テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
41
柘榴とAI

187
45
「あなたの名前は?」たすらぎが小さな目をさらに小さくして聞いてくる。
「名前は、なんですか?」
「名前が、わからないんですか?」
「うん、わかりません」
名前、は知っている。が、僕の名前は知らない。僕に名前があるのか、ないのか、僕にはわからない。たすらぎには、たすらぎという名前があるが、僕には、僕という名前はない。頭の沼を潜ろうが、僕の名前は引っ掛からない。
「これはどうゆうことなんだろ、警察に言ったほうがいいのかな」たすらぎはブツブツと言っています。口が小さく動き、唇に入った線が波を打つように流れるのです。たすらぎの言葉の意味は、理解できていないのです。
「とにかく、あまり地面に転がらないほうがいいですよ。汚いし、僕みたいに心配した人が寄ってきてしまいます」
「それは、あまりいいことではないです」
「そうです。なので、お仕事に行くなり、家に帰るなり、とにかくどうにかしてくださいね」
「どうにかって、どうすればいいの?」
「人の迷惑にならなければいいんです。では僕は行きますね」
たすらぎの背中を見ていました。遠ざかる黒い彼の背中。それが一転、青空に変わりました。僕は右手に、茶色い重いものをはめていました。
上から、太陽が落ちてきたのかと思いました。白い球体でした。僕はそれから身を守ろうと右手を顔の前にかざすと、その右手の袋にすっぽりと収まりました。
「たすらぎさん!ナイスキャッチです!」
いや、僕はたすらぎではないです。
では、たすらぎはいまどこに?
コメント
2件
うお
第3話、読ませていただきました。 名前がわからない「僕」と、親切に声をかけるたすらぎさん。この「名前の不在」という設定がすごく気になりますね。「僕には名前がない」という自己認識と、最後の「ナイスキャッチ」で呼ばれる名前の入れ替わり——これは意図的な仕掛けですよね。視点の揺らぎが伏線っぽくて、続きが気になります。 星加さんの文体、地の文のリズムが心地よくて、情景がすっと入ってきました。次話も楽しみにしています。