少なくとも僕には責任がある。
僕は美咲さんの優しさに甘えていた。
また美咲さんに惹かれ、ずっと一緒にいたいと願い、離れるという決断を下せなかった。
美咲さんの幸せを全く考えてあげられなかった。
「ごめん…」
僕は消え入りそうな声で言った。
聞こえなくてもいいと思った。
「何か言った?」
「何でもない…」
「ならいいんだけど。紺野くん…」
僕の隣に座っている美咲さんは僕の名前を呼ぶと、只黙って僕を見ていた。
僕は訳のわからない美咲さんの視線に戸惑い、敢えて視線を外に向けた。
それでも美咲さんの視線をずっと感じていた。
「何?」
「何でもない。只、紺野くんの事を見てただけ…。ダメかな?」
「ダメです。っていうか嫌です」
「ちょっとだけ?」
「ダメです」
「ちょっ‥」
「止めて下さい!」
「・・・・・」
つい…声を荒らげてしまった。
何で僕はイラついてるんだ。
僕は窓際まで歩くとベランダの窓を開けて、大きく息を吸った。
しばらく沈黙が続いた。
美咲さんも何も言わず黙り込んでしまった。
またやってしまったと反省した。
「美咲さん…ごめん」
5分が経過した頃、先に口を開いたのは僕の方だった。
「・・・・・」
あれっ?
何の反応もなかった。
もしかして怒らせちゃったのか?
ゆっくりと美咲さんのいるソファーの方に振り返った。
すると…美咲さんはソファーに横になって眠っていた。
美咲さんの隣に座ってみたが、起きる様子は全くなかった。
そんな無防備な美咲さんの唇とふくよかな胸の膨らみに自然と目が向いた。
ずっと無理矢理に押し殺してきた感情が溢れ出て抑え切れなくなっていた。
気づくと僕は美咲さんの胸に触れ、唇と唇の距離はあと数センチまでになっていた。
「・・・・・」
でも直前で理性を取り戻し、寸前で止める事が出来た。
グググググッ…‥
上から僕の頭を押さえつけるような不思議な力が働いた。
その力は思いのほか強く、押さえつけられてしまった。
あぁぁぁっ…‥
次の瞬間…‥
僕の唇は美咲さんの唇と重なりあっていた。
美咲さんの唇はとても柔らかかった。
美咲さんの唇は直前に飲んだコーヒーの味がした。
ちょっと待てよ…‥
コーヒーの味…‥
そういえば…‥
【今日のお礼に私からのちょっとしたプレゼントがあるの。後でどんな味だったか教えてね】
遥香は学校で僕にそう言っていた。
この事だったのか。
してやられたと思った。
僕は、ゆっくりと唇を離した。
遥香は美咲さんを想っている僕の気持ちに気づいていたのかもしれない。
そして恐る恐る美咲さんを見たものの、まだ眠ったままだった。