テラーノベル
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第39話
初めてだ。こんな、親切に、守ってくれるように見られるなんて……
不本意に涙が溢れた。手を差し伸べられていて失礼だけど、唇を噛み締めて泣いてしまった。負けに対しての悔し涙では無い。自分がこんな事も知らなかった人間に気付いたから。
「分かりますよ。貴方が今まで会った中で一番強いんですから……心配される事、無かったんですよね。私も、同じでした」
そう言いながら彼女は、僕の涙を拭ってくれる。
「だから、貴方は強くなれる。負けを経験しないと、強くなれない……そうだと思うんです」
『私は、何度も負けていますから』と、寂しそうに微笑んだ。
僕は、差し伸べられた手を取りながら「君……いや、セリーナ。ありがとう」と黒髪を撫でた。
近くで見るとその黒髪は、ローベルト様やマルティン様とはまた別種。ローベルト様たちも、セリーナも真っ黒だけど、何か魔力というか……何かが奥にある。
「この黒髪、色を落とすと、私の最大出力になるんです。誰にも言っていませんけどね。大き過ぎて、私にも扱えませんでしたから」
僕にしか聞こえない声のボリュームだった。この訓練場は、外からの魔法や魔力は通さない仕組みの結界が張られている。
僕は悟った。それは最終手段で、僕を信頼してくれたから言ってくれたと。
最終手段で、何度か命を落としていると……
「そうか……疲れてるだろ。戻るぞ」
「はい」
そう言って一歩、歩き出した彼女の姿が見えなくなった。
……否、倒れたのだ。
あれから彼女は運ばれて行ったけれど……魔力の過激消費が主な要因だって。他にも、急激な血圧低下、身体の中の栄養が使われ過ぎとか……何か難しい事を言われた。
ま、一時的にって事は、言われなくても分かる。そんなに馬鹿では無いからね。
「僕、負けたのも初めてですけど、優しさを向けられたのも記憶に無くて……嬉しかったんです」
そう、呟くと赤髪の人が深い海のような瞳で意外そうな顔をされた。
だろうね。こんな僕が、あれで嬉しいなんて……
「記憶に無いって事は、初めてでは無いんだな。その温もりが」
「そうですね。どこか懐かしくて、どこか怖くて……手を差し伸べられても、直ぐに取れなかった……」
そこまで言うと目の前から「ふふっ。その割には、ませた子供のように泣いていたですけどね」とセリーナが起き上がっていた。
「ノアには言ったかもしれないけど、私って特殊体質で、時々血圧が低くなるんです」
『心配かけてごめんなさい』と頭を下げられた。
セリーナ以外固まった。ノアと言われる獣人も知らなかったみたい。
「あれ? 言ってなかったっけ……」
セリーナは、淡々と原理を語り始めた。簡潔にすると、『大きな力には、それそうの対価が求められる。自分の特殊体質の反動に耐えられなくて、何度か死んでる』と言う説明……いや、死ぬってスケールが大きいって。
それに、魔力は解呪した時以来だと言う。どんな強い呪いだよ?
「いや、解呪したのって、割と最近なよう――痛っ」
獣人がセリーナに頭を殴られて頬を膨らませている。
いや、そんな動いていいのか? ……一応、さっきまで倒れてたからね。
やっぱり、生きる次元が違うんだと思う。でも、それについて行っている他の人も凄い。
「むぅ……あのくらい二日に一度しないと、体がなまるの。だから、死ぬとかあり得るんだから……」
セリーナは途中から、あのテンションは無くなった。
「でも、私の呪いの一種は最強だけど、後始末が大変だから、さ。先に言っときますが、何かあったときは頼みますよ」
寂しい顔で、微笑んだ。無理矢理口角を上げて、黒い瞳には、一切光が灯っていない。
気まずい空気が流れた。でも、セリーナは、泣きたかったのだろうけど、泣いていない。
「……初めて合ったのに、良くそんな事を言えるな」
この空気を壊すように口をひらいた。もう、耐えられなかった。そう言い表した方が正しい。
「貴方の魔力、とても透き通っていて、分かりやすいんですもん。貴方が悪くない人いう事は最初から分かっていましたよ」
『転生のエキスパートを舐めないで』とでも言ってるようだった。
そっか……分かってたのか……
「大丈夫だ。リナの言う事はいつも想像を超えてくる」
ニルスと呼ばれる青とも、緑とも言い表せない感じの瞳を持つ人が僕よ肩をポンポンと叩いた。
「……そうですね。あ、申し遅れました。ライナーと申します」
僕はそう言って軽く頭を下げた。
コメント
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「こんな、親切に、守ってくれるように見られるなんて……」という主人公の独白からもう、じんときました。強者の淋しさ、弱さを認め合うふたりの距離感が本当に繊細で。セリーナが「負けを経験しないと強くなれない」と寂しそうに笑うところ、私はあの一文が一番好きです。焦らさずそっと心を開く感じが、物語の空気にぴったり合っていました。次も楽しみにしていますね🌷
#魔道具職人
こはる
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