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白山小梅
白山小梅
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階段に座ったまま、
ひよりは胸元を押さえていた。
痛いわけじゃない。
でも、息がうまく吸えない。
胸の奥がざわざわして、
落ち着かない。
陽はひよりの前にしゃがんだまま、
真剣な目でひよりを見ていた。
「……ひより、無理に話さなくていいけどさ」
ひよりは顔を上げる。
陽の表情は、いつもよりずっと近かった。
「さっき……胸が苦しくなったのって、
“怖かったから”だけじゃないよね」
ひよりの心臓が跳ねた。
(……なんで分かるの……?)
陽は続ける。
「ひより、俺の前だと……
いつもより呼吸が浅くなる」
ひよりは驚いて目を見開いた。
「え……そんな……」
陽は少しだけ笑った。
でもその笑顔は、どこか切なかった。
「俺、ずっと見てたから。
ひよりのこと」
胸の奥が、 別の意味でぎゅっと締めつけられた。
陽はひよりの手にそっと触れた。
触れるだけの、軽い温度。
「怖かったのは分かる。
でも……それだけじゃないよね」
ひよりは言葉を失った。
(……陽くん……
そんなふうに……)
陽はひよりの手を包みながら、
静かに言った。
「ひよりが苦しんでるの、 俺は見たくない。
でも……」
そこで言葉を切り、
少しだけ視線を落とした。
「……ひよりが俺に頼ってくれるのは……
正直、嬉しい」
ひよりの胸が一気に熱くなる。
「……陽くん……」
陽はひよりの目をまっすぐ見つめた。
「ひより。
さっき、俺……怒ってたんだと思う。
あの人にじゃなくて…… ひよりが苦しんでるのに、
俺が何もできなかったことに」
ひよりは息を呑んだ。
陽は続ける。
「だから……
ひよりが俺の名前呼んでくれたとき、
すごく……安心した」
ひよりの胸の奥が、
じんわりと熱くなっていく。
(……陽くん……
そんなふうに……思ってたの……?)
陽はひよりの手を離さず、
静かに言った。
「ひより。
怖いときだけじゃなくて……
苦しいときも、嬉しいときも……
俺に言ってほしい」
ひよりは俯き、
震える声で呟いた。
「……陽くん…… 私……
陽くんの前だと……
なんか……胸が……」
言いかけて、
言葉が喉で止まった。
陽は優しく微笑んだ。
「うん。
それ、俺も同じだよ」
ひよりの心臓が大きく跳ねた。
夜の気配が深まり、
二人の影が重なる。
ひよりの胸のざわつきは、
もう“怖さ”だけじゃなかった。