テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
車に乗り込むと至はすぐにエンジンをかけて車を走らせ始めた。
優來は隣の運転席に座る至をちらりと横目で見ると、その視線に気づいたのか至は前を向いたまま口を開いた。
「何だ? 何か言いたげだな?」
間髪入れずに問いかけられた優來はびくりと身体を震わせる。
「いえ……」
慌てて誤魔化そうとするものの至には全てお見通しだったらしい。
「俺がどういう人間なのかが知りたいんだろ?」
まさに今優來が一番知りたいことを至のほうから口にしてきたので、迷った末に優來は小さく頷く。
「…………はい」
「まあ、さっきの会話の流れで気づいたかもしれねぇけど俺は堅気の人間じゃねぇよ」
「それって…………」
「俺は羽河組っつー組織の人間だ」
「羽河組……」
聞き慣れない名前を呟く優來に至は淡々と続ける。
「簡単に言や、極道――ヤクザだ」
「……っ」
それは予想していた答えだったけれど、それでも実際に本人の口からはっきりと言われるとその言葉の重さに優來の身体が強張った。
恐怖から自然と身を縮めてしまう優來を見て至は苦笑する。
「まあ、そう聞くと怖ぇかもしれねぇけど俺は別にお前に危害を加えようとか思ってねぇよ?」
「それは……分かってます……けど……」
頭では分かっていても、至がヤクザだと知ったことで今までとは違う緊張が生まれてしまう。
「まあ、俺がお前に近づいたせいで俺の女だと勘違いされて狙われることもあるかもしれねぇけどな」
「えぇ!?」
「驚き過ぎ。んなことはねぇから安心しろ。まあ、そんなことが万が一にもあるとすれば――俺が全力で守ってやる。だから怖がることはねぇよ」
「…………」
そんなことにだけはなりたくないと優來は心の底からそう思い、そこでふと一つの疑問が頭に浮かぶ。
「あの……」
「ん?」
「ヤクザの人って、普通に会社で働いていて大丈夫なんですか?」
「ん? まあ一般的には難しいんじゃねぇの?」
至は少し考えるようにしながら、
「どの企業も反社とかそういうのには厳しい世の中だしな」
「え? でも蘇枋さん、響生フィナンシャルで働いてるじゃないですか」
「ああ、それな」
何でもないことのように答えた。
「響生フィナンシャルは羽河組の管理下にある金融会社だから問題ねぇんだよ」
「…………え?」
あまりにも平然と告げられた優來は思わず目を見開く。
「つーか、そういう繋がりがあるからこそ、どんな企業の要望にも応えられるんだよ。表じゃ出来ねぇことも裏なら出来ることがあるからな」
そう淡々と語る至の横顔には悪びれた様子など微塵もないことに優來は言葉を失った。
仕事とはいえ会社を通して既に自分の知らない裏の世界と繋がっていたのだから。
そして何より、そんなことを当たり前のように語る至を前に優來は改めて思い知らされる。
至の居る極道の世界というのは想像していた以上に深く、普通の人間には縁遠いものなのだと。
コメント
1件
優來が至から直接「ヤクザだ」って聞かされるシーン、すごく重かった……。予想はしてても、本人の口からだと衝撃が違うよね。それに響生フィナンシャルが羽河組の管理下だったなんて、優來が言葉を失う気持ちがすごく分かった。「住む世界が違う」ってタイトルがまさにその通りで、優來の心の揺れが丁寧に描かれてて引き込まれました🌙