぜついて来る?」
「たぶんラズールが行くと言ったから、一緒に来たんだと思う」
「相変わらずフィーの側近殿は過保護だな」
「僕が生まれた時から傍にいるから。それに家族に愛されない僕を見てきたから、どうしても心配してしまうんだと思う…」
「ん…そうだな。イヴァルの王城で、ラズールがフィーの傍にいてくれてよかったと心底思うよ」
リアムがフードを被った僕の頭を抱き寄せ、キスをする。
途端に背後から、ラズールの大きな咳払いが聞こえた。
「だがやはり、アイツの俺に対する態度はどうかと思うぞ」
「ふふっ」
僕の耳元でリアムが囁き、思わず笑う。
リアムとラズールのやり取りを見て仲がいいなぁって僕は思ってるのだけど。違うのかな。
「まあ、俺とフィーの間に身体を割り込ませてこないだけマシか」
「そんなことしないよ?」
「するよ、アイツは」
リアムが笑いながら僕の手を握る。
僕も握り返して、森の中の踏み固められた道をリアムと並んで進む。
四半刻も歩かないうちに、見覚えのある家が見えてきた。ノアの家だ。家の周りに人影は見えないけど、ノアはいるのだろうか。
僕は少し足を早めて、ノアの家の玄関前に立つ。そして不安げにリアムを見上げる。
「どうした?」
「急に来て…ノア、迷惑じゃないかな?」
「フィー、おまえは王族なのに気遣いがすぎる。もっと高慢でもいいと思う」
「ええ…?だって僕のことで友達に迷惑はかけたくないよ」
「ノアは、おまえが訪ねてきて喜びはするだろうが、迷惑だなど決して思わないよ」
「そうかな…」
「大丈夫だ」
僕は安堵して玄関前の階段を登り、深呼吸をして扉を叩いた。
すぐに「はーい」と返事が聞こえ扉が内側へと開く。「どちらさま…」と言いかけたノアと目が合った瞬間、ノアが飛び出て僕に抱きついた。
「フィル!なんでここにいるのっ?元気になったのかっ?」
「ノア…心配かけてごめんね。それに色々と助けてくれてありがとう」
ノアに抱きつかれて少しよろけた僕を、リアムと後ろからラズールが支えた。
僕の肩に顔を埋めて鼻をすするノアに、ラズールが冷たく言い放つ。
「おいおまえ。早くフィル様から離れろ。不敬だぞ」
「ラズール!ノアは僕の友達で命の恩人なんだから、そんな風に言わないで」
「しかし」
「文句があるなら帰ってもらうよ」
「…申し訳ありません」
ラズールが不服そうにしながら階段下にいるゼノの位置まで下がる。
僕が小さく息を吐いて「ノア」と言うと、ノアがようやく顔を上げた。
「ノア、なんて顔してるの」
「だってっ、フィルが元気で来てくれて嬉しいんだ。最後に会った時のフィルこそ、ひどい顔してたんだぞ。少し痩せた?」
「そうかな?ノアも元気そうでよかった」
「うん、俺は元気…って、リアム様、いらっしゃったんですか?」
「ようやく俺に気づいたか。もう十分再会の喜びを味わっただろう。早くフィーから離れろ」
「…なんかフィルの周りって、口うるさい人ばっかりだな」
「なんだと?」
「リアム!」
リアムにギロりと睨まれて、ノアが慌てて僕から離れる。
僕はリアムの袖を引き、「ノアに冷たくするならリアムも帰ってもらうよ」と口を尖らせた。
そんな僕を見るなりリアムが優しい顔になり、僕の頬を撫でる。
「しない。だから帰らない」
「だそうだよ、ノア」
「なんか…この中で一番偉いのはフィルみたいだな。あ、ずっと立ち話でごめん。中に入って」
「ありがとう」
扉を押さえるノアの前を通って中へ入る。
ノアの家は、僕がリアムから離れて一人で困っている時に、助けて泊めてもらった時のままだ。とても懐かしい。
入ってすぐの部屋に、大きな机と四脚の椅子がある。僕とリアムが並んで座り、向かい側の椅子をラズールとゼノがすすめられたが、二人は断って、ラズールが玄関前に、ゼノが窓の前に立った。
そんな二人を見て、ノアが困った様子で聞いてくる。
「なんであの二人は座んないの?」
「ここは安全なんだけど、ああやって外を警戒するクセがついてるんだよ。気にしないで」
「そう?騎士も大変だな」
ノアが二人に目を向けて息を吐き、待っててと奥へと消える。少ししてノアが平べったい木の箱に、紅茶を乗せて戻ってきた。
「高級な物ではないですけど…どうぞ」
「いきなり訪ねてきたのはこちらだ。気を使わなくていいぞ」
「いえ、本来ならこんな小屋に王子様を迎え入れることも失礼ですから」
「ああ、そのことだがな。俺はもう王子ではない」
「えっ?」
「僕も王じゃないよ」
「ええっ!」
ノアの大きな声に、ラズールが「騒がしい小僧め」と眉間に皺を寄せた。