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普通分娩と帝王切開、どちらを選べと言われれば誰だって普通分娩を選ぶだろう
だが、私はその選択をできなかった、帝王切開でお腹を切ってからすでに2か月が経とうとしている。それなのに、トイレで「大」を気張るたびに腹の底に力が入らない
傷口が引きつれるような痛みが走り、まるで体が自分のものではないかのようだ、トイレにこもる時間は異様に長くなる、こんな状態で家事などできるはずもなく、私は今も康夫の家には帰れず、実家で母と父に世話になっている
子供達、正美と斗真の幼稚園の送迎は父がやってくれる。母は家事をこなして私を気遣ってくれる、両親への感謝は尽きない、そしてもし今、康夫のいるあの家に戻ったら、私は何もできないだろう
このお腹の痛みは、まるで永遠に続くのではないかとさえ思う、心のどこかで、別の不安が疼く、この痛みは体の傷だけではないのかもしれない、今は午後三時、実家の静かなリビングに、赤ちゃんの小さな寝息が響く
母は子供達を幼稚園に迎えに行き、父はついでに公園に連れて行ってくれるという、私はこの一時の静寂を、まるで嵐の前の静けさのように感じていた
そこへ康夫がやってきた、赤ちゃんに会いに3日に一度は彼はこうして実家を訪ねてくれる彼私の心は毎回その足音を聞くたびに胸が締め付けられる
「この子、色が白いなぁ~・・・」
康夫が赤ちゃんの小さな顔を覗き込みながら穏やかに呟いた、その声は優しかったが、私はその一言に背筋が凍る思いがした
彼の目は赤ちゃんの顔をじっと見つめている、その目には赤ちゃんへの愛情が溢れている
「そう? 正美も斗真も、生まれたばかりの頃はそんな肌色だったわよ」
私はなんとか平静を装い、笑顔を浮かべた
だが、心臓は激しく鼓動していた、声が震えていないか、自分で確かめるように言葉を続けた
「ハハッ、今はアイツら真っ黒だけどね」
康夫は笑い、赤ちゃんを膝に抱いて優しくあやす、その姿を私は息を詰めて見つめた、彼は今はあの家で一人で暮らし、こうして定期的に私達に会いに来てくれる
毎日顔を合わせないからか、それとも赤ちゃんが生まれたからか、最近の私達は喧嘩すらしていない、康夫はいつも優しくいたわりの言葉をかけてくれるので喧嘩をする理由がない