二段弁当の「共同生活」が始まって数日。部室の掲示板に、他校との合同合宿の知らせが貼り出された。
稲荷崎、音駒、そして梟谷。強豪が集まるその合宿は、マネージャーの私にとっても戦場のような忙しさになる。
「……朱里。合宿中、余計なもん拾うてくるなよ」
練習の合間、ドリンクの補充をしていた私の背後に、治くんが音もなく忍び寄ってきた。
彼はタオルを首にかけたまま、私の腰をグイッと引き寄せ、耳元で低く囁く。
「……余計なもんって、何?」
「……音駒の黒尾さんとか、梟谷の木兎さんとかや。あいつら、美味そうなもん見つけるとすぐ食いつくからな。……リベロやないけど、俺が全部ブロックしたるわ」
治くんの指先が、私のジャージの襟元を整えるフリをして、鎖骨のあたりをわざとらしくなぞった。
バレー部員らしい、少し硬くて、でも驚くほど熱い指。
「……合宿中、俺以外の男にドリンク渡すん禁止な。……飲みたかったら、俺の飲みかけ飲ませたるから」
「……っ、治くん。それじゃ練習にならないよ……」
「……ええねん。……朱里の『エキス』が入っとる方が、俺は力出るし」
彼がさらに距離を詰めようとした、その時。
「あーーーっ!! 見つけた! 治、自分だけ合宿前に朱里ちゃんに『独占禁止法違反』しとるやんけ!! 卑怯やぞ!!」
体育館の入り口から、バレーシューズを履きかけの侑くんが猛烈な勢いで突っ込んできた。
後ろには、スマホを水平に構えた角名くんが「これ、合宿のしおりの表紙にしようかな」と楽しそうに続いている。
「……ツム。お前、ほんまに……死ね。……独占やない。……これは、俺らだけの『契約更改』や」
「契約って何やねん!! 朱里ちゃん、こいつの『お持ち帰り』には執着心っていう防腐剤が大量に入っとるからな!!」
「……防腐剤やない。……愛や。……角名、今のツムの『間抜けな面』、他校のグループに流しとけ。偵察の手間が省けるわ」
治くんは侑くんをボールカゴで押し返すと、私の手首をギュッと掴んで、誰もいない備品庫へと連れて行った。
「……朱里。……合宿中、俺がおらへん時間は一秒もないと思え。……俺の味、骨の髄まで覚えさせてから行かせたるからな」
合宿前夜の、お持ち帰り。
おにぎりの具材よりもずっと激しい、治くんの「お留守番禁止」の、熱いおねだり。
私は、彼の低い体温の中に、自分から閉じ込められていくような感覚に陥っていた。






