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とりあえずと乾杯だけは済ませてお互いに酒を1口飲み下し、3人にも酒を勧めると《俺作るよ。》と遠回しに見守れというように率先してラウと場所を替わる照さん。
やっぱ連れてくるんじゃなかったかな、と多少の気まずさを感じながら、俺は重たい口を開いた。
「その…翔太ごめんね?ここはミックスバーって言って、色んなセクシャルの人が働いてるバーなんだよ。」
「はーん。なるほどね。」
「「「えっ?」」」
思わぬ理解までの速度に肩透かしを食らうと、ラウともママとも目が合う。
きょとんとして一人ひとりに目をやる翔太に、先程の勘違いらしき箇所を指摘した。
「念のために言うけど、パンは食べるパンじゃないからね?」
「あーうん。知ってる。ここがミックスバーって聞いたから、そっちの意味かって。」
「…理解が早いね?」
「そう?この時代なら知ってて当たり前の知識だと思ってた。」
その翔太の言葉に、込み上げる涙を我慢するように口元を抑えて真っ先に反応したのは、
「……うぅっ…。」
「どうしたのママ?二日酔い?」
「今このタイミングで出るかぁ!感動してたんだわ!」
《涙引っ込んだわ…もう…。》と小ボケをかましてきたラウの腕をぺしっと軽く叩くママは、俺に向かって優しく微笑んだ。
「でも舘様、理解ある幼馴染で良かったね?」
「あっ、ママちょっとそれはまだ──」
「「あ。」」
慌てて遮るも時既に遅く。店子2人の声を最後に一斉にママへ視線が集まり、店内がしんと静まり返った。
「えっ?…、あら?」
「………ママ、ご法度じゃん。」
「ご、ごめん…それだけ理解あるならって、てっきり…っ痛ぁ!ちょっ、痛いって!ごめん!!」
溜息を吐くように呟く俺に、おろおろするママ。照さんとラウにシバかれているのを横目に俺は翔太の方へ身体ごと向けた。
翔太は真顔で俺をじっと見つめている。その眼差しにどのような感情が含まれているのか、全く解らない。緊張に息が詰まる。少しでも落ち着かせるように小さく息を吐き、俺は告白を始めた。
…顔の変化が怖くて、俯く形でにはなってしまったけど。
「翔太。黙っててごめん。俺、実はバイ…でさ。でも俺にとって翔太は大事な幼馴染だから、そういう目では…見てないよ。」
「やっぱり?」
そう落とされた声に、ゆっくりと翔太の顔色を窺う。特に変化は無かったけど、雰囲気に柔らかさがあるように思えた。回答に驚いたのは俺だけでなく、カウンター越しの3人も動きを止めて翔太を見ていた。
「何となくだけど知ってたかも。別に聞き出すことでもないって思ってた。…俺は女の子しか無理だけどさ。」
全員からの視線に全く気にすることもなく右手で頬杖をついては、にっこりといつもの笑顔を俺に向けて続けた。
「別にいいんじゃないの?涼太は涼太だよ。恋愛対象なんて規格の決まった付属品みたいなもんだろ。」
「…翔太…ありが、」
「「~~~っめろーーーーーい!!」」
静かな店の中での唐突な大声2つに、俺も翔太も肩が跳ね上がる。黙らせるように素早くママとラウの頭を叩く照さんは叱責する。
「「痛いよ!」」
「お前らうるさい!雰囲気台無し。舘くんごめん。もうマジでコイツら…。」
寄せた眉根を抑えるように右手を添え、謝罪してきた彼といつもの店内を取り戻せたことに小さく笑いながら、手をひらひらと横に振って問題ないことを示した。
「っふふ、大丈夫。照さん含めてそういうところがこの店の良さでしょ?それにママ、」
自分が悪いとはいえ、怒られっぱなしで半ば拗ねている『彼女』を慰めるように微笑みかける。
「実は俺、今日言うつもりだったんだ。きっかけは褒められたものじゃないけど、逆に良い機会になったよ。ありがとう。」
「舘様……。
付き合」
「絶っ対無い。」
感謝の言葉の後でふかママの発言を予測していた俺は、浮かべていた笑顔のままでばっさりと丁重にお断りした。
「ねぇー!せめて最後まで言わせてよぉ!」
隣で豪快な笑い声をあげる幼馴染を一瞥すると、入店前の躊躇いとは真逆の気持ちが込み上げる。
(ここに連れてきて…話せて。何より翔太が何も変わらないでいてくれて、本当に良かった。)
と、心から、そう思った。
酒の準備ができた3人を含めて改めて乾杯をし、すっかり緊張が解けた翔太も交えて和やかに会話をしていると、強引に開けられたドアと共にベルが荒々しく鳴り響いた。
振り返ると、店子の1人である女性が息を切らしている姿があった。
「どしたの?買い出しは?」
「ママ、!俺、…ヤバいの手に入れたかも!」
スマホを掲げて大慌てでカウンターへと駆け寄ると、《舘様こんばんは…!》と『彼』は息を整えながらママを隅へ呼ぶ。
「えぇ、何ー?イケメン撮れた?」
「それもある、けど!さっき『あっち』で撮ったやつ…これ観て。」
ニヤニヤしながらママが隣についたのを確認し、スマホをタップする。すると、音量設定がそのままになっていたのか、大音量で流れる動画の音。周りの会話の雑音の中、耳に飛び込んできたのは、
『何してんねん!!』
関西弁と特徴的な声に、俺も翔太もグラスを傾けていた手がぴたりと止まる。
「あ、やべっ音デカ、…すみません!」
こちらへ頭を下げて、一気に落とされた音量。それでも、聴こえてしまったものは取り返せない。ちらりと翔太の方を見ると、思ったことは一緒だったようで。
「…涼太も、思った?」
「うん、今のって…いや、でも音質的にたまたまそう聴こえたのかも。」
「ま、それもそうか。」
頭ではそう思っているけど、さっきの声が耳に残っている。少し前まで会っていたんだ。聴き間違えるはずがない。
──康二が、この街に来ている?
あっさりと会話に戻り楽しむ翔太と照さんとラウに相槌をうちながら、その耳はママと彼の会話に意識を向けた。