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ひより
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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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皇宮へ戻る馬車の中。
「…………」
気まずい。ものすごーーーーく、気まずい!!
向かいの席に座るカイル殿下は、腕を組んで窓の外を睨んだまま、一言も喋らない。
(な、何よこの重苦しい沈黙……!)
(上位魔物と戦ってた時の方が、よっぽど気楽だったんですけど!?)
『もう絶対に――逃がさない』
(あんな激重な台詞を吐かれた直後に二人きりとか、何の拷問よ……!)
「ソフィア」
「……ひゃいっ!?」
(噛んだ!! 思いっきり噛んだ!!)
カイル殿下が怪訝そうに眉根を寄せた。
「何をそんなに緊張している」
「し、しておりませんわ!」
「声が裏返っているぞ」
「気のせいです!」
「そうか」
(そこはスルーしなさいよ!!)
けれど、すぐにカイル殿下の表情が真剣なものへ変わった。
「……今回の件だが。騎士団でも、家畜の不審死と黒魔法の繋がりを追っていた。だが……まさか、聖女が一連の事件に関わっていたとはな」
カイル殿下が、苦々しく息を吐き出す。
「『お前を、俺が愛することなど一生ない』『皇太子妃にふさわしいのは、民を救う聖女シェリーだ』などと……。昔の俺は、救いようのない愚か者だった……」
「あら」
思わず、口元が緩む。
「ご自分で仰ったこと、ちゃんと覚えていらしたのですね?」
「忘れるわけがない」
「ふふっ。あの時は本当に腹が立ちましたわね」
「……すまなかった」
「まあ、いいでしょう」
「いいのか?」
「殿下が調べてくださっていたから、今日助かったのも事実ですもの」
カイル殿下の表情が、ほんの少し和らいだ。
「そういえば、殿下。どうして私の居場所が分かったんですの?」
「護身石だ」
「……え? あの懐中時計の?」
「ああ。持ち主に危険が迫れば、石に込めた俺の魔力と共鳴する。正確な場所までは分からないが、おおよその方角は分かる」
「そんな機能、聞いてませんけど!?」
「『多少の護身にはなる』とは言った」
「説明が足りなさすぎるでしょう!」
(護身石っていうか、緊急発信機じゃない!!)
カイル殿下の視線が、私の銀色の髪へ移る。
「それで……その髪と聖力は、一体どういうことだ?」
「……お話しいたしますわ。すべて」
私は膝の上で、スカートをぎゅっと握った。
「私は――本当のソフィアではありません」
元の世界で一度死んで、ゲームのソフィアに転生したこと。 本来のソフィアは、滅ぼされた聖国ルミナリスの王女だったこと。 どんな選択をしても処刑される人生を100回繰り返し――101回目の人生を、彼女から託されたこと。
言葉にすればするほど、荒唐無稽だった。 それなのに、彼は一度も口を挟まず、最後まで聞いてくれた。
「最初は……殿下のことだって、利用するつもりでした。お金を貯めて、離婚して……どこか遠くへ逃げようって」
カイル殿下の眉が、わずかに動く。
「だから――離婚書類を置いていったのか?」
私は視線を落とした。
「ええ。……でも、それだけではありませんわ」
指先に力が入る。
「殿下が私を気にかけてくださるようになって……優しくされて。一緒にいることが、どんどん当たり前になっていって」
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「大切にされればされるほど……本当のことを知られるのが怖くなったんです。あなたを、本気で好きになってしまったから」
顔を上げると、カイル殿下が真っ直ぐに私を見据えていた。
「俺が愛したのは――今、ここにいるお前だ」
「…………っ」
「俺が知っているソフィアは、帳簿を見ると別人のように目の色を変え」
「ちょっと……」
「金の話になると、妙に生き生きして」
「失礼ですわね!?」
「それなのに、誰かを助けるためなら、自分が危険でも平気で飛び出していく」
「必要なことをしているだけでしょう!?」
困ったように、それでも愛おしそうに目を細める。
「本当に――目が離せない」
大きな手が、そっと私の頬に触れた。優しく頬を撫でる。
「そんなお前を、俺は心から愛している」
(ず、ずるい……!)
(途中まで悪口かと思ったら、最後にそれ言う!?)
頬が一気に熱くなる。カイル殿下が、ふっと笑った。
「……やっと、ソフィアの本心が聞けたな」
そんな顔をされたら。もう、何も言い返せない。カイル殿下が向かいの席から立ち上がり――私の隣へ腰を下ろした。手を取り、指を絡めてくる。
「ソフィア」
「……何ですの」
「俺はもう、お前なしで生きる未来など考えられない。……これからも、ずっと俺のそばにいてほしい」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
「あら」
「何だ」
「今のは……プロポーズでしょうか?」
「……そうだが」
私は澄ました顔で、わざとらしく車内を見回した。
「花束もございませんし」
「戦場からの帰り道だぞ」
「指輪もありませんし」
「後で用意する」
「場所も馬車ですし。少々、ロマンチックさに欠けますわね~」
「悪かったな!」
「ふふっ」
むっとするのが可愛くて、つい笑ってしまう。絡めた指に、ぎゅっと力を込めた。
「……これからも、そばにおりますわ。だって――」
最後までは言えなかった。唇が重なったから。甘く、優しい口づけ。唇が離れると、カイル殿下は満足そうに笑った。
「……不意打ちは卑怯ですわ」
「お前が肝心なところで逃げてばかりだからだ」
「もう逃げませんわよ! ……これからは、家族も増えますし」
私は悪戯っぽく微笑んだ。
「……家族?」
カイル殿下が瞬きをする。やがて、その瞳が大きく見開かれた。
「まさか……」
私は彼の手を取り、そっと自分のお腹の上へ重ねた。
「子供が、できましたの」
「…………」
「殿下……?」
(完全にフリーズしてない!?)
「……避妊薬を飲んでいたのではなかったか?」
「……の、飲んでおりましたわよ? 一度だけ、飲むのがかなり遅れた日がありまして……」
「……なるほど」
カイル殿下が、妙に納得した顔で頷いた。
「魔力の相性がいい者同士ほど、子に恵まれやすいと言われている」
「は?」
「もっとも……お前に聖力があることなど、俺も今日まで知らなかったがな」
カイル殿下の口元が、わずかに持ち上がる。
「結果を見る限り、どうやら俺たちは相当相性がいいらしい」
「たった一度飲み遅れただけなのよ!?」
「だからこそだ」
「だからこそじゃないわよ!!」
(ゲームでも、そんな設定聞いたことないんだけど!?)
(何よ、その隠し設定!!)
カイル殿下の顔から、さっと血の気が引いた。
「……いや、待て」
「何ですの?」
「お前……身重の身体で、あの戦場にいたのか?」
「……私は魔物と直接戦っていたわけではありませんわよ!」
「だから安全だったとでも言う気か!?」
「治癒と浄化が私の役目でしたもの!」
「十分危険だ!!」
「でも、私がいなかったら瘴気を浄化できなかったでしょう!?」
「それはそうだが!」
「それに、目の前でみんなが襲われているのに、黙って見ていられるわけないでしょう!」
カイル殿下が額を押さえた。
「……頼む。もう二度と、無茶な真似はしないでくれ」
ぎゅっと抱き寄せられた。
「ちょ、ちょっと……苦しいですわ!」
そのまま、額を私の肩に預けた。
「お前に何かあったらと想像するだけで……今さら、恐ろしくなった」
腕を緩め、私の両肩に手を置いた。
「誓う。俺が必ず、お前も子も――世界一幸せにする」
私はくすっと笑い、その胸元をぽんと叩いた。
「ふふっ。私は誰かに幸せにしていただかなくても、自分で勝手に幸せになりますわ」
(オリジナルのソフィアと、そう約束したものね)
「けれど――」
私はカイル殿下の首元へ腕を回し、微笑んだ。
「一緒に幸せになってくださるというのなら……そばにいることを許して差し上げますわ」
彼が呆れたように笑う。
「……まったく。どこまで調子に乗るつもりだ」
「あら、お嫌ですの?」
「まさか。もう、絶対に手放すつもりはない」
再び、ぎゅっと抱きすくめられる。私はカイル殿下の温かな腕の中で、目を閉じた。
コメント
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うわっ、ついに来たかこの回!!「俺が愛したのは、今ここにいるお前だ」って台詞、タイトルからしてずるいだろ…ガチで刺さったわ。ソフィアが全部打ち明けるシーン、カイルが一切遮らずに聞いてくれたのがめちゃくちゃ良かった。過去の自分を愚か者って認めるカイルも成長してるし、最後の妊娠発覚であたふたしてるのめっちゃ可愛い。二人の掛け合いが本当に軽快で、読んでてずっとニヤニヤ止まらなかった。いい話すぎる!!🔥