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#インフルエンサー
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「……完璧。これなら、いける」
鏡の中の自分に、私は最後の魔法をかけた。
真っ赤なリップは、強気な「主役」の証。
目の下の隈は厚いファンデーションで塗りつぶし、最高の微笑みを作る。
ネットはまだ燃えている。
でも、この試写会で
「あれはすべて映画の演出、壮大なプロモーションでした」
と涙ながらに言えば、きっと信じる奴はいる。
「自分を悪役に仕立ててまで、イジメの悲劇を伝えたかった」
……そう言えば、私は聖女にだってなれる。
「美玲さん、時間です。会場は満員ですよ」
楽屋のドアを叩いたのは、あの「監督」だった。
相変わらず顔は隠しているが、その声には、獲物を追い詰めた猟犬のような悦びが混じっていた。
「分かってるわよ。……ねえ、あんた。この映画、ちゃんと『最高に』編集したんでしょうね?」
「ええ。あなたの望み通り、誰もが目を離せない、衝撃的な映像になりました」
私は胸を張って、まばゆい光が漏れるステージ袖へと向かった。
会場に入った瞬間、地鳴りのような歓声と、数えきれないほどのカメラのフラッシュが私を襲う。
……そう、これよ。この光こそが、私に相応しい。
ステージの中央に立ち、私はマイクを握った。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます。……SNSでの騒動、ご心配をおかけしました。でも、すべてはこの『真実』を皆さんに届けるための、命がけのパフォーマンスだったんです」
会場が、静まり返る。
よし、掴んだ。
「私が演じた『最悪の女』。それは、今の社会に潜む闇そのものです。……さあ、ご覧ください。私のすべてを捧げた、魂の記録を!」
私はドラマチックに片手を振り上げ、スクリーンを指し示した。
会場の照明が落ち、完全な暗闇が訪れる。
「……?」
不自然なほど、長い静寂。
数秒後、巨大なスクリーンに映し出されたのは、美しい映画のタイトルロゴ……ではなかった。
『2012年12月24日。屋上の未公開ログ』
真っ黒な画面に、白い文字だけが浮かび上がる。
それを見た瞬間、私の心臓が、一度止まった。
「な、何よ……これ。こんなの、台本に……」
スピーカーから流れ出したのは、風の音。
そして、当時私が面白半分で自分のスマホで撮影した
あの子が泣き叫び、フェンスに手をかける、生々しい「本物の」映像だった。
「?!やめて!! 消して!!」
私はスクリーンに駆け寄り、映像を隠そうと両手を広げた。
でも、無慈悲な光は私の体を通り抜け
あの子の絶望的な顔を
会場にいる全員の網膜に、そして配信先の何百万人もの画面に、巨大に映し出した。
「美玲さん、動かないで。今、最高の視聴率を記録しているんですから」
背後の暗闇から、監督の冷笑が聞こえた。
会場からは悲鳴と、そして私を拒絶する怒涛のような怒号が巻き起こり始めていた。