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心地いい漣の音が耳を掠める。

ここは海、ぼく達に絆と冒険をくれる場所。


ぼく達四人、輝斗きと椿季つばき陽平ようへい、そしてぼく、薙ノ太なぎのたは昔から仲のいい幼なじみだった。

小さい頃は毎日浜辺で日が暮れるのも気にせずヒーローごっこをし、長期休みになればほぼ毎日一緒に居て、周りの大人からは兄弟のようだと言われてそだってきた。

中学二年生になった今でも浜辺を裸足で砂まみれになりながら四人一緒に登下校している。

楽しくて幸せな時間

ぼくはこの四人で過ごす時間が昔から堪らなく好きだった。

そんな幸せな時間がずっと続くと思っていた、そう信じて疑わなかった。


でも


ぼくらにそんな未来はこなかった。


「ごめん、オレ引っ越すかもしれない…」

いつもと何も変わらない部活からの帰り道、いつも通り砂浜で駄べっていた時輝斗から突然突きつけられた言葉はぼく達の頭を真っ白にさせた。

「な、なんで急に、、、」

さっきまで楽しそうに波とじゃれていた椿季も顔から楽しげな雰囲気を消し、焦りながら輝斗に問いかける。

「理由は、言えない…ごめん」

ぼくの隣に座っていた陽平の方からガランと音がした、音的に楽器ケースを膝から零したのかも知れない。それとほぼ同時に陽平からキュと耳障りな音が鳴り、声を上げた

「いつ、引っ越すの?」

「8月3日」

その日はぼく達が毎年ある約束をしている日の前日だ、つまり輝斗はその約束の日を一緒に過ごせないんだ…

ぼく達はショックで固まった。

誰も、何も言えなかった。

ぼく達は四人でいることに意味があった、そんな仲間の一人、大切な友達が離れてしまう、いやもしかすると…

「ねぇ輝斗、それでもぼく達また会えるよね?」

輝斗は口を噤んだまま目を伏せてしまった。

嗚呼やっぱりそうなんだ。

返事がない、それは即ちもうぼく達と会えないということだろう、

「会え、ないんだ…そっか…」

空っぽになる感じだった、ショックで声も涙も出なかったきっと椿季と陽平だってそうだと思う、大事な友達がもう二度と会えないかもしれないのだから当たり前かもしれない。

「でも、絶対みんなのこと忘れないから。寂しいけど…ずっとオレと友達でいてくれる?」

人目もはばからず輝斗は嗚咽まみれにボロボロ泣いた。

輝斗の後にぼくと陽平もボロボロ泣いた。

椿季は目を逸らしていたけど、耳と頬が真っ赤になっていたから多分椿季も泣いている。

「当たり前だろ…」

そう言う椿季の声は震えて途切れ途切れだった。

ぼく達も大きく頷いた。

輝斗の涙に夕日が乱反射して、輝斗の笑みを掠めていた。

その笑みを見た時、「いかないで」なんて声が嗚咽に紛れて零れてしまいそうになり口を抑えた、せっかく輝斗が勇気を出して話してくれたのにそんな自己中なこと言えるわけが無い、椿季も陽平も口元を隠している、各々言いたい事があったと思う、

でもその日の帰り道ぼく達は誰一人として輝斗の引越しに関する話題を出さず、みんなで他愛もなくてしょうもない話をした、そんな話をするみんなの顔はとても愛おしかった。


次の日ぼく達はいつもより早く家を出て輝斗の家に向かった、ぼくは昨日の夜決心した。

輝斗が引っ越すのは家庭の事情だからきっとぼく達じゃどうすることも出来ない。

だったら何ができるか、ぼくは残された輝斗との時間を四人でめいっぱい使い果たそうと思った、それは椿季と陽平にも伝えてある、二人も二つ返事で了承してくれた。

幸い今は夏、一週間後には夏休みだ、なんだってできる、だからぼくはこの夏をめいっぱい使い果たしてみせる。

それで、最後は輝斗をもう一回笑って見送れるようにしよう。

そう寂しさを隠しながら、月山と書かれた表札横、ベルのマークのついた古いインターフォンを勢いよく押した。

乾いた押打音の後ピンポンと音が鳴ったが待てど暮らせど足音とドアの開く音は聞こえない。

三人で顔を見合せ流石におかしいと思ったぼく達は再度インターフォンを押したあと声を合わせ「すいません」と叫んでみた。

すると家の奥からバタバタと音がしたして数秒後ガチャりとドアが開いた。

そこに現れたのは輝斗ではなく、輝斗のお母さんだった、

「薙ノ太君達おはよう、出るのが遅くなってごめんなさいね。」

輝斗のお母さんは輝斗の弟の和斗おと君を抱き、昔と変わらない物腰柔らかな声でぼく達に言った。

「おはようございます!」

椿季の無駄に元気な声が響く、輝斗のお母さんは元気な椿季にニコニコしていた、だけど椿季の

「輝斗居ますか?」

このたった一言に輝斗のお母さんは一瞬目を細め息を吐いた、体がぞくっと震え全身から血の気が引いたような気がした。

「ごめんなさいね、あの子今日寝坊しちゃって。用があれば伝えておくわ」

どことなく怒っているように見え、怖くもある、正直に言うと昔怪談の本で読んだ怪異の様だ。

けどそれはぼくだけが感じたようで椿季も陽平も普通な顔してニコニコしながら輝斗のお母さんに用件を伝えていた。

このぼくだけが感じた恐怖の正体は分からないけど、それ以上に輝斗が心配で堪らなかった。

用件を伝えた椿季と陽平は先に行こうとぼくの手を引いてくれ、学校には行けたが、輝斗の心配と朝の恐怖で一日の半分は保健室に居た。


その日受けた授業の内容はぼくの頭には入ってこなかった。



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