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また誰かに呼ばれて目が覚める。誰かはわからないけれど、私を呼んでいる声に目が覚めた。
「やっぱり、ステラの体よね……はあ……」
夢だった。まだその感覚はあいまいで、現実に戻り切れていないような気もする。細い指を光にかざして掌、甲、と見た後、私は手を握った。力があまり入らなくて、違和感を覚える。力が入らないのはいいとしても、何かいつもと違う気がしたのだ。それが何かはわからなかったが、私は体を起こして、あの夢を思い出していた。
(少しずつ、リースの記憶を取り戻せる状態に近づいている。だから、このまま乗り切らなきゃ……)
リースに冷たい態度を現実でとられたとしても、彼は完全には消えていなかった。かなり鋭く突っ込んだこともあったが、それでERROR表示のあと、彼の記憶が消えるということもなくて。それは安心した。けれど……
(大丈夫、まだ私は壊れていない。壊れない)
今一度、個々に戻ってきた意味を再確認できた気がしてよかった。彼が夢の中で応援してくれたからまだいけると自分に言い聞かせる。
それにしても、本当に予想しないことばかりが起こってどうすればいいのかわからなくなる。
魔法がある世界だし、混沌と女神が争っていた世界だし何でもありといえばありなんだけど。
「だからって、もう乙女ゲームの世界観じゃないでしょ……」
攻略とは名ばかりで、記憶を取り戻すための行動であり、ロマンスも何もない。もとから、推しの攻略キャラが元カレだった時点でおかしかったのだが、まさかこんなふうに私の人生が転がっていくとは思わなかった。
前の世界にいたときよりも、自分らしく生きられるのはいい点だと思うけど。それでも、その代償ともいわんばかりに降り注いだ災難というのはやはり何とも言えないというか。宗教的なものがかかわったから、エトワール・ヴィアラッテアは聖女として認められなくて、そして迫害されて悪女に落ちた。私は、自分を信じてくれる人がいたからいいけれど、エトワール・ヴィアラッテアにはそんな人が一人もいなかったから。
だとしても、あんな悪女が幸せになれる道なんて本当にあるのだろうか。
「どうぞ」
とんとん、とノックの音が聞こえ、私は入っていいと扉の向こうにいる彼に声をかける。
扉がゆっくりと開かれ入ってきたのは珍しく紅蓮の髪を下ろしたアルベドだった。彼は確か、自分が髪の毛を下ろしているところをみられるのが恥ずかしいタイプだったよね? と思い、珍しい姿に見入ってしまう。それほど、距離が近くなって心を許してくれたということなのだろうか。あるいは、髪を結ぶ時間がなかったか。ものすごい魍魎だし、髪を結ぶのも一苦労だと思う。女性がうらやむくらいにはその髪の毛は美しくて枝毛もない。髪を解いていなくてもそれ、だとは思わないけれど、それに近いくらいにはきれいで。
「何ボーとしてんだよ」
「アンタの髪の毛ってきれいねって、思って」
「ああ……あーそういえば、結んでなかったな」
「いまさら?」
アルベドはそう言って、頭を掻いた。恥ずかしそうに耳を赤く染めていたから、本当に忘れていたんだと思う。どおりでおかしいと思った。
アルベドは、部屋にあったリボンを見繕ってシュッと自分の髪を束ね、高い位置でポニーテールにした。見慣れた髪型に戻り、私はもうちょっとそのままでもよかったのに……なんて思いながらも、彼が訪ねてきた理由を聞こうと思った。
「それで?髪の毛を結ぶのを忘れるくらい慌ててどうしたの?」
「慌ててねえし、お前が起きたと思ってみにきたんだよ。髪を結んでなかったのは、そうだな……いや、なんでだろうな」
「私に聞かないでよ。わかんないし!」
髪を結び忘れた理由なんて私が知るわけないし、私に聞いてくる理由もわからなかった。私はてっきり慌てていたものだと思ったけれど、どうやら違うらしい。私が起きたのどこで知ったのか。それは気になるところではあったが、詮索しないでおこうと思った。
アルベドは椅子を持ってきて、腰かけると、頬杖をついて私を見た。
「な、なに?」
「体調は大丈夫か?」
「え、まあ、うん。でも、まだ体がだるいというか……うーん、あと何かがごそっと抜けた感じ?」
「何だそれ……でも、そうか。だるいのか」
と、アルベドは何か考え込むように顎に手を当てた。
なんて説明すればいいかわからなかったが、ごそっと抜けた感じ。それは、気持ちというよりもむしろ、もっと大事なものというか。リースとの記憶とか、前の世界の記憶が抜け落ちた感じでもなかった。また、体がだるいのはそのままで、寝ても疲労回復しなかったということだ。体の不調が何からきているのか。寝たら治ると思っていたが、そうでもないみたいだ。夢でありえない出来事が起こったからだろうか。それも、よくわからない。
「そういえばなんだけど……夢で、リースにあった」
「のろけか?」
「の、のろけじゃないし!のろけじゃなくて……その。彼の記憶」
「記憶?」
説明足らずで、アルベドが首をかしげる。確かにこんなこといきなり言われても困るだろう。
私は順を追って、夢で起きた出来事……夢の話をした。にわかには信じてもらえないだろうと思ったけれど、アルベドはすべて理解したようにうなずいてくれた。否定しないということは、これは別におかしなことではないか、アルベドが私の話をただただ聞いてくれるかの二択だなと思った。どちらにせよ、話し終わるまで待ってくれて、私はふうと息を吐くことができた。
「――なんだけど、どう思う?」
「別に嘘だとは思わねえよ。ただ、そうだな、まあ、ステラにしかわからねえこともあるだろうし」
「なんか、歯切れ悪いけどどうしたの?」
「……」
「……アルベド?」
理解はしてくれたけれど、歯切れが悪かった。じゃあ、これからも頑張るしかないな! と言ってくれるのを期待したわけじゃなかったけれど、何というか、その反応が不穏で居心地が悪くなる。この夢がさらなる悪夢を呼ぶとかではないだろうけれど……
「アルベド?」
「わりぃ、ちょっと考えごととしてた」
「だから、その考え事って何?」
「ステラには関係ねえよ。それにしても、そうだな……本物の聖女様はどうする?」
「話いきなり変わったんですけど!?本物の聖女……トワイライトのこと?」
「ああ。もう少しで召喚されるんだろ?あの偽物が本物だとちやほやされながらも召喚されるってな……」
「確かにそれはそうなんだけど……」
エトワール・ヴィアラッテアが聖女と認められている時点で償還する理由はない。でも、召喚するということは何かしら理由がある。その理由をエトワール・ヴィアラッテアは話したが、元から世界には必要だった、世界を構築するうえで、この物語上、トワイライトを召喚しないなんてことはありえなかったのだろう。誰もが避けられぬ運命があると。
トワイライトをどうするかは今後の問題にも大きくかかわる。
(ベルは奪えって言っていたけど、私にそんな勇気ないし……彼女の記憶がどうかもわからないのに……)
彼女に嫌われたいわけでもない。だからこそ、こっちも慎重に動かないといけない。
(でも、体の調子が今は……)
そんなこと言っている場合じゃないってわかっているのに、もやもやとした気持ちは晴れないままだった。
「な、なに?」
「俺がさっきから思ってたこと言っていいか?」
「え、うん、そんなに重要なこと?」
一人で考え込んでいれば、あの満月の瞳とかちあってしまった。言いたいこととは何なのだろうか。なるべく手短に……いや、怖い話じゃないといいんだけど。そう思いながら固唾をのむと、アルベドは深刻そうに口を開いた。
「今お前、魔法使えるか?」