テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ファンタジー
3
96
気がつくと僕に銃を向けていたやつも後ろ向きに崩れ落ちる。
続いて、2発、3発。次々と兵が倒れてゆく。
「狙撃だ!」
残った兵隊が慌てて伏せる。
「スナイパー! 山側からだ」
さすが大佐、的確に状況を把握、部下に指示する。
しかし、兵隊は首だけを上げてキョロキョロするだけだ。だが、どこから狙われているか、全く見当がつかないようだ。
何しろ2km以上の遠距離射撃だ。
混乱の中、僕は美咲に飛びつく。倒れた兵士からナイフを奪う。結束バンドを切る。
彼女を抱えて倉庫の後ろに走り込む。
「親父、……おせぇぞ」
僕は恨みの言葉を呟く。
そのまま美咲を支えながら廃墟に面した国道側へ走る。背後では、銃撃と混乱が続いている。倉庫の先には草地、かつての裏門。国道に面している。
そこにトラックが突っ込んでくるのが見えた。
急停止。僕は美咲を荷台に放り上げる。そのまま僕も飛び乗る。運転席には軍服姿の男。あ、こいつ、見たことあるぞ。昔、鎌倉の家に来ていた親父の上司だ。にやっと笑って急加速した。
「うわ」
僕は荷台を転がり、美咲に重なる。何か言いたそうな彼女。
そのまま彼女を押さえ込む。両手で彼女の頭を抱え込んだ。一番大切なもの。
僕の頭上に弾丸の風切り音。後ろではまだ狙撃が続いている。
僕たちは脱出にとりあえず成功した。
おっと、ここで呼吸を整え『感謝します』と呟いて通常モードに戻した。いや、実際この「金窪攻撃人格」に切り替えると集中力とスピードは倍増するが疲労もハンパないのだ。長いことはやってられない。
ところで、実は昨晩、親父からのメモが自宅にあったのだ。ここには金窪流の伝承符号で記されていた。
「山側からの狙撃ポイントに奴らを引き出せ」
親父からだった。
親父と彼のゲリラチームが助けに来ていたのだ。そして、僕は大佐をうまく狙撃ポイントに誘い出したのだった。
だが、これ、かなり五分五分。やつが一対一に乗ってこなかったらどうなっていたんだろう。
ようやく北鎌倉の自宅に戻ったのは夕方近くだった。
息も絶え絶え。
タオルを絞り美咲の頬を冷やす。
「隼人、あなたの方が重症」
彼女はタオルを奪い取って僕の目に当てる。
救急箱からガーゼと絆創膏をつかみ出して僕の耳にベタベタ貼り付ける。
幸いなことに大佐に切られた耳の血は止まっているようだ。でも、治った時に剥がす方が痛そうだ。
その後、急ぎここに至る山道に戻る。
あらかじめ仕込んであるトラップを「稼働」状態にして回った。
落とし穴、脛払い、撒き菱、鉤縄などなど。
まあ、現代版だが、あまり進化してないよな。
「これで少しは時間が稼げる」
「でも、逃げ場は?」
「ある。親父が準備してくれる」
そのとき、玄関がノックされた。
「誰だ」
「俺だ。開けろ」
その声に、全身の力が抜けた。親父だった。
髭だらけ。ゲリラ服姿。うーん、定番だよな。
「無事か」
「なんとか」
「よくやった」
挨拶もそこそこ、親父は冷静に状況を説明し始めた。
「奴らはもうここを嗅ぎつけている。俺たちが囮になる。お前らは、あれで逃げろ」
「やっぱり、マジかよー」
「いいから聞け。家は爆破する。お前らは死んだことに偽装する。じゃないとどこまでも追ってくるぞ」
「親父たちは?」
「僕たちはここで奴らを食い止める。その後退却するから心配するな」
本当に大丈夫なのか?
「俺が合図を送る。そしたらここ、吹っ飛ばすからそのタイミングで飛び出せ」
「なんか、ざっくりだなぁ」
相変わらずの適当ぶり。ある意味、安心したよ。
「その後は?」
そう、いつまでも逃げてらんないでしょ。
「近く俺たちは総攻撃をかける。それまで避難所はお前たちが守れ」
その声は穏やかで、でも、覚悟に満ちていた。
「でも、それって……」
僕は気が小さくて悲観的なんだ。
その時、遠くにトラックの音。
「来たか」
親父は振り返り、ライフルを担いだ。
「行け!」
僕は美咲の手を掴む。
居間の畳を持ち上げる。その下に地下の隠し通路がある。
そこに飛び込んだ。畳が元に戻る音。
狭い。一人通るのがやっとだ。腰をかがめて通路を進む。
背後で銃の音がし出した。
彼女の手が震えている。しっかり握り直す。
「あなたのお父さん……」
彼女、無理している。
「あいつは大丈夫だよ」
僕はわざと明るい声で彼女の不安を吹き払おうとした。
でもさ、これは気休めでもなんでもない。長いこと一緒にいればどんな男かわかってくるよ。
「もうすぐだ。抜ける」
トンネルを抜けると、裏山の崖。そこに、僕の隠し倉庫があった。
その部屋の真ん中に、どん、とバケットシートが据え付けてある。
エジェクト脱出シート。
以前、親父のコネで航空自衛隊のお下がりを手に入れたものだ。
戦闘機のパイロットなどが緊急時に脱出するロケット付きの椅子。
「まさか、こんなの使う日が来るとはなぁ」
僕は感想を述べた。
「これ、一人用でしょ」
美咲は疑わしそうな顔。
「まあな。でも、僕たちなら詰めればなんとかなる」
僕は無言で彼女を抱き寄せた。
そのままバケットシートにまず座る。僕の上に彼女を乗せる。
四点シートを二人の上からまとめて締める。
「え、ちょっと、待ってよ!」
彼女がジタバタ抗議。
いやぁ、僕も恥ずかしいよ。
僕の膝の上に暖かくて柔らかな実体がこれ以上ないほど密着しているのだ。
あれ、美咲、結構腰が豊かなんだな。
彼女はモゾモゾと太ももを動かし恨めしそうな視線で振り向く。
この状況、僕のモードは緊急事態。だから目を瞑ってくれ。
ポケットのスマホが震えた。親父からのタイミング指示だ。
鎌倉の家が爆発する音が聞こえてきた。
椅子の下のハンドル。両手で一気に引き上げた。
轟音。
彼女の首を押さえる。
凄まじい加速。
崖の中腹から夜空へ、エジェクトシートが打ち出された。
背後では盛大な火花と火炎。僕たちの姿を隠してくれる。
「さよなら、僕の家」
美咲が僕の手をぎゅっと握る。
ロケットエンジンはまだ止まらない。シートはまだまだ上昇する。風が痛いほど冷たい。でも、その冷たさってさ、まだ生きている証だよな。
「ガクン」
ロケットが燃え尽きた。
パラシュートが開く。
後ろを振り返ると、北鎌倉の山々が炎に包まれている。
前方には海が光る。
僕たちは、そのまま浜辺に着地した。ハーネスを外す。
美咲は急いで僕の上から距離を取る。ちょっと恨みがましい顔。
「怪我はないかい?」
彼女のご機嫌は斜めだ
「フン」
うむ、でもさ、非常事態だからさ、許してよ。
「時間がないんだ。行こうよ」
僕は彼女の手を握って歩き出した。
沈黙の中で、ひとつだけ確かなものがあった。もう、後戻りはできない。次は、命をかけて、奪われたものを取り返す番だ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!