脱衣所から出てきた梓は、駿から借りた部屋着を来ていた。
駿の服は梓の体にはだいぶ大きいようで、少しタボッとした格好だった。
「先生・・お風呂ありがとう。おかげでサッパリした。」
「おお!そうか!そりゃよかったよ!」
駿は梓の姿を確認すると、慌ててソファから起き上がる。
そして梓の服装を確認すると「やっぱちょっと大きかったみたいだな」と申し訳なさそうにつぶやく。
「ううん、貸してくれてありがとうね」
梓は恥ずかしそうに微笑み
「でも、先生はお風呂は入らなくていいの?」と続けた。
「ああ、そうだな、入ろっかな」
駿は元々自分が先に風呂に入ろうとしていたという事を思い出し、慌てた様子で脱衣所に歩いていく。
脱衣所へ入っていく駿を見届けた梓は、着ている服を見つめて「先生の服・・ふふふ」と嬉しそうに服と自分を抱きしめる。
手早く頭と体を洗った駿は、T字カミソリで髭を剃りながら、鏡に映った自分の顔を見つめる。
「はぁ〜・・なんかとんでもない事になっちゃったなぁ」
駿は両手で洗面器に入ったお湯を両手ですくうと、口周りに付いたヒゲとジェルを綺麗に洗い流す。
「けど・・金森のヤツ・・何があったんだろ?」
駿が考えて湯船に浸かった直後、脱衣所から梓の声が聞こえてくる。
「先生?」「ん?金森か?どうかしたか?」
駿が尋ねると梓は「体ってもう洗った?」と聞いてくる。
「ああ、もう洗ったけど?どうかしたのか?」
「あ、いや、まだ体洗ってないなら、背中流してあげよっかな?って思っただけ、でも、洗ったんならいいや」
梓はそういうと部屋へと戻っていった。
「背中流してって・・何考えてんだよ」
駿は顔を赤くし、このままだとのぼせると思い、急いで湯船から上がり脱衣所へいく。
駿が部屋に入ると、部屋のテーブルの上には、グラスと、冷蔵庫に入っていたはずの缶ビールが置かれていた。
「あれ?ビール?」駿が不思議そうにそれを見つめる。
「あ、先生」「もしかして、そのビール、金森が準備してくれたのか?」
「あ、う、うん・・お父さんがお風呂上がりによくビール飲んでて・・冷蔵庫見てみたらビールがあったからさ、ごめんね、勝手に・・・め、迷惑だったかな?」
梓は駿の問いかけに不安な眼差しを向ける。
「はは、迷惑なんて思わないよ。ありがとな金森」
駿は梓の頭をポンポンと優しく触り、ソファに腰を下ろす。
「ほら!私が注いであげるよ」
「ああ、悪いな」駿は梓からグラスを受け取る。
それに梓がビールを注ぐが、グラスが乾いていたのだろう、グラスの8割が泡になってしまう。
「あ、ご、ごめん・・泡だらけになっちゃった・・・」
「あはは!気にしなくていいよ!あとこういうときは、ビール注ぐ前にグラスを水洗いすると上手く注げるぞ」
駿は笑みを浮かべ梓をフォローしながら、グラスを口へと運ぶ。
「なら、私も飲んでみよっと」
梓は缶ビールを勢いよく飲む。
「バ、バカ!何やってんだよ!」
駿は梓の手から缶ビールを奪う。
「うげぇぇぇ〜、にっっっがっ!な゛に゛ごれ゛」
梓は人生初のビールの味に顔をしかめる。
「ちょ、ちょっと待ってろ!水持ってくるから!」
駿はキッチンへ走り、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して梓に手渡す。
「ほら!これ飲め!」「あ、ありがと先生・・・」
梓は受け取った水を勢いよく飲む。
「ったく、未成年が飲酒しちゃだめだろー!」
「猥褻物陳列!」
梓の言葉に返す言葉が見つからない駿。
「あ、いや、それは・・その・・あはは、それ言われちゃ、言い返せないな・・あはは」
駿は自分がどうしようもなく格好悪く情けない存在に思えて、それを忘れるかのように、グラスのビールを一気に飲み干す。
「でもさ、よくこんな苦いの飲めるね?美味しいの?」
「ああ、まぁな。うまいよ」
「私には分からないなぁ。大人の味だね」
気づけば時刻は0時を少し過ぎた頃だった。
「ああ、もうこんな時間か、そろそろ寝るか」
駿はソファから立ち上がる。
「え?もう寝ちゃうの?夜はこれからじゃん!」
梓は不満げな表情を浮かべる。
「何言ってんだよ!明日、てかもう今日か!学校あるんだぞ?早めに寝なきゃ遅刻しちゃうだろ!」
「チェ〜ッ、わかったよ〜・・・」
不貞腐れている梓などお構いなしといった様子で駿はリビング横の扉を開き、そこにはベッドが置かれた部屋があった。おそらく寝室がだろう。
「そこのベッド使っていいからさ!」
駿は梓に寝室にベッドを使うように促す。
「え?先生は?」
「俺はリビングのソファで寝るから気にするな。さすがに同じベッドじゃ寝れないからな」
駿はそう言うとソファで横になろうとする。
しかしそんな駿の腕を梓が掴む。
「一緒に・・寝ようよ・・・」
梓は悲しい表情で訴えかける。
「いや、さすがに・・・」
駿は梓の顔を見て言葉を詰まらせる。
「はぁ〜・・わかったよ・・・」
駿は梓に根負けし、同じく寝室で寝ることを承諾する。
「先生・・・」梓の顔に笑みが浮かぶ。
「けど、同じベッドで寝るのはさすがにまずいから、俺はこれで寝るよ」
駿は押入れから布団を取り出して、敷きながら言う。
「えー!同じベッドでいーじゃん!」
「いいわけないだろ!教師と教え子が同じベッドで寝るなんて!」
「もう!分かったよ!」梓は不貞腐れたようにベッドに横たわり、駿に背を向ける。
薄暗い寝室のベッドに横たわる梓と、床に敷かれた布団に横たわる駿。
「なんか・・ベッド独占しちゃって悪いね先生」
「そんな事気にしなくていいって!」
駿は微笑み「それに最近シーツを新しくしたばっかりだから、その・・変な臭いとかしない・・よな?」と続ける。
「うー・・・ん、ちょっと臭うかも」
「え?まじで!?」駿は驚きのあまり布団から起き上がる。
「うそ!うそ!冗談だよ!いい匂いだよ❤︎」梓は笑いながら冗談をかます。
「そっか・・ならよかった・・・」
駿は安心すると再び布団に横たわる。
「でも金森・・何かあったのか?」
駿は気になっていた事を何の気なしに聞く。
「えっと・・それは・・・」梓のは口ごもる。
「無理して言え!とは言わないけどな?ひとりで抱ごんで、壊れちゃったら元も子もなんだからな?」
「壊れちゃうって?」
質問する梓に駿は自分の考えを語る。
「自分だけが耐えればいいって、そういう我慢ってさ、長くは続かないんだよ!
頭では大丈夫!平気!って思ってても、心がそれについて来なくなって
耐えれなくなって壊れちゃう日がきっと来るんだよ! だから」
駿が喋っていると、ベッドから寝息が聞こえてくる。
「ん?金森?」
駿が布団から起き上がり、ベッドを確認すると、そこには健やかな表情で眠る梓の姿があった。
「あ、寝ちゃったのか・・まぁ、慣れないビール飲んじゃったからな・・俺も寝るか」
梓の寝顔を確認した駿は、梓の頭を優しく撫で、布団に横たわり眠りにつく