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書也は砂利道をわけも分からずに駆けていた。
「どうして……こうなっちまうんだ!」
絵の才能の嫉妬心から愛に八つ当たりしたのは自分でも自覚している。
の時、スマホの振動と共におどろおどろしい三味線のような音が鳴り響いたかと思うと、激しいギターのBGMが爆音で流れる。
「わっ!? なんだこれ!? こんな着信音にした覚えはないぞ!? この音楽……虚構推理のOP曲か」
スマホがハッキングされているのではと疑ったが、選曲がアニメ化したラノベなので、思い切って着信に出る。
「すいません、ここにおひいさまは居ません」
『……私、メリーさん……』
何処かで聞き覚えのある声。なぜかその声がシンクロしているような、山彦のように反響しているような、声が近づいているような錯覚さえ覚えた。
「えっ?」
『今……あなたの後ろにいるの!』
振り向くと、紅い瞳の少女が顔を近づけた。
「ぎゃあああっ!? おひいさま助けて!?」
「私よ馬鹿……」
よく見れば、私服なのか黒いゴスロリチックなワンピースを着た幽美の姿があった。
「どうして幽美先輩がここに!? まさか付けてきたんじゃ!?」
「昨日ニュースで踏切にトラックが進入して、粕壁駅行きの列車が遅延してた。まさかとは思って愛の家に尋ねようとしたら書也と……こんな事になるとは思ってもみなかった」
幽美はそう言って、深刻そうな顔をする。
「昨日、まさか変な呪いでもかけました? それとも俺のことを心配してくれたとかじゃないですよね?」
「違う書也じゃない……愛の事を心配しているに決まっている。まさかあのまま、愛の家にお泊りでチョメチョメしているなんて!?」
幽美は青ざめた表情で両手で頭を押さえる。
「お泊りはしましたが……チョメチョメはしてません!」
恥ずかしそうに言う書也に幽美はジト目で見る。
「愛とチョメチョメしてたら……ひゅっと刺してひねって、ちんこもぐ! もぐ! してるところ」
懐から鞘付きのブドウ模様の柄の小型ナイフを出し、その右手でナイフを突いてひねる動作をしている。そしてナイフを突いてからの右手で木の実でももぐような動作をしている。
「ナイフなんて振り回さないでくださいよ!? 本当に危ないです!?」
後ずさる書也に幽美は獲物を見るような目を向ける。
「大丈夫……鋭利な刃が無いペーパーナイフ。護身用の脅しとして持っているだけ……それよりその……ちょっと格好つけたような中年親父が朝のランニングに着るようなジャージは何?」
書也は今更ながら気付き「あっ」となった。愛からジャージを借りたままだった。それどころか、制服のブレザーやワイシャツ、ズボン、カバンまでもが置いたままだった。書也が気まずそうに何も言えずにいると、愛は溜息をついた。
「やっぱり……わたしの占いの通りだったみたい」
八雲瑠月
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幽美がペーパーナイフを鞘に納めてしまうと、今度は懐から死神のカードを出し、書也に見せる。
「死神のカード……まさか俺の寿命が残りわずかだとか言わないですよね!?」
「違う……このカードが出た場合、何かの終わりの暗示を示している。つまり、さっきまで書也と愛と一緒に居たのならば、その関係が終わりになってしまうような出来事が起きた……違う?」
真っ直ぐな目で見る幽美に書也は見透かされたと思い、目を逸らした。
「幽美先輩は……なんでもお見通しなんですね」
「書也、喧嘩して愛に酷いこと言った?」
怒った表情で言う幽美に書也は下を向く。
「俺、愛に酷いこと言っちゃいました……絵が上手いのにあんな誤字脱字だらけの文章でラノベ作家を目指すのかって……本当に最低ですよね」
「書也、ちょっとしゃがんで……」
「えっ?」
書也は幽美の通りにしゃがんだ刹那。スローモーションのように平手が撫でたかと思えば、ペチペチと何度も手を当てた。書也は呆然と幽美の訳の分からない行動を見守るしかなかった。
「察して……令和の今、暴力とかニュースになるぐらい危ないネタだから。芸能人関係者とか、プロのライターだと余計に気を使う……だからやるとしても呪いでしか、できないの」
「場合によっては呪いの方が危ないと思うんですが……」
頬を触り続ける幽美に苦笑いする書也。心なしか、頬がヒリヒリしてくる。
「愛に悪いと思うなら……ちゃんと謝って仲直りして……愛と書也が仲良くなるのは癪だけど……部活動で負のオーラが充満するのは嫌」
「でも……その死神のカードが出たら破局なんでしょ?」
書也はうつむいて言う。
「死神のカードは破壊と再生を意味する。壊れたら直せば良い……」
「愛になんて言えば……」
幽美が背中を押し出すと、駆けて来る人影が見えた。
「書也君!」
それは手を振る愛の姿だった。
「愛、お前なんで……」
「何でって……幽美ちゃんが書也君を確保したって、メールがきたから」
愛は恥かしそうに言う。幽美を見ると、後ろ手で隠すスマホが股の隙間からチラリと見えた。
「愛、ジャージの窃盗犯を確保した……」
幽美が書也の両手を掴み、愛に歩み寄らせる。
「ごめんな愛……お前の父ちゃんの形見なのに……」
「大丈夫、書也君にあげるつもりだったし」
「いや、愛の大切な物だろ。貰う訳には……」
「貰ってよ。ジャージなんて飾ってもしょうがないし……」
「……ありがとう」
書也のありがとうから、愛も言葉が詰まる。書也も愛も何も言えずに目を逸らした。
「んん!」
幽美が呻くように書也を促し、叩くように押した。
「ごめん愛! 酷い事を言った」
頭を下げる書也に愛は微笑する。
「わたしの方こそごめんね……本の事をすぐに言えば良かったのに……」
「本を勧めてくれてありがとう愛……お前が本を勧めてくれたから小説の創作を……好きになれた!」
書也は頬を赤らめて叫ぶように言った。
「良かったよ……わたしが子供の時に書也君にお節介な事をしたんじゃないかと思ってた」
愛は涙を流して言った。
「そんなことはない! 俺は愛に感謝しているんだ! 子供の時だけでなく、今でも! ラノケンを紹介してくれて感謝してる! だからその……これからも俺と付き合ってくれ!」
勢いよく頭を下げる書也に愛は涙を拭き、微笑んだ。
「わたしで良ければだよ……これからもよろしくお願いします書也君」
「うわ……何これ……告白……書也の台詞が臭すぎる……」
幽美が気持ち悪い虫でも見たかのような顔になる。
「いや、違うんです幽美先輩……俺的には謝罪というか……けじめというか……」
書也は恥かしそうに頬を染め、目を泳がしている。
「そうだよ幽美ちゃん……それじゃあ、わたしが書也君の告白に受け答えしたみたいだよ!?」
愛も頬をトマトのようにして、必死に両手を振って違うことをアピールする。
「やっぱり、書也にだけでも呪いでもかけておくべきだった」
幽美はバックから藁人形、金槌、五寸釘を取り出した。
「幽美先輩……また物騒な物を……」
「書也、一回呪いの実験台になって……この藁人形と五寸釘に打たれるだけでいいから!」
飛びかかるような勢いな幽美に書也は逃げ出していた。
「その五寸釘、玩具とかじゃなくて絶対に死ぬ奴ですって!」
『マテェェェッ!』
デスボイスのような幽美の声が響く。
「ひいいいいっ!?」
そして書也の悲鳴も続いて響いた。