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月

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2022年06月15日

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「う、あ…っ」

かすかに灯りが漏れる天窓からくぐもった男の声が聞こえる。

静寂を守る真っ暗な夜の中、その声は何かを耐えるように辛そうに息をつめる。

あーあ、誰よ。伽なんて頼んだやつ。しかも男。誰が好き好んで男の喘ぎ声なんか聞きたいかっての。

星のひとつも見えない空を見上げてはあーっと大袈裟にため息をつく。

「…失礼します、」

声の主らしき男がふらふらとテントから出てくる気配がする。

その声は消え入りそうなくらい小さく、からだも小刻みに震えているのがわかる。

「う、はっ、…ああっ」

テントから10分くらい歩いたところで膝から崩れ落ち木の根もとにすがりつくようにして嗚咽を漏らしながら泣く男。

何となく着いてきたけど、ありゃ初めてだったのかね。顔が真っ青。かわいそうなもんだね。…年はあんまり俺と変わんないのかね。枷をさせられるってことは中忍か。

任務が長引くと溜まるのはわかる。ここには上忍か中忍しか居ないからまあ、命令されてってところかな。俺には枷なんて経験ないからわかんないけど。

「イルカ!!」

ただ泣いているのを木の上から眺めていると顎に髭をはやした男が走ってくるのが見えた。

そしていまだに泣いているその男の肩を掴み嫌がるのを半ば強引に自分のほうに顔を向けさせた。

さっきまであんなに暗かったのにあまりにも明るい月が顔を覗かせている。

イルカと呼ばれた男は運悪く明るくなっていくのと同じように振り向かされその表情が月明かりに照らされてしまった。

あらら、顔面蒼白。血の気ないね。唇なんて噛み締めすぎて血が滲んでる。目元は真っ赤。涙でぐしゃぐしゃ。

「イルカ…」

「見ないでくれ!!嫌だ!」

弾かれたように手を振りほどき叫びながらめちゃくちゃに暴れるイルカ。

顎髭の男はどうしたらいいかわからず立ち尽くしている。俺からは後ろ姿しか見えないけどそうとう困惑してるのがわかる。

…やれやれ。

これ以上騒がれると敵に気づかれかねない。面倒くさいけど早いとこ撤収させないとね。

どっこいしょと重たい腰を上げて印を組みイルカの目の前に立つ。

「もういいでしょ。うるさいよ」

驚愕したように目を見開いて俺を見上げるイルカ。後ろの男が後退り息を飲んだのが聞こえる。

「はたけ、上忍!?」

「うん、この人もらっていくね」

「あっ、待っ…」

いまだ驚きからだを硬直させているイルカを抱き上げ振り替えることもなく、返事を聞くこともなくその場から消える。

明々と電気がついた俺のテントに一瞬にして連れてこられたイルカは訳もわからずきょろきょろしている。

ああ、良かった。涙は引いたんだ。

「はたけ上忍っ!申し訳ありません!ご迷惑をおかけしてっ…」

俺の腕から飛び降りるようにして床に着地したイルカは土下座せん勢いで正座して俺に頭を何度も下げている。

「ねえ、初めてだったの?」

カタカタと音が鳴りそうなくらい震えているからだ。顔は真っ白のまま。いまにもこぼれ落ちそうな涙を見せまいと顔を下げる。

「本当に、すみません…すぐ出ていきます」

「無理でしょ。そんな顔と乱れたチャクラで。殺してくださいって言ってるようなもんよ」

立ち上がろうとするイルカの腕を掴んで自分と対峙させる。限界まで下がりきった体温に若干苛立ちながら呆れたように言うとついに涙が溢れる。

「うっ、…うっ」

さっきよりは小さい嗚咽が漏れ涙がばたばたと音を立てて落ちる。

イルカは俺に掴まれていない左手を目一杯使って涙を隠そうとする。もともと真っ赤な目元は擦りきれそうなくらい。

「ばかだねーそんなになるなら引き受けなきゃいいのに」

嫌味全開で言うとイルカはへたりこんでしまった。もう言い返す気力もないようだった。

俺の手からするりと落ちたイルカの右手はそのまま重力に負けてイルカの横に落ちる。無表情のまま涙を流し続けるイルカに多少同情するような気持ちにはなるがここは戦場。イルカも覚悟を持って来たに違いない。

「…なんかにっ」

「ん?」

「上忍のあなたなんかに何がわかるんですか!?」

ばっと顔を上げたイルカの目には憎しみがみえた。そのままの勢いで立ち上がり俺の胸ぐらを掴んで目を逸らすことなく畳み掛ける。

あ、また唇切れた。

「中忍の俺が、上忍に命令されて断れるわけないでしょう!?

変化でなく男のままの俺を抱きたいと言われた俺の気持ちなんて、わからないでしょう!?

痛くて、気持ち悪くて、男なのにっ、突っ込まれて、」

最初から変なのに掴まっちゃったんだねー。かわいそうなイルカ。自尊心ずたずた。

最後のほうはだんだん弱々しくなってきて思い出したのか頭を抱えてしゃがみこんだ。

「イルカ」

「何で、俺の名前っ」

「今日からお前は俺の物だよ」

にっこり笑って宣言すると困惑と絶望が入り交じった表情で俺を見上げるイルカ。

ところどころ破れている服がそそる。

正直、あいつのテントから出てくる姿を見つけた時に決めてた。俺の物にしようって。

「ねえ、」

しゃがみこんだイルカに合わせるように座って口布を下ろしてそう声かけするとまるで怖いものでも見るように表情を歪ませてじりじりと後退するイルカ。それを同じ歩幅で追いかける。

「返事は?」

先ほどと同じようににっこり笑って問いかける。

後ろは壁。もう逃げ場はないよ。

「嫌、です!俺は男ですよ!?」

至極当たり前のこと。そんなこと、どうでもいい。俺がイルカを欲しくなっちゃったんだから。

「返事は?」

「嫌です!!」

ドン、と鈍い音を立ててイルカの顔の真横の壁を叩く。

「返事は?」

恐怖に身をすくめて自分を抱き締めているイルカに何度目かの催促をする。

目は合っているのに俺を受け入れようとしない姿に苛立ってくる。

頭のてっぺんで固く結ばれている髪の毛をほどく。ばさばさと無遠慮に落ちてくる真っ黒な髪。艶なんかなくて刺さりそうなくらい、かたい。

「返事は?」

「……はい」

諦めたように項垂れて小さく返事をした。

「ん、じゃああんたは今日から帰るまでここから出られないからね」

「どうしてですか!?」

「変な男にちょっかいかけられたら嫌でしょ。俺に仲間を殺させたくなかったらおとなしくしててね」

ほんの少し殺気を込めて言うとイルカの喉がひゅっ、と鳴ったのがわかった。

ひきつったその顔は後悔しているのがありありとみてとれる。

一番変な男なのは俺だよね。わかってる。でももうイルカは俺の物。誰にもあげない。

「イルカ」

腫れ物に触るようにふわっと抱き締めるとがくんとイルカの力が抜けて気絶したことがわかった。

その体重を受け止めながらどうしようもない高揚感を感じた。

ああ、イルカ。かわいいね。かわいそう。

「これからよろしくね」

そう言ってイルカの額にキスをするが本人はぴくりとも反応せず意識を手放している。

いいものを手に入れた。



続く。

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