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めめあべ
※括弧内ダブルクォーツはメッセージアプリ内での会話です
阿部→「」
目黒→『』
岩本→《》
目黒side
カシャ、と無機質なスマホのシャッター音が車内に響いた。ホテルから出てくる彼とその同期の姿。いつも通りの彼らだがこのホテルにいて何もなかっただなんてことはないだろう。浮気されるくらい、俺には何かが足りなかったのだろうか。そんなに俺では満足できなかったのだろうか。というかふっかさんとするときは阿部ちゃんはどっち側なんだろ、どっちもネコだからキャットファイトみたいになってんのかな。考えたくもないことを考えていると無意識に手はスマホのメッセージアプリを開いて、その画像を1人の男に送信してしまった。直ぐに既読がつく。
《”何これ”》
『”なんか最近阿部ちゃんの様子がおかしかったんで追跡してみたらこんな感じに”』
《”要するに浮気?でいいんだよな”》
『”まあ広い目で見れば”』
《”とりあえずお仕置きかな、離してやる気はねえし。ありがと目黒”》
『”ん、いいっすよ。岩本くんにはいつもお世話になってるんで”』
短いやり取りが済む頃には彼がふっかさんと何か会話をして手を振っていた。出るとしたら今しかない、今を逃してしまったらこのチャンスは二度と到来しないかもしれない。彼がふっかさんを見送り終わるのとほぼ同時にドアを開けて歩きだす。そして背後まで辿り着けばすぅ、と息を吸って
『…ねえ阿部ちゃん』
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阿部side
「…ぇ、」
思わず声が出た。だって、そこには居る筈がない…というか、居られると困る人が居たからだ。ふっかは先に帰らせたから一緒に居るところは見られていないはず。というかこの人どこから出てきたんだ、いやそれよりなんでここに?なんで俺の居場所がわかったんだ。てかめっちゃホテル前だけどこれバレたんじゃないか、嫌でもけろっとしてるしな…考えても謎は深まるばかりだし何も見られていないのであれば此方も普通にしていればいい。そう思って平静を装いいつも通りの笑顔を彼に向ける。
「どしたの?珍しいじゃんこんなとこまでめめが来るの。あ、この辺美味しい…」
『阿部ちゃん、なんか焦ってる?』
落ち着け。落ち着いて、1つずつ慎重に言葉を選んで、ボロが出ないように。普通に会話をすれば良い、普通に。ただ彼氏と外で会っただけだ、何も後ろめたいことなんてない。そう俺は今ただ街に出てきてたまたま彼氏と遭遇してしまっただけ。だから動揺したり焦ったりする必要なんて全く無い、俺は大丈夫。それに、何となく感じるこの圧迫感に負けてはいけない。
「全然焦ってないよ?なんで笑」
『いや阿部ちゃん、明らか事後だから』
「…は?いやしてないし、だって今めめといなかったでしょ?俺はめめ以外とそんなことする気ないし、大体どこら辺が…」
『じゃあその首の紅い印何?どうやって説明すんの?』
「…え、いやこれはあのー、あれ、虫刺されでしょ」
『…そっか』
よし、いけた。キスマついてんのは誤算だったけどそんなの虫刺されって言っとけばそれっぽく見える。家帰ったら確認してムヒでも塗るフリしなきゃな。やっぱり大丈夫じゃんね、こんなことで俺が失態を犯すわけ
『…あのねぇ阿部ちゃん、首に印なんて1つもついてないよ。なのに虫に刺されたとか言うんだ?』
…前言撤回、ボロ出すぎてるねこれ。おいキスマつけてねえのかよ、つけろとは言えないけど嘘はバレたくないから今日だけはつけといてくれてもよかったよね、とか思っちゃう。ここから何とか出来そうな言い訳を、何か1つでも思い付かなければ。なんでも良い、とにかく彼が次の言葉を発する前に何か言わないと
『家、帰ろっか。車乗って?』
この男は何を考えているんだろう。表情は全く読めないし声を荒らげる訳でもない。さっき浮気してんの気付いたのにこんな冷静なことがあるだろうか。今ので一気に冷めた?もう俺に好意はないからこんなにも冷静で居られるのか
「…怒ってないの、?」
『怒る…気も、起きないっていうか笑』
怒ってないってことはなんか大丈夫そう?よくわかんないけど助かりそうだし後はふっかとこの関係辞めれば全部丸く収まるんじゃ
『…阿部ちゃんはさぁ、やっぱ全然わかってないよね。』
「え、?何を?」
『んーん、なんでもない。ほら乗って、早く』
半ば無理やり乗せられ俺たちが乗っている車は発車した
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家について玄関に入れば彼が素早く鍵をかけて俺の腕を引き廊下を歩いて行く。かなり強い力で引っ張られていると思えば投げるようにベッドへ身体を押され気付けば彼を見上げていた。
「っ痛、ねぇめめ」
『何?』
「いや一旦話聞いてくれても」
『なんで俺が浮気してた奴の話なんかわざわざ聞かなきゃいけないの?』
「ぇ…」
『これ。普通に吃驚しちゃったよ、あと虚しかった。俺じゃダメだったのかなぁって』
「そんなこと」
『無い、って言うんでしょ?でも俺そんな薄っぺらい言葉は信じられないなって。だからさ』
これはかなりまずいスイッチを押してしまったのではないか。俺の視界を支配する彼に、いつもの優しい目は存在していなかった。冷酷でいて、何処かまだ愛しいものを見ているような不思議な温度の視線。ひょっとしたら一番危ない類いの目かもしれない
「…だから、?」
『身体に教え込もうと思って』
恐怖に震える俺の瞳に反射する彼は酷く恍惚な表情を浮かべていた