テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
料理対決(という名の侑くんの自爆)から一夜明けた、火曜日の昼休み。
私の机の上には、昨日治くんが宣言した通り、見慣れない「二段重ね」の大きなお弁当箱が置かれていた。
「……朱里。今日から一週間、これ二人で食うで。……一段目は俺、二段目は朱里の分や」
治くんは銀髪を揺らしながら、当たり前のような顔で私のお弁当を自分のカバンにしまい込んだ。
これじゃ、中身を共有するどころか、物理的に「一つの箱」に閉じ込められたみたいだ。
「……治くん。これ、仕切りがあるとはいえ、近すぎない?」
「……ええねん。……俺のおかずが朱里の白飯に侵食するくらいが、ちょうどええねん。……ほら、開け」
促されて蓋を開けると、そこには驚くほど豪華な「宮家特製・牛カツ弁当」が詰まっていた。
しかも、一段目と二段目の境目に、これ見よがしに「朱里」「治」と海苔で書かれたおにぎりが並んでいる。
「……っ、治くん。これ、外で開くの恥ずかしいよ……」
「……何が? 俺らの『共同生活』、目に見えた方が効率ええやん。……ほら、あーん」
彼は自分の箸で、サクサクの牛カツを私の口元に運んできた。
教室中の視線が集まる中での、堂々とした餌付け。
「……ん。……美味しい。……でも、治くんも食べて?」
「……おん。朱里が食うた後の『残り』、俺が全部片付けたる」
彼が私の食べかけの端っこを、わざとらしく自分の口に放り込んだ、その時。
「あーーーっ!! 治、自分だけ朱里ちゃんと『二階建ての愛』育んどるやんけ!! 卑怯やぞ!!」
廊下の窓から、顔を真っ赤にした侑くんが身を乗り出してきた。
後ろには、スマホでその様子を「連写モード」で撮っている角名くん。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……二階建てやない。……これは、俺らだけの『密室』や」
「密室って何やねん!! 朱里ちゃん、こいつの弁当には『治以外、愛せなくなる菌』が充満しとるからな!!」
「……菌やない。……愛や。……角名、今のツムの『不審者動画』、SNSに流しとけ。フォロワー、ガタ落ちや」
治くんは侑くんを箸で追い払うと、お弁当箱の隅にある「甘いデザートの果物」を、私の指先に押し当てた。
「……朱里。……一段目の俺を、全部飲み込んで。……二段目の君は、俺が全部、美味しくいただくから」
二段弁当の、禁断の仕切り。
おかずの匂いよりもずっと濃い、治くんの「支配」という名のスパイスが、私の理性をじわじわと侵食していった。