2人はしばらく部屋のソファに座りテレビを見ていた。気づくと21時を回っていた。
「そういえば、金森って今日は家に帰ってないって言ってたよな?」駿は何の気なしに梓に尋ねる。
「う、うん・・そうだけど・・」
「風呂は入ったのか?」
駿の問いかけに梓は戸惑いながら「え?私臭うかな?」と焦った様子で自分の体を臭い始めた。
「いやいや、そういう意味じゃなくて、ほら、家に帰ってないんなら、風呂にも入ってないって事かな?って思っただけだよ!金森が臭うとかそんなんじゃないから!」
駿は焦った様子で弁解する。
「あ、なんだ、そういう事か・・よかった」
梓は安心した様子で胸を撫で下ろす。
「風呂に入りたいんなら、一応俺が入る為に沸かしてあるからさ!」
駿の問いかけに梓は微笑みながら「それってさ、私を抱きたいってサイン?きゃー❤︎先生に女にされちゃうー❤︎」
梓は両手で顔を覆いながらわざとらしいリアクションをする。
「バ、バカ!風呂に入りたいんなら遠慮すんなっていう意味だよ!何言ってんだよ!」
駿は焦った様子で言う。
「きゃはは❤︎分かってるよ!先生がそんな人じゃない事くらい!」
「そ、そっか・・なら良かったよ・・」
駿は梓の言葉に恥ずかしそうに、人差し指でコメカミをぽりぽりと掻く。
「まぁ、お風呂には入りたいし、お言葉に甘えさせてもらうよ❤︎」
「あ、あと、着替えなんだけどさ、俺の服でよかったら用意できるけど、どうする?」
駿はクローゼットから服を取り出し、申し訳なさそうに梓に手渡す。
「先生の服?」
「あ、やっぱ嫌だよな?男の服なんて!あはは!ごめんごめん!今の話は忘れてくれ!」
駿は焦った様子でクローゼットに服を仕舞おうとするが、それを「あ、待って」と梓が止める。
「ん?どうかしたか?」
「服・・借りようかな」梓は恥ずかしいそうに目を逸らしながら言う。
「いや、無理しなくていいんだぞ?」
「無理してないよ。それに制服のまま寝るのはあれだし・・借りてもいい・・かな?」
「そっか、金森がそう言うなら・・」
駿は仕舞おうとしていた服を梓に手渡す。
梓は駿から服を受け取ると、服をじっと見つめて「ちゃんと洗ってる?」と駿に問いかける。
「し、失敬だな!ちゃんと洗ってるよ!」
「きゃはは❤︎冗談だよ❤︎服ありがとうね」
梓はそう言うと脱衣所に入っていく。
「ったく・・金森のヤツ・・」
駿が部屋のソファに腰を下ろそうとすると、梓が脱衣所から顔だけを出し「先生?」と呼びかける。
「ん?どうかしたか?」
駿の問いかけに梓は「一緒に入る?」と駿を誘う。
駿は戸惑ったが、また例のからかいだと分かったため、たまには冗談でも言ってやろうと
「ああ、そうだなぁ・・一緒に入るか?」と呟きながら梓の元へ歩みを進める。
それを見た梓は顔を赤くして「ぎゃああ!ダ、ダメー!」と駿の事を全力で止める。
「あはは!冗談だよ!冗談!」
「もう!先生のイジワル!!」
梓はご立腹と言った様子で脱衣所に消えていく。
梓の入浴中、駿はソファでお茶を飲みながら、梓の涙の理由について考えていた。
「金森のヤツ・・何があったんだろ?」
駿は梓の担任になった直後の家庭訪問の事を思い出していた。
梓は家は、梓と母親である金森こずえの2人暮らし。
梓が中学1年の頃に、父親がガンにより他界し、それからは母こずえが、駅前にある24時間営業のスーパーで商品出しの仕事をしながら、女手ひとつで梓を育てている。
家庭訪問の時、父親が居ないからとか、片親だからとか、そんな事を負い目に感じさせないくらいに、自分が頑張って娘を立派に育て上げると言っていた母こずえに、当時の駿は目頭が熱くなるほどに感動していた。
単純に母親が夜勤で寂しいだけなのだろうか?
しかし、母親の夜勤は今に始まった事ではない。もう年も前から、今の仕事は続けていると家庭訪問の時に聞いたことがある。
もしかしたら、それ以外に理由があるのだろうか?
「あ!もしかしてイジメ!?」
駿は過去の事を思い返してた。
実際の話、梓は1年前、1年生の時に同級生によるイジメの被害を受けていた。
理由は単純で、父を病気により無くした事で梓は意気消沈し、中学の頃から極力周りとの関わりを避ける生活をしていた。
その為、梓の周りに居ると不幸になるという噂が広まり、それがイジメに発展したのだ。
そんな梓が1人で声を殺して泣いていた所を、当時1年の別クラスの担任をしていた駿が偶然見つけた。
梓とは自分の担当教科である数学の授業で何度か面識はあったため、泣いている子が梓だとすぐに分かった。
「でも・・・」駿は気になることがあった。
それは梓すでに、自分をイジメていたクラスメイトとは、駿きっかけで和解し、今は休みの日に遊びにいく程の仲になっている。
再びそのクラスメイトからのイジメが始まったという可能性もあるが、今の梓は、意気消沈していた頃とは違い、活発で笑顔を絶やさない性格になっている為、イジメを受けていたとしても、言いなりになるとは考えにくい。
「やっぱ親御さんに聞いてみるか・・・」
駿はスマホを取り出す。
「でも・・今電話したら・・・」
駿は悩んでいた。今電話をしてしまったら、梓を家にあげている事がバレてしまうかもしれない。
そうなれば芋づる式に、風俗の事、梓に淫部を晒した事、キスをした事が明るみになるかもしれない。 それを悩んでいた。
「でも・・金森が悩んでいるんなら、保身ばかり考えてちゃダメだよな」
駿は教職を捨てる覚悟で梓の母、こずえに電話をする。
しかしスマホからは
『おかけになった番号は、現在使われておりません』
とアナウンスが流れるだけだった。
「え?何で?」駿は携帯を確認する。
「番号間違えて登録してたのかな?そんな筈ないんだけどな・・・」
駿は以前登録してあるこの番号に連絡をして、実際に繋がった事がある為、間違っているとは考えにくい。
「明日、書類見てまた電話してみるか」
駿は諦めてスマホを閉じてテーブルの上に置く。
「でも、これで首が繋がったとか考えてる自分が嫌になる・・」
駿は自分に嫌気がさし、ソファに横たわる。
「はぁ〜・・」駿は大きくため息をつく。
すると、脱衣所の扉が開き、梓が出てくる。
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