「いただきます」
テーブルの上に並べられた朝食に、二人で手を合わせました。
貴方の食べる朝食には、ハム、レタス、トマトを挟んだサンドウィッチ、向かいに座った狐の皿には、それに加えてゆで玉子のサンドウィッチがあります。
野菜サンドを食べ終えても、玉子サンドに中々手を出さない狐に、貴方は「食べて良いんだよ」と言います。
狐「ああ…いただきます」
申し訳なさそうにおずおずと食べ進める狐。
既に食べ終えた貴方は、皿を片付けようと立ち上がります。
狐「あ!私がやっておきますので〇〇さんはゆっくりしてて下さい!」
貴方は「大丈夫だよ」と言いますが、狐はキッチンに近づかないよう引き止めます。
狐「いけません、〇〇さんが卵に触れてしまったら…」
重症の卵アレルギーである貴方を気遣っているようです。
手袋をすると言いますが、万が一のこともあるからと、狐が片付けてしまいました。
物心つく前から卵アレルギーを発症していた貴方。
加熱をしても症状が現れ、経口免疫療法も命に関わると医師に言われているので、治療ができないようです。
それを知った狐は、過剰な程貴方に卵を近づけないようにしていました。
しかし彼にとって、体を鍛えるために必要な食物の一つ、たまには食べても良いと貴方は言いました。
狐「〇〇さん、キッチンはもう片付けたので大丈夫ですよ」
掃除機や消毒液を吹きかける音が止み、キッチンから出てきた狐。
卵が食卓に並んだ日はいつもピカピカになっています。
「そこまでしなくても良いのに…」貴方がそう呟くと、狐は貴方の両肩に手を置きました。
狐「いえ、貴方の命に関わることなんですよ」
赤くなる程清潔な手に抱きしめられ、申し訳ないし不安になる貴方。
卵さえ食べられれば…そう思いました。
お昼、狐は隈取と筋トレをしに外出しました。
今日は遅くなるそうなので、久しぶりに自身で料理をします。
普段、近づくことさえさせてくれない冷蔵庫を開け、鶏卵類が関わる食材ボックスを避けながら何を作るか考えます。
突然、家が大きく揺れ出し、貴方はその場に転げます。
開けっぱなしの冷蔵庫から食材や飲み物、調味料が容赦なく崩れ落ち、必死に這って逃げる貴方。
床に手をついたとき、べちゃっと何かを触ってしまいます。
少しヒリつく手を見ると、液体の正体は潰れた卵。
さらに、殻が手を傷つけてしまい、血が滲んでいます。
血の気が引く感覚を憶えた貴方は、急いでカバンの中のエピペンを打ち、ポケットの中の携帯で救急車を呼びます。
地震の影響で到着が遅れるらしく、不安で苦しくなり、過呼吸を起こします。
そのまま意識を手放しかけたとき、玄関が勢いよく開く音が…
「…さん……さんっ!」
「〇〇さんっ!」
貴方を呼ぶ声が聞こえ、目を開けます。
気がつくと走行中の救急車の中、隣には狐が切羽詰まった顔をしながら涙を溜めています。
狐「っ…あ、ああっ!よかった…!〇〇さんっ、〇〇さん…起きてくれた…!」
ぼろぼろと涙を溢しながら、狐は何度も、何度も「良かった 」と袖を濡らします。
赤い斑点だらけになった手を握られ「狐さん…ごめ、ごめんなさい…」と涙ながらに言います。
狐「俺こそ…ごめんっ…一人にしてしまったことも、心配、させたことも…!」
救急車に揺れながらお互いのすれ違いに謝っていました。
後日…
狐「〇〇さん!冷蔵庫は触っちゃダメだとあれほど言ったのに!」
症状が落ち着き、ことの発端を聞いた狐は、頬を膨らませながら貴方を叱るのでした。
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