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凌先輩が去った後の教室は、驚くほど静かだった。
夕日のオレンジ色が机の端を鋭く照らし、窓の外からは運動部の掛け声が遠く響いている。
私は、先輩が最後に撫でてくれた頭の感触を噛みしめながら、ゆっくりと深く息を吐いた。
憧れを終わらせた寂しさはあっても、不思議と涙は出なかった。胸にあるのは、自分でも驚くほど澄み切った、確かな「答え」だけ。
「……終わったか」
聞き慣れた低い声に顔を上げると、教室の入り口に遥が立っていた。
いつからそこにいたのか、遥は廊下の壁に寄りかかり、少し気まずそうに視線を泳がせている。
「……全部、見てたの?」
「見てねーよ。……ただ、兄貴がどんな顔してここを出ていったかは見た。あんなに清々しい顔した兄貴、久しぶりに見た」
遥はゆっくりと私の方へ歩み寄ると、私の隣で足を止めた。
窓から差し込む夕日が、彼の横顔を強く照らしている。
「……紗南」
「なあに?」
「……いや。……なんでもねー」
言いたいことを飲み込んだような遥の不器用な横顔を見て、私はふっと笑みがこぼれた。
彼を選んだことに、迷いなんてこれっぽっちもない。
私は、自分から一歩踏み出して、遥の大きな手をぎゅっと握った。