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「樹は・・まだ帰らないよね?」
すると二人になった途端、透子が声をかけてくる。
えっ、何その可愛いおねだり。
いや、もちろんまだ帰るつもりじゃなかったけど、そんな可愛いこと言ってくれるとは思わなくて口元が緩む。
「あぁ、うん。まだオレは時間あるし。もう少し透子と一緒にいたいから」
「よかった。じゃあ飲み直そ」
なんだよ。そんな嬉しそうにしてくれんの?
今までの透子とやっぱり明らかに変わって来てる。
「透子ごめんな?」
そしてソファでまた二人で飲み直しながら透子に声をかける。
「ん?何が?」
「いや、勝手に勘違いして嫉妬したりとか・・・」
「フフッ。そだね。でも嬉しかったよ」
「それと家族の話。オレばっかなんか聞いてもらってて透子のこと聞いてあげられる余裕なかった、ごめん」
「なんで? 全然いいよ。今は母も元気に店やってるし、私もハルくんもそれぞれの場所で頑張れてる」
「うん」
「こっちこそ。こんな話もっと早めに話しておかなきゃいけなかったのかもだけど、ごめんね。今更伝えることになって・・・」
「透子も昔一人で大変だったんでしょ?」
「まぁ。でも私もそういうのもあって頑張れてたところもあるし。今はもう皆それぞれの道歩んで楽しめてるから」
「透子も昔から苦労してたからどこかやっぱ強いっていうかさ、芯の通ったまっすぐなところあるなって思った」
「どうなんだろ。でも前はこんなに強くなかったし、もっとダメダメだったよ」
「オレにはいつでもずっと透子はカッコよかったけどね」
「もしかしたら。そこは母親譲りなのかも」
「そうなの?」
「うん。母親も結構意志の強い人で。それでいて父への愛情と尊敬は昔も今もずっと持ち続けている人。父がいなくなってからも、父の代わりに店続けて、頑張ってる姿を見て来て、私もこんな人でありたいなって、今も思ってる」
「そう思えるのってすごいね。オレは透子知ってるだろうけど、親父にはずっと反抗したまま分かり合えないままだったからさ」
「うん。でも樹のご両親も一緒にいなくてもそれぞれの場所で頑張ってる。そんな二人がいて私は樹が羨ましいよ?」
「そっか。そうだよな。離婚しててもオレには二人ともいるもんな」
「うん。それだけでホントに幸せなことだから」
「うん・・・。そうだよな」
「だからご両親これからも大切にしてあげて」
「うん。・・・透子。今度そのお母さんのお店食べに行ってもいいかな?」
「え? うちの?」
「うん。透子ん家のずっと守り続けて来た味食べてみたい」
「それは母はきっと喜ぶけど」
「そしてちゃんと透子との結婚報告させてもらいたい」
「あっ、そっか・・・。そうだね。うん。私も樹のことちゃんと紹介したい」
「よし。じゃあ決まり。いつがいいとかある?」
「うーん。そうだな。お店休みの日にする?その方がゆっくり話せるし」
「うん。じゃあまたいつがいいか相談しておいて」
「わかった。母に確認しとく」
今までのオレには当たり前すぎて気付けなかったこと。
透子と出会えて初めてその当たり前の有難さに気付けたこと。
結局オレが今まで好き勝手やって来れたのは、きっと親父や母親が守ってくれていたからで。
そして透子と今こうしていられるのも、きっとそんな二人のおかげで。
だけど、きっと透子はそんな当たり前の有難さを大切さを、もうずっと前から、いや、きっと最初から知っていたんだろうな。
家族の温かさをずっと感じることが出来なかったオレにとって、当たり前に家族の話をする透子が眩しすぎて。
でも、多分。
出会った時からきっと、オレの知らないそんな温かさだったり、安心出来る優しさだったり、ホントはオレが必要としていたそれを透子は知らない間に与えてくれていた。
透子といると、オレの心は満たされて、穏やかになって、温かい幸せに包まれる。
そんな透子とこれから家族になれることが嬉しくて仕方ない。
誰かと家族になるだなんて、今までのオレなら考えも想像もしなかったのに。
透子が当たり前の幸せや、一緒に作れる幸せをオレに教えてくれる。
そしてもっと知りたい。
透子のこと。家族のこと。
透子がどんな家や味で育ってきたのか。
透子の想い出が詰まったその店に行ってみたい。
きっとまだまだ知らないことが多すぎる。
だけど、まだまだ知らない透子を、新しい透子を知れることにワクワクする。
そんな透子を一つ一つ知っていくたび、またオレはきっと透子をもっと好きになる。
そしてそんな透子を知っていって、もっとオレは幸せになる。
「あー。やっぱやめよかな・・・」
そんな風にこれからの透子への想いや幸せを考えていたら、思わず声が出てしまって。
「え?何が?」
すると、不思議そうに透子が聞き返す。
「やっぱ今日このまま泊まっていい?」
「え?」
「出張帰りだし、今日はこのままホントは帰ろうかなって思ったんだけど、やっぱまだ物足りないわ」
もっともっと透子と一緒にいたくて、もっともっと透子を感じたくて、オレはそう言いながら隣に座る透子の腰に手を回し背中ごとそのまま抱き締める。
まだまだ足りない。
もっと透子に触れていたい。
「うん。私もまだもっと樹と一緒にいたい」
そして透子もオレの手に触れながらそう伝えてくれる。
「よかった。早めに仕事切り上げて今日会いに来て」
「うん。この5日間でもすごく長く感じて寂しかった」
「オレも」
「前はあんなに長い時間離れてたのにね」
「今はもう無理だから。透子とあんなに離れるの。もうあんな長さ気狂う」
「うん。私ももう耐えられそうにないや」
よくあんなに離れていられたと自分でも感心する。
今はもうほんの少しでも離れたくない。
「ねぇ透子?」
「ん?」
「一緒に住もうか?」
「え!?」
そう伝えたオレの言葉に驚いて、後ろにいるオレの方に振り向く透子。
「今住んでるオレの家で一緒に住も? これからはもうずっと透子と一秒も離れず一緒にいたい」
一緒に住めば、もう誰か別の男の存在に嫉妬することもない。
ずっとオレが傍にいれる。
朝から晩までずっと透子を感じていられる。
だからこれはどうか断らないで?
「うん。一緒に住みたい」
すると、すぐにそう返答してくれる透子にホッとする。
「よかった。断られたらどうしようかと思った」
「なんで断るの? こんな嬉しいこと」
「いや、慎重な透子だからそんなこともいろいろ考えちゃうのかなって少し思った」
「もうそんな慎重になることも意地張ることもないよ? ちゃんと素直に甘えるって決めたから」
「そっか」
「樹がこれからちゃんと守ってくれるんでしょ?」
「もちろん」
「じゃあ私は安心して任せるだけ」
「了解。安心してオレに守られといて」
「うん。生涯任した」
「責任持って生涯守り抜きます」
「頼もしい」
「透子の為なら喜んで」
透子、安心して。
これからはオレが傍で一生守り続けてあげるから。
これからもずっとどんな透子にも愛しくなって、一緒にいれる幸せを実感し続けていくだろうから。
そしてこれからは一緒に支え合える幸せをゆっくり二人で実感していこう。
二人でしか作れない幸せを。
ずっと一緒に。